中川右介「未完成 大作曲家たちの「謎」を読み解く」

2013年03月05日 00時00分00秒 | 巻十六 読書感想
定説だったり俗説だったり、
いわゆる「未完成曲」には様々なストーリーがまとわりついている。
よっぽど好きな人でもない限り、
いったん染みついたイメージを能動的に置き換えようとする人は多くないだろう。
そうした作業の一助になる書。

未完成 角川SSC新書 大作曲家たちの「謎」を読み解く
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角川マガジンズ(角川グループパブリッシング)


著者の中川さんは自分にとって

ショスタコーヴィチ評盤記
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アルファベータ


松田聖子と中森明菜 (幻冬舎新書)
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幻冬舎


↑なんかでおなじみ。
ちなみに「週刊金曜日」にも連載を持っていて、
今回の「未完成」と通じる内容となっている。

中川氏はおそらく資料を非常に丹念に読み込んでいるのだろう。
時系列に従い縦糸と横糸を手繰り合わせるような記述が「売り」だと思う。
だから、「ああ、この人の行動にはあの人のあれが関係してたのか」とか
そういうプチ発見がたくさん楽しめる。

ブルックナーの9番はほとんど完成していたのに、
死去時のどさくさで遺稿が散逸。
4楽章の補完版もあるけれど、
聴く側と売る側が「死=未完成」のイメージを好むがゆえに、
静かに終わる3楽章までの演奏が定着している。

マーラーの10番にまつわる伝説、
「三つの打撃」「死の影への怯え」「アルマの不倫に対する苦悩」。
著者は事実検証を経た結果、これらに懐疑的である。
有名な「九の伝説」についても、
必ずしも既定の話ではないという。

ショスタコーヴィチの「オランゴ」は
その存在自体がまさに黒歴史として忘れ去られた。
それはスターリン時代の闇黒を生きた人々が、
「なかったこと」にしてしまっていた。暗黙のうちに。

モーツァルトの「レクイエム」は、
モーツァルト自身が作曲依頼者のゴーストライターだった、
という話が興味深かった。

他にも、シューベルトとプッチーニのエピソードあり。

上記のような話は、
まあ知る人にとっては半分常識な面もあるのかもしれないけど、
俺のようなライトなファン(と敢えて自虐的自称をするが)にとっては
結構新鮮だったね。

もちろん、これらは中川氏なりの組み立てであって、
史実はまた別のところに存在する可能性もある。
なかなか奥深い音楽ミステリーを新書という手軽なフォーマットで楽しめるのだから、
少しでも興味のある人は読んで損はない。

かくいう俺も、
自分的三大好きな作曲家(ブルックナー・マーラー・ショスタコーヴィチ)が
まんまと俎上に乗せられてるわけで、
誰得?俺得!な読書でありました。
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