Holiday
林檎の實をもった男の子
蛇を手首にまきつけた女の子
男の子は熟れきった真っ赤な林檎の實を
女の子の美しい蛇ととりかえっこしようと
女の子のあとを追っているのだ
女の子はながい間飼育した
レオナという名の南国の
瑠璃色の肌をしたその蛇は
だれにも渡したりすることはできない宝物なのだ
男の子の手にした林檎の實は
これも玲瓏とした美しい球体なのだ
爛熟した林檎の實にふさわしい
深く沈んだ、それでいて透きとおるような赤色だ
そのうち女の子の瑠璃色の蛇は
するすると女の子の胸の中へ
眠るためにかくれ
女の子は胸を両腕で抱えながら走った
男の子は手にした林檎の實を
思いあまって女の子に投げつけた
そんなことはわかっていた
林檎の實は走る女の子のずっと手前の石にあたって
ぽっかりわれた
芳しい薫がその場のヒロインになった
女の子は瑠璃色の体積を林檎の破片の上に
そっとのせた
艶やかなフィーリングと
密やかなワイルドが
男の子と女の子の間を
しばらく行き来した
それから
風景はフェニックスのように
濃い夕闇のなかへとびさった
キラッともえながら
新羅の森
おまえあそこえいったか
亡霊が住んでいる森へ
アソボ-くんがそういった
アソボ-くんはしっている
いつも下草のなかを
ひょいひょいとバッタの様に
あるきまわる
その朝はやく
アソボ-くんがやってきた
きょうのアソボ-くんは
小脇にノートブックを一冊抱え
さあ 出発!と小声で言った
出発ってどこえ?
アソボ-くんは言った
点検にいくんだよ
あの森を
少し低音でそう言った
大勢の昔の人々が
何かを語り合い論じ合っていた
ノドが乾くと下草の上の
すき通った玉露をのみながら
その議論はたちまち高熱をはっして
森の大樹がごーっとうなった
アソボ-くんはその記録を
手にしたノートブックに書き留めた
次の日アソボ-くんが
行方不明になった
僕の机のうえにいつの間にか
アソボ-くんのノートブックがおいてあった
*新羅の森・・・新羅三郎の塚のある円城寺の山麓の森
ヨ-コ
ヨ-コは
深い溝を
とびこえて
ふりむいて
大口あけて笑った
さながら笑う般若だ
ヨ-コは
そのまま荒野の方向に走った
向かい風のなかに
草いきれと
蒲公英の種が翻る
生温い日差しをこえて
ヨ-コは
画きかけのデッサンのはいった
バッグをふりまわしながら
ドシラ ドシラ とうたいながら
これからみる夢の本がまちどうしくて
夜明けの鳥のような足踏みをした
ヨ-コは
白い額縁のなかの
最前列のシートにすわって
こちらをみはじめた
額縁のそとの風景は
現実の物事であふれていた
ヨ-コは
ステージのほうへ向きなおり
開かれて行くページを
何一つみおとすまいと
夢の本を写し取った
カイトにして飛ばすために
ヨ-コは
こちら向きになって
額縁からはいだした
シュールなデザインのカイトが
荒廃した黒い空を水平線までおしやって
金襴緞子の布にした
ヨ-コは
花嫁になったのだろうか
風の便りがくるのを待とう
150人のうちの13人
少年たちは
いろいろの世界で
ちがっているようでちがっていない
時代をいきてきて
全員150人のうちの13人があつまった
杖をつき眼鏡をかけ足下は ヨロヨロ
大きな声で話しをちいさなへやにまきちらす
まいた話は
ほんとうにあったこと
13人が同意できる迫力があるものばかりだ
あの戦争が150人にかぶさってきて
闘った話だが
被害者意識はまったくない
アッケラカンとしている
平和になってからの話は
殆どしない
150人がそろっていきていたころ
そのころがひたすらになつかしいのだ
あまりかわってないな
青春と老春が
となりあわせで
つまんだ昔をたべていた
羽根
鳥の羽根に気分をのせて
クルクル回る
かぜをたよりにとんでゆく
流れに浮かんでみてもよい
水のクッションではずみながら
中の島の橋を通過
今日の水のいろは
フカミドリ
ときどきコガネイロ
サンシャイン
ムーンライト
ネオンのかけら
夜の羽根が
さっきとおりすぎた
つめたい風にのって
きょうは羽根の記念日
みんなふんわりと
とんでいった
それから
白鳥を乗せた観光船が
ゆっくりと通っていった
川面が真っ白になった