屋号。

だいぶ前、世帯全部が同じ苗字という島があり、郵便屋さんがとても苦労している、という話をテレビで見た。見て、思った。

苦労してんの、郵便屋さんだけで、
当の島の人間はあんまり不自由してへんぞ。

Ｓ茶屋にも同じ苗字はわんさかある。
Ｙ村もいっぱいいる。
いるが、不自由していない。
テキトーに呼び合っていて、それがテキトーに機能している。
わんさかいるＹ村の発生源の家は「母屋」だし、
なにしろわんさかそこから発生したものだから「分家」ではどの「分家」だかわからないため、うちなんかは八百屋してた頃の屋号が「八百辰」なので通称「八百辰」、八百屋廃業してからも通称は「八百辰」のままなので、たぶんこの先30年くらいは「八百辰」と呼ばれ続けると思われる。
あとは人名。
これも生存中の人名とは限らない。
うちから30歩ほど歩いたとこの、こないだ雑貨屋さんを廃業した「おときさん」もやっぱりＹ村さんで、どういった縁続きなのかもはやわたしにはちんぷんかんぷんなのだが親戚で、わたしが幼い頃からずっと「おときさん」で、店の名前が「おときさん」だと思っていたのだが、どうも違ったらしい。人名だったらしい。こないだ亡くなられた「おときさん」のおっちゃんのお母さんだかお祖母さんだかが「おときさん」という人だとのことで、その人が亡くなって数十年経った今もそこん家の通称は「おときさん」である。

というわけで、例の島民全員おんなじ苗字の島でも、それぞれの家にテキトーに名前つけてて、それがテキトーに機能しており、不自由はなかろうと思ったのである。

ところでうちは青空駐車場をしてるのだが、
ここを借りてくれてる人にＹ本さんが３軒ある。
全部同じ漢字のＹ本さんである。
そして困ったことに３軒とも、町内で通用するいわゆる「屋号」みたいなもののないＹ本さんだったのだ。

これはややこしい。
それぞれ顔はよく知っているから、顔写真撮らせてもらって、それ家賃帖に張り付けるか？
いや、区別さえつけばいいわけだから…。

幸いなことにうち２軒のＹ本さんは犬を飼っていた。
１軒はジュニアん家、そしてもう１軒はゴールデンリトリバーのリッチーさん家。
というわけで、うちの家賃帖にこの３軒のＹ本さんはそれぞれ、

・Ｙ本Ｓ一郎
・Ｙ本ジュニア
・Ｙ本リッチー

と記されている。

（そしてＹ本ジュニアさん家でもＹ本リッチーさん家でも、うちの家賃帖にこんな風に記されているなど、知るよしもない…）

（リッチーさんは残念ながら今年の春亡くなられた。が、今でもあのＹ本さん家はうちではリッチーさん家…）

（というか、うちの駐車場借りてくれてる限り、あのＹ本さんはＹ本リッチーさん家…）



うちで勝手に屋号がわりに名前を使われることを知るよしもないＹ本ジュニアくん。