それはまるで…森林の中に屋形町を作ったのか…とでも思いたくなるような光景だった。
遠くからでも点々と見えるのは裁きの一族の本家とその身内や関係者の屋敷だという。
旧家らしい趣のある風情の建物が多く、庭なども佳く造られていた。
勿論…本家の屋敷は群を抜いて壮麗な造りで、母屋を始めとして幾つもの建物から成っており、それぞれの規模もかなり大きなものだった。
広大な林の中の切り開かれたところに手入れの行き届いた芝の庭園が造られてあって…その奥の垣根越しには素人目にも秀抜だと判る広い日本庭園が見えた。
西沢は前にも幾度か訪ねて来ているし、滝川は旧家育ちで場慣れしているが、ノエルはこの前みたいに会議場などではなくて…偉い人の屋敷へ直接参上するなどという経験はしたことがなく…ひどく緊張していた。
西沢の養家である西沢本家も規模は大きいが、現代風の西洋建築なので気分的には敷居が高くても、見た目にはそれほどの抵抗感はない。
けれども…宗主の屋敷は如何にも名家然と厳めしく、足を踏み入れるのに何となく気が引けた。
案内された洋間にはすでに智明が来ていた。
不思議なことに吾蘭は智明を見ると嬉しそうに駆け寄って行き…まるで古くからの知り合いのようにそっと手を取った。
大きくなったわねぇ…アランちゃん。
前に見たときはまだちっちゃな赤ちゃんだったのに…。
嬉しいわ…私を覚えててくれたのねぇ…。
智明はしっかりスミレの口調で吾蘭に話しかけた。
吾蘭はにっこり笑って頷いた。
「へぇ~すご~い。 アラン…まだ生まれたばかりの時にスミレちゃんに会ったきりなのに…。 」
ノエルは素直に驚いた。
そんな馬鹿な…西沢と滝川は思わず顔を見合わせた。
いくらなんでもそれは有り得ない…。
けれど…吾蘭は楽しげに智明と会話する…まだそれほどちゃんとした会話にはなっていないけれど…。
その親しさは…毎日のように会っている滝川と比べても劣らない。
どう…考えるべきか…。
西沢も滝川も答えにつまった。
扉が静かに開かれて…宗主とお伽さまが姿を現した。
その後から立会人と思われる数人の能力者が順序良く並んで入ってきた。
彼等は代々引き継がれている天爵ばばさまの魂と智明の魂との違い…を見極めるために呼ばれた霊能力者…のようだった。
最後尾の男と目が合った時、男と西沢はお互いに思わず…あっ…と叫んだ。
「紫苑…どうして…? ええっ? 木之内…って…紫苑のことだったのか? 」
あの…金井だった。
ロケで知り合って以来…飲みに行ったり…電話で話したり…友達付き合いをしていながら…お互いに相手の能力に気づかないまま…。
「そう…実家の名前なんだけど…金井こそ……全然…判らなかった…。 」
そう言えば…添田が同郷の友人だと言っていた。 そこで気付くべきだったのかなぁ…。
添田は多分…西沢たちの能力には触れず…ノエルが襲われたという話だけを金井に聞かせていたのだろう。
お互いにのんびりした性格と言うか…何処か抜けてると言うか…。
取り敢えず敵意のない相手だから全然探りも入れなかったし…。
次元の異なる能力でもあり…普段…気配消しているってのも確かにあるけど…。
ふたりは顔を見合わせてぷぷっと噴き出した。
声をあげて笑い出したいのをどうにか堪えた。
場所が場所だけに大声で笑い転げるわけにもいかなかった。
「太極の化身よ…時間がかかるかもしれないから…クルトはこちらで預かろう。
この人は我が家の子育て名人だから…安心して任せてくれ…。 」
来人を抱えていたノエルに宗主がそう声をかけた。穏やかな笑顔の中年の女性がノエルの方に近付いた。
まったくの他人に面倒を見て貰うのは初めてなので、ノエルは少し不安げに来人をその女性に渡した。
「では…そろそろ…始めよう…。 」
立会人になっているのは…霊的な能力に長けた家門から特に選ばれた代表者たちで正道・鬼道を問わず…かなりの炯眼の持ち主ばかりだった。
「天爵ばばさまのお話しを伺う前に…少しだけ…アランに訊きたいことがあるのだけれど…アラン…こちらへ来てくれますか…? 」
全員が指定された席についたところでお伽さまが意外なことを言い出した。
西沢の膝の上に大人しく座っていた吾蘭は、どうしていいのか判らず、西沢の顔を心配そうに見つめた。
「アラン…お伽さまがアランとお話したいんだって…あそこの椅子に乗っかってお伽さまのお話伺って来てご覧…。 」
はい…と返事をすると吾蘭は西沢の膝を降りてちょこちょこと駆けて行き…お伽さまの前の椅子によじ登った。
「よく来たねぇ…アラン…。 」
お伽さまが優しく微笑んだので吾蘭もにっこり笑った。
「あのね…アラン…。 さっき…アランが…天爵さまに会った時に…アランには何が見えたの? 」
てんちゃくちゃま…? 誰…というように吾蘭は首を傾げた。
お伽さまは智明の方を指差した。
「おねえたん…。 」
お姉さん…? アランの知ってる人…?
お伽さまは訊ねた。
「うん…。 」
どんな人…? アランと仲良しなの…?
「うん…。 おちゅげのおねえたん…。 」
お告げの…? 麗香さんのことかな…?
何処で会ったの…?
吾蘭はちょっと首を傾げた。
「あちゅい…。 」
熱い…? 何が熱いか分かる…?
「あめ…。 ぜんぶ…しんじゃう…。 こわいねぇ…。 」
雨…それは怖いねぇ…。
どうして…熱い雨が降ってきたんだろうね…。
「わるい…かいぶちゅ…やっちゅける…って。 」
ほう…怪物か…それは大変だ…。
それで…アランは…どこに居たの…? 何をしていたのかな…?
吾蘭はまた首を傾げ…何か言おうとした途端…突然…固まった。
大きく眼を見開き…顔色も真っ青だった。
「逃げなさい…早く…私はもう先へはいけない…。
おまえは逃げて…逃げ延びて…この悲劇を…真実を伝えなさい…。
奴等を信じてはいけない…。 奴等は神の名を騙る悪魔…。 」
大人たちは総立ちになった。
吾蘭の口からとんでもない言葉が飛び出した。
二歳に満たない子どもの口調ではなかった。
聞いていた智明の顔も蒼白になった。
まさか…まさか…これは…?
立会人たちがざわめき出した。
何かの憑依現象か…。 いや違う…霊の気配はなかった…。
しかしこれは…幼児の使うような言葉ではないぞ…。
吾蘭は呼吸もままならなくなったようで、そのまま痙攣して気を失った。
お伽さまは急いで駆け寄った。
吾蘭の胸の辺りに手を当てると何やら文言を唱えた。
瞬間…吾蘭は大きく息を吐いた。
優しく抱き上げて西沢のところに運んできた時にはすでに呼吸も顔色も普段どおりに戻っていた。
「紫苑…ノエル…申し訳ない…。 随分と心配したでしょうね…。
アランに大事はありませんが…かなり疲れていると思います。
滝川先生…お手数ですが…アランを看てあげて下さい…。 」
お伽さまはそう言って吾蘭を西沢に手渡した。
すぐに滝川が西沢の腕から吾蘭を受け取った。
「お伽さま…今のは…吾蘭の潜在記憶…なのでしょうか…? 」
西沢はそう訊ねた。 お伽さまは頷いた。
「はい…私はそのように思います…。
立会人たちが戸惑っているように…これは御霊の仕業ではありません。
記憶が吾蘭の口を借りたのです。
HISTORIANが怖れているものとは…アランの持つ潜在的な記憶にあるのではないかと私は思うのです…。
他の潜在記憶保持者にはない…何かが…彼等を招きよせる…。
その記憶を消すためにアランを狙うのではないかと…。 」
アランの記憶の中にHISTORIANにとって不利な記憶があるというのか。
御使者たちが…もしかすると奴等は端からわが国を狙っていたのかも知れないと連絡をくれたが…それと何か関わりがあるのだろうか…。
「アランはまだ幼過ぎて瞬間的にはあのように言葉が飛び出ては来るものの…まとまった話をすることができないのです。
今は断片的な内容を繋ぎ合せるより他に方法がありません。
体力的にも短い時間に限られてしまいますから…なかなか全容を解明することは難しいでしょう。
もう少し年齢が上なら…すぐにでも分かるのでしょうが…。
彼等が慌てているのも…おそらくはそういう年齢に達してすべての記憶が明らかになる前にアランから記憶を消したいと考えているからでしょうね。 」
お伽さまはそれだけ話すと軽く会釈してもとの席へと戻っていった。
「立会人…どうかね…? 何か今の現象で…宗主側がトリックなどを使って誤魔化していると感じられるところはあるかね…? 」
宗主はまだ興奮覚めやらぬ立会人たちに訊ねた。
全員…いいえ…と答えた。
「宜しい…。 では…天爵さま…席を移って頂けるかな…。 」
促されて智明は立会人と向かい合う席へと移動した。
「化身…こちらへ…。 」
お伽さまが先ほどまで吾蘭の座っていた椅子を智明の隣に並べた。
ノエルは示されたその椅子にかけた。
「おふたりとも背もたれを倒して楽になさってください。 」
言われるままに…背もたれをを倒した。
ふたりとも緊張の為に…椅子に身を預けて楽…というよりは逆に身体が浮くような居心地の悪さを感じていた。
お伽さまはふたりの正面の位置に床に直に腰を下ろした。
大きく息をすると…深々と一礼してから…何やら文言を唱え始めた。
祭祀の開始を告げているようだった。
お伽さまの舞う如く美しい所作と共に…今…謎解きの儀式は始まった。
次回へ
遠くからでも点々と見えるのは裁きの一族の本家とその身内や関係者の屋敷だという。
旧家らしい趣のある風情の建物が多く、庭なども佳く造られていた。
勿論…本家の屋敷は群を抜いて壮麗な造りで、母屋を始めとして幾つもの建物から成っており、それぞれの規模もかなり大きなものだった。
広大な林の中の切り開かれたところに手入れの行き届いた芝の庭園が造られてあって…その奥の垣根越しには素人目にも秀抜だと判る広い日本庭園が見えた。
西沢は前にも幾度か訪ねて来ているし、滝川は旧家育ちで場慣れしているが、ノエルはこの前みたいに会議場などではなくて…偉い人の屋敷へ直接参上するなどという経験はしたことがなく…ひどく緊張していた。
西沢の養家である西沢本家も規模は大きいが、現代風の西洋建築なので気分的には敷居が高くても、見た目にはそれほどの抵抗感はない。
けれども…宗主の屋敷は如何にも名家然と厳めしく、足を踏み入れるのに何となく気が引けた。
案内された洋間にはすでに智明が来ていた。
不思議なことに吾蘭は智明を見ると嬉しそうに駆け寄って行き…まるで古くからの知り合いのようにそっと手を取った。
大きくなったわねぇ…アランちゃん。
前に見たときはまだちっちゃな赤ちゃんだったのに…。
嬉しいわ…私を覚えててくれたのねぇ…。
智明はしっかりスミレの口調で吾蘭に話しかけた。
吾蘭はにっこり笑って頷いた。
「へぇ~すご~い。 アラン…まだ生まれたばかりの時にスミレちゃんに会ったきりなのに…。 」
ノエルは素直に驚いた。
そんな馬鹿な…西沢と滝川は思わず顔を見合わせた。
いくらなんでもそれは有り得ない…。
けれど…吾蘭は楽しげに智明と会話する…まだそれほどちゃんとした会話にはなっていないけれど…。
その親しさは…毎日のように会っている滝川と比べても劣らない。
どう…考えるべきか…。
西沢も滝川も答えにつまった。
扉が静かに開かれて…宗主とお伽さまが姿を現した。
その後から立会人と思われる数人の能力者が順序良く並んで入ってきた。
彼等は代々引き継がれている天爵ばばさまの魂と智明の魂との違い…を見極めるために呼ばれた霊能力者…のようだった。
最後尾の男と目が合った時、男と西沢はお互いに思わず…あっ…と叫んだ。
「紫苑…どうして…? ええっ? 木之内…って…紫苑のことだったのか? 」
あの…金井だった。
ロケで知り合って以来…飲みに行ったり…電話で話したり…友達付き合いをしていながら…お互いに相手の能力に気づかないまま…。
「そう…実家の名前なんだけど…金井こそ……全然…判らなかった…。 」
そう言えば…添田が同郷の友人だと言っていた。 そこで気付くべきだったのかなぁ…。
添田は多分…西沢たちの能力には触れず…ノエルが襲われたという話だけを金井に聞かせていたのだろう。
お互いにのんびりした性格と言うか…何処か抜けてると言うか…。
取り敢えず敵意のない相手だから全然探りも入れなかったし…。
次元の異なる能力でもあり…普段…気配消しているってのも確かにあるけど…。
ふたりは顔を見合わせてぷぷっと噴き出した。
声をあげて笑い出したいのをどうにか堪えた。
場所が場所だけに大声で笑い転げるわけにもいかなかった。
「太極の化身よ…時間がかかるかもしれないから…クルトはこちらで預かろう。
この人は我が家の子育て名人だから…安心して任せてくれ…。 」
来人を抱えていたノエルに宗主がそう声をかけた。穏やかな笑顔の中年の女性がノエルの方に近付いた。
まったくの他人に面倒を見て貰うのは初めてなので、ノエルは少し不安げに来人をその女性に渡した。
「では…そろそろ…始めよう…。 」
立会人になっているのは…霊的な能力に長けた家門から特に選ばれた代表者たちで正道・鬼道を問わず…かなりの炯眼の持ち主ばかりだった。
「天爵ばばさまのお話しを伺う前に…少しだけ…アランに訊きたいことがあるのだけれど…アラン…こちらへ来てくれますか…? 」
全員が指定された席についたところでお伽さまが意外なことを言い出した。
西沢の膝の上に大人しく座っていた吾蘭は、どうしていいのか判らず、西沢の顔を心配そうに見つめた。
「アラン…お伽さまがアランとお話したいんだって…あそこの椅子に乗っかってお伽さまのお話伺って来てご覧…。 」
はい…と返事をすると吾蘭は西沢の膝を降りてちょこちょこと駆けて行き…お伽さまの前の椅子によじ登った。
「よく来たねぇ…アラン…。 」
お伽さまが優しく微笑んだので吾蘭もにっこり笑った。
「あのね…アラン…。 さっき…アランが…天爵さまに会った時に…アランには何が見えたの? 」
てんちゃくちゃま…? 誰…というように吾蘭は首を傾げた。
お伽さまは智明の方を指差した。
「おねえたん…。 」
お姉さん…? アランの知ってる人…?
お伽さまは訊ねた。
「うん…。 」
どんな人…? アランと仲良しなの…?
「うん…。 おちゅげのおねえたん…。 」
お告げの…? 麗香さんのことかな…?
何処で会ったの…?
吾蘭はちょっと首を傾げた。
「あちゅい…。 」
熱い…? 何が熱いか分かる…?
「あめ…。 ぜんぶ…しんじゃう…。 こわいねぇ…。 」
雨…それは怖いねぇ…。
どうして…熱い雨が降ってきたんだろうね…。
「わるい…かいぶちゅ…やっちゅける…って。 」
ほう…怪物か…それは大変だ…。
それで…アランは…どこに居たの…? 何をしていたのかな…?
吾蘭はまた首を傾げ…何か言おうとした途端…突然…固まった。
大きく眼を見開き…顔色も真っ青だった。
「逃げなさい…早く…私はもう先へはいけない…。
おまえは逃げて…逃げ延びて…この悲劇を…真実を伝えなさい…。
奴等を信じてはいけない…。 奴等は神の名を騙る悪魔…。 」
大人たちは総立ちになった。
吾蘭の口からとんでもない言葉が飛び出した。
二歳に満たない子どもの口調ではなかった。
聞いていた智明の顔も蒼白になった。
まさか…まさか…これは…?
立会人たちがざわめき出した。
何かの憑依現象か…。 いや違う…霊の気配はなかった…。
しかしこれは…幼児の使うような言葉ではないぞ…。
吾蘭は呼吸もままならなくなったようで、そのまま痙攣して気を失った。
お伽さまは急いで駆け寄った。
吾蘭の胸の辺りに手を当てると何やら文言を唱えた。
瞬間…吾蘭は大きく息を吐いた。
優しく抱き上げて西沢のところに運んできた時にはすでに呼吸も顔色も普段どおりに戻っていた。
「紫苑…ノエル…申し訳ない…。 随分と心配したでしょうね…。
アランに大事はありませんが…かなり疲れていると思います。
滝川先生…お手数ですが…アランを看てあげて下さい…。 」
お伽さまはそう言って吾蘭を西沢に手渡した。
すぐに滝川が西沢の腕から吾蘭を受け取った。
「お伽さま…今のは…吾蘭の潜在記憶…なのでしょうか…? 」
西沢はそう訊ねた。 お伽さまは頷いた。
「はい…私はそのように思います…。
立会人たちが戸惑っているように…これは御霊の仕業ではありません。
記憶が吾蘭の口を借りたのです。
HISTORIANが怖れているものとは…アランの持つ潜在的な記憶にあるのではないかと私は思うのです…。
他の潜在記憶保持者にはない…何かが…彼等を招きよせる…。
その記憶を消すためにアランを狙うのではないかと…。 」
アランの記憶の中にHISTORIANにとって不利な記憶があるというのか。
御使者たちが…もしかすると奴等は端からわが国を狙っていたのかも知れないと連絡をくれたが…それと何か関わりがあるのだろうか…。
「アランはまだ幼過ぎて瞬間的にはあのように言葉が飛び出ては来るものの…まとまった話をすることができないのです。
今は断片的な内容を繋ぎ合せるより他に方法がありません。
体力的にも短い時間に限られてしまいますから…なかなか全容を解明することは難しいでしょう。
もう少し年齢が上なら…すぐにでも分かるのでしょうが…。
彼等が慌てているのも…おそらくはそういう年齢に達してすべての記憶が明らかになる前にアランから記憶を消したいと考えているからでしょうね。 」
お伽さまはそれだけ話すと軽く会釈してもとの席へと戻っていった。
「立会人…どうかね…? 何か今の現象で…宗主側がトリックなどを使って誤魔化していると感じられるところはあるかね…? 」
宗主はまだ興奮覚めやらぬ立会人たちに訊ねた。
全員…いいえ…と答えた。
「宜しい…。 では…天爵さま…席を移って頂けるかな…。 」
促されて智明は立会人と向かい合う席へと移動した。
「化身…こちらへ…。 」
お伽さまが先ほどまで吾蘭の座っていた椅子を智明の隣に並べた。
ノエルは示されたその椅子にかけた。
「おふたりとも背もたれを倒して楽になさってください。 」
言われるままに…背もたれをを倒した。
ふたりとも緊張の為に…椅子に身を預けて楽…というよりは逆に身体が浮くような居心地の悪さを感じていた。
お伽さまはふたりの正面の位置に床に直に腰を下ろした。
大きく息をすると…深々と一礼してから…何やら文言を唱え始めた。
祭祀の開始を告げているようだった。
お伽さまの舞う如く美しい所作と共に…今…謎解きの儀式は始まった。
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