小説の感想です。
『バビロンまでは何マイル』(上下巻 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著、原鳥文世訳、東京創元社)
多元世界の出来事を管理し、助言や介入を行う魔法管理官(マジド)の最年少のひとりであるルパート・ヴェナブルスは、多元世界の中心に位置するコリフォニック帝国の非公式の裁判への立会いを命じられ、そこで皇帝の長子があっさりと殺される現場を目撃し、憤慨する。皇帝が滅茶苦茶な権力をふるうコリフォニック帝国はマジドたちから忌み嫌われていた。
そんなある日、ルパートが教えを受けたマジド、スタンがもう長くないとの連絡を受け、スタンの元へ向かう。スタンは自分がはもうすぐ死ぬと告げ、自分が死んだらマジドの定員が欠けるので、新しいマジドを選出しなければならないこと、それをルパートがやらなければならないことを告げる。ほどなくしてスタンは死んだが、実体のない幽霊としてルパートの新しいマジド探しを手伝うことになる。
新マジド候補は全部で5人。そのすべてと会って適任か否かを判断せねばならないが、彼らはひとりを除いて皆外国に住んでいた。ルパートはとりあえず同じイギリスに住む候補者、獣医学生のマリーに会ってみたが、印象は最悪だった。
他の候補者とどうやって会うか算段していたところに、ルパートはコリフォニック帝国で皇宮に爆弾が落ち、ひとりの貴妃を除いて皇帝も皇后も死んでしまったとの連絡を受ける。現場に急行したルパートは、生き残った最上位の将軍ダグロスに、どこかにいる皇帝の世継ぎを探せと要請される。それもマジドの職務のうちなので断れず、ルパートは皇帝の遺児探しと新マジド探しを同時に行う羽目に陥るが・・・?
というようなお話。
・・・いやあ、ジョーンズさんらしいゴチャゴチャ感に満ちた面白い作品でした!
主人公ルパートがどうもお高くとまった鼻持ちならない性格で、最初のうちはどうにも好きになれなかったのですが、次から次へと難題を押し付けられ、彼のせいじゃないのにどんどん悪いほうに転がっていく展開を見ているうちにだんだんと同情が愛に変わり(笑)、楽しく読めました。
マジド選びをいっぺんに済ませるため、候補者を一箇所に集めようと思い、魔法の力が強い力点を選んでそこに全員が来るよう術をかけるんですが、同時期にその場所(ホテル・バビロン)でSF大会(この場合ファンタジー大会かな)が開催されて、かなり滅茶苦茶なことになります(笑)。ちょっとくらい魔法を使っても、ケンタウルスが出てきても、ホテル内部の構造が変わってても「おお、すげー気合入ってんな!」で済みます。もうすごいよ、コスプレだらけだよ、ゴクリ!(笑)イギリスのファンタジー大会と言ったらやっぱりいいホビットさんたちやガンダルフは基本なんですねー。楽しそう。
SFマガジンなんかを読んでいるとこの手の大会は非常に頻繁に行われているようですね。一回行ってみたい気もしますが、わたし程度の知識ではディープに楽しむのは難しいかも・・・。
この作品は上下巻なんですが、上巻と下巻のルパートのマリーに対する態度の違いったら。もうツボですよ!(笑)
このところジョーンズさんのハードカバーの挿絵はほぼ佐竹美穂さんだったんですが、今回は違う方で後藤啓介さんという方です。なんか美麗な絵で素敵でした。表紙の色使いもうつくしいし、挿絵はルパートの感じの悪いメガネ野郎ぶりが非常によく出ていたと思います(笑)。
ただ、この作品、ジョーンズさんらしい伏線が蜘蛛の巣のごとく張り巡らされているので、初心者は読みづらいかもしれません。初心者は『星空から来た犬』『いたずらロバート』あたりがおすすめかも。それかクレストマンシーシリーズを最初から読んでいけば慣れていくと思いますよ。