「果物はこれでいい?」
「パイナップルじゃないよ。オレンジが欲しいんだ」
「ごめんなさい。間違えちゃった」
「困ったな・・・」
「どうしたらいいのかしら?・・・」
「カットッ!!」
「おつかれさまでしたー」
「これはどういった経緯のシーンなの?。セリフは覚えやすかったけど」
「これは、ボナールがオレンジを描こうとしていて、」
≪オレンジ・ボナール≫
「妻のマルトが間違ってパイナップルを置いたシーンです」
「オレンジの絵?」
「なぜか、ボナールの≪オレンジ≫の絵には解説がないんです」
「そこはおそらく、ボナールは≪プロヴァンスの水差し≫を描くことにつながっていくんだと思うのです」
≪プロヴァンスの水差し・ボナール≫
「あの、頭を抱え何かを考えてるシーンを撮ったんです。まさに哲学だー」
「そうですか‥」
「≪人物のいる静物≫になると、17世紀オランダの親密な静物画が3世紀のにちフランスの感性を通じて、明るく優雅になった印象を受ける。≪オレンジ≫≪プロヴァンスの水差しでは、それがいよいよ簡略化され、不必要なものはまったく姿を消す。17世紀オランダの静物画は、一般にあまり現実に似ていて、ときにだまし絵に見えたり、超現実的要素をもって無気味な場合があるが、時代と場所、環境風土の変遷(へんせん)美術様式の推移などによって、画家の個性によって、暖かい親密さと明るさが増してくる。このあたりは、おそらくボナールの一つの頂点であろう。」
「哲学者さん、熱弁だったね」
「ボクが渡した本の内容をそのまま暗記して語ってたよ」
「そうなの?」
「うん」
「そっか」
「入浴剤、持ってきて」
「香りは?」
「ラベンダーにしようかな」
「ラベンダーね」
「うん」
「はい」
「ありがと、リラックスできるわ」
「あなたも入ったら?」
「うん」
「大麻で、また、捕まったひとがいたね」
「うん」
「あなたはどう思ってるの?」
「ボクたち運転免許もってるじゃん」
「それで?」
「覚えてる?キミとお酒を飲んで、ボクが自動車で送ったこと?」
「あの頃は若かった」
「お酒を飲んだあと自動車の運転は危険だと、何度も教習所のビデオで教わっただろ?」
「うん、よくビデオでその危険性を見せられたね…」
「運転はできないこともないけど、危ないのさ。治療が必要になることもある。あのとき、飲酒運転がみつからなかったから。もしあのとき事故を起こしてたり、警察に捕まってたら。ボクとキミは今、ここにふたりでいなかったかも…」
「みつからなかった、だけだったもんねー…」
「飲酒運転が合法できないことと、大麻が合法できないのと、ボク一緒だと思うんだ」
「さっき使った入浴剤だって、随時、チェックはうけてると思うのさ」
『リモート・ボナール』暖炉の前の少女