あの人とこの人
さっきからあの人のすがたがみえない
さっきからこの人はここにいるのがみえる
あの人はなん時にかえるからと伝言して
もう一時間も前にとことこあるいていったそうだ
この人があの人から聞いたといまごろしらせてくれた
用事があるのはあの人のほうだが
用事のないこの人のほうがめのまえにいる
あの人がかえってくるのをまっていたら
この人はいつまでめのまえにいるつもりなのだろう
ふんわりとしたかすみがあたりにたちこめてきて
あの人もこの人もみえなくなった
あの人はどこかへいったのだからみえないのは当然
でもこの人はめのまえにいるのが当然
当然がいなくなったのだ
すると当然とはなんだろう
ひるまはあかるく
よるはくらいということか
でも洞窟のなかはいつでもくらい
当然とはそういうものだ
つじつまがあわないこと
つまりこくこくとかわるすがたが
当然なのだ
だから当然でないのも当然という
そして当然であるのも当然でないという
言語はなんだかややこしいものなので
泥細工みたいにおもしろいものなのだ
あとでかならず手をあらってくださいね
泥だらけはよくないからね