VG “The Korean War” (1986)を入手しました。
朝鮮戦争の最初の1年間、1950年6月〜1951年5月までを扱うシミュレーション・ウォーゲームです。
1コマ(ユニット)は連隊(歩兵なら1,000〜3,000人程度)〜師団(国にもよるが1万人前後)程度を表します。
さて、表題ですが。
所謂「嫌韓」なる単語が出てきたあたりから、朝鮮戦争開戦時に韓国軍がまともに北朝鮮軍を迎撃できなかった理由として
「当時、李承晩政権は対馬侵攻を企てていて・・・・・・」
という噂が散見されます。
また、1990年代半ばまで、朝鮮戦争のきっかけについては
「朝鮮戦争はアメリカと韓国の陰謀で、韓国側から攻撃を受けたので北朝鮮がやむなく迎撃した」
と、高校時代の恩師が日本史の授業で教えるくらいに“アメリカ&韓国の謀略”説が広まっていました。松本清張『日本の黒い霧』に代表される、全てはアメリカの陰謀・・・・・・という見解はかなり根強かったと思います。
なお、当時エポック『朝鮮戦争』をやりこんでいた小生は上記発言を聞いた後、即座に「嘘つけ」と周りに聞こえる声で呟いた覚えが(しかも教卓の真正面最前列)。 6月25日から8月15日まで、ざっと2ヶ月間にわたり北朝鮮軍の総力を上げて朝鮮半島を暴れ回るためには、周到な計画と「統一」への国家意思、とりわけ十分な武器弾薬燃料、更には食料の備蓄が欠かせない・・・・・・すなわち、例え仮に米韓の陰謀があったにせよ、1950年6月末〜7月中旬頃に北朝鮮が「南進」する意図がない限り、韓国軍が釜山橋頭堡に押し込まれてしまうような展開はありえないからです。
1997年に萩原遼『朝鮮戦争 金日成とマッカーサーの陰謀』が出て、北朝鮮軍の米軍鹵獲文書をもとに朝鮮戦争は北朝鮮の計画による開戦であることが証明されたわけですが、当の萩原さん自身がアメリカは北朝鮮の意図を知って敢えて利用した、といった姿勢でいたことから、未だにアメリカの謀略を疑う声は絶えないようです。
さて、「李承晩政権は朝鮮戦争直前、対馬侵攻を計画していた・・・・・」という話ですが。
VG“The Korean War” の韓国軍初期配置をご覧ください(北朝鮮軍は省略)。
なお、小豆色の厚紙コマ(ユニット)が一個連隊に相当します。
1986年出版のシミュレーションゲームによる、アメリカで利用可能な資料に依拠した韓国陸軍の配備状況ですが。
ソウルに1個師団相当(1個師団=3個連隊)、ソウル北側の38度線に2個師団、38度線太白山脈あたりに分散して1個師団、その他主要都市に1個連隊ずつ分散配置して合計22個連隊。
どう考えても平時配置で、北朝鮮軍の南進に備える意図はあまりないことは明白です(故に、史実では無様としか言いようのない潰走状態に)。
同時に、上陸作戦遂行を準備している様子も皆無です。
これは朝鮮半島南岸を拡大した画像ですが、まともな港湾に配置された連隊が一個もないことに注目いただければ幸いです。
どう考えても、連隊規模以上の上陸作戦は考えられていません(それ以前に海軍力が・・・・・・)
当時(1950年)の対馬に進駐軍=米軍部隊がいたかどうかは未確認ですが、その後自衛隊の置く防衛兵力は対馬警備隊(1個中隊相当)だけです(この他航空自衛隊のレーダーサイトあり)。
蛇足ですが。
一応、
大韓民国海兵隊は1949年創設で380人規模だったそうです。旧日本軍で実戦経験のある兵士もいた時代ですが、例えば旧陸軍式の上陸作戦の概要を知っている将校がどれほどいたことやら(海兵隊の初代司令官は満州国軍出身)。
加えて朝鮮戦争中、韓国海軍はまともな揚陸戦能力を持っていなかったんですよねぇ。
(休戦後、米軍からLSTを供与してもらった)
まさか、「李承晩が・・・・」と言っている人は漁船を集めて、なんて考えているんだろうか。