私見ですが一言で言えば、英米法廷ドラマの系譜な映画です。反核反戦を期待する向きはまわれ右された方が幸せになれるかと。
理論物理学者でプリンストン高等研究所第3代所長、オッピことオッペンハイマーの半生を描く映画です。
本作では彼の感じた世界を再現するため、彼が直接知り得たもの以外の情報は徹底的に捨象されています。故にネイティブアメリカン居住地の強制収用や原爆投下・投下地の模様は彼が直接見聞していないため直接の描写がありません。デーモンコア事故やローゼンバーグ夫妻の運命も描かれません。テラーが主導した水爆実験もカットです。
史実のオッペンハイマーが実際に何を考え・感じていたかは知りようもありません。しかし、作中のオッピが考え・感じたであろう事については過不足なく描写できている映画ではないでしょうか。
逆に、あれがないこれがないという批判はこの映画を理解していない言説と言ってもよい気がします。
……クリストファー・ノーラン作品なら必ず観る、という配偶者殿に「いくら何でもホントーにコレ観るの?本気?」としつこく疑ったがために夫婦喧嘩の危機が。今となっては己の不明を恥じるところです。
なお、原爆開発の経過やマッカーシズム・東西冷戦初期のアメリカの政治状況について詳しくなくても映画のキモは伝わると思います。知っているとより解像度が上がるでしょう。理論物理学の素養があると更に伝わるモノが増えると思われます。