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旧える天まるのブログ
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<中州の渡り鳥>

2018-02-16 18:45:41 | 雑記の宿


流れる川に渡り鳥がやって来た。



かつて僕は、川の岸辺から渡り鳥たちを見ている見物人だった。

この渡り鳥たちの中には、傷ついたり老いたり、故郷に帰れる程、体力のない鳥たちも見ていた。



そして、今僕は川の中州に住んでいる。

中州は、大雨などが降ると水かさが増し、川の表面から消えてしまう。



川の氾濫を、人々はいつも恐れている。

川には思い出したくない過去がいくつもある。



川の中州に今、僕は住んでいる。

ここから遠い水辺に住むの僕のお婆さんは昔、僕の母親にあの川は

「はくじょうものがすむとこだ」

と、母親にむかい言ったことがあるらしい。

白鳥を薄情と言い換えた言い方。

僕の父親は、長男にもかかわらず、母親の住む、白鳥が住む水辺に移り住んだ。

母親を愛し、母親を忖度し、移り住んだ。

父親は、自分の実家の遺産相続を放棄してまで、母親が慣れている水辺に骨を沈めたのだ。

遺産のない父親に、母親は僕の生末を案じ、虐待を理由に僕の側から居なくなった。

僕と僕の妻、そして父親の墓だけを残し、この川の中州に置いて居なくなった。

遺産のない僕に、妻までもが別れたいと言っていた。

僕が死んだのちは、この川から離れ、自分の実家のほうに身を寄せるとまで言っていた。

僕は母親への忖度、妻への忖度で苦しみ、この川で幾度、自ら命を絶とうと思ったことか



ある日、父の実家から知らせが入った。

相続放棄したはずの父宛の遺産がまだ残っていたという。

畳1446枚柔道場11個分128畳の部屋が11室
面積にするとかなりの大きさだった。
僕のお爺さんが、そっと残していたという。
原発事故の影響で、汚染した土地の資産価値はないらしいが、
除染作業を進めるためには、相続人の許可が必要らしいとのこと。

僕は、今さら遠くの故郷には戻れない。
父から僕に引き継いだ遺産は、家督の叔父さん親族に引き継いでもらうことにして、
僕も父からの遺産の土地を手放した。




しかし、その知らせに僕の妻は、僕のことを見直してくれるようになった。

「あなたは何もない人ではなかった」と



僕が交通事故で病院に運ばれたとき、娘から聴こえた言葉

「お父さん大丈夫?」

家では教えたことのないセリフだった。

娘にはそのように躾た覚えはない。

妻からも母親からもそのセリフは出てこなかった。

学校で教えられたようなセリフ。
「こういう時はこう言いなさい」と、心配そうな表情とたどたどしいセリフだったが

川の周辺で育った僕の娘は、僕に優しいセリフを覚えさせてくれたのだ。

冬になって川に降りる渡り鳥
春になって川から旅立つ渡り鳥
中州に残った飛べない鳥は
仲間が飛んで来る川で
中州の島で待ちわびる




雑記だねゑ: える天まるのブログ「雑記の宿」から (雑記ノベルズ)
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