大先達は真言を唱えながら
乳木を新客の数に合わせて数え
次々と護摩炉に投じます。
その度に新たな炎が窟内を
ことさらに明るく照らし出します。
潅頂が終わると新客たちは
先達から声をかけられて
煙の立ち込める窟内の空気の中を
沁みて涙を流す目を凝らしながら
両手を組む一つの印を授かります。
そうして先達は箱の中から大切そうに
小さな塊を一つ一つ各自結んだ印の中央に
「落とさないように」と言いながら置いていきます。
儀式の説明がなされるわけでなく
まして暗闇の煙った中でのこと。
なにが授けられたやら・・・
「これはお山とあなたをつなぐ大事なものです」
「できれば肌身に離さず持っておかれたらよいでしょう」
「もうあなた方はこのお山とご縁ができました」
それは黒い小さな斑を持つすこしごつごつした
花崗岩の直径1センチに満たない小礫でした。
まさに山の一部。
修験道は大地とともに生きるための宗教でした。
これで長くも短い今年の宝満の峰入りは終了しました。