★オンライン診療でも「花粉症で最もポピュラーな抗ヒスタミン薬」の処方は可能か>
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※AERA 2021年1月25日号( 編集部・渡辺豪)
本格的な花粉のシーズンが、まもなく到来する。だがコロナ禍の今年は、いつもと違う。目をこすったりはなをかんだり──花粉症のつらい症状にコロナ感染のリスクが潜む。AERA 2021年1月25日号では、コロナ禍の花粉症対策について専門家に話を聞いた。
■マスクと「在宅」で軽減
コロナウイルスは直径0.1マイクロメートルで、スギ花粉は直径30マイクロメートル。一般的な不織布マスクは5マイクロメートル程度より大きな粒子の侵入を防ぐとされている。隙間をつくらず顔面にぴったり張り付くようにマスクを装着すれば、花粉の侵入はほぼ防止できる上、飛沫に含まれるウイルスの感染を防ぐのにも一定の効果がある。
実際、この冬は新型コロナとインフルエンザの同時流行が危惧されたが、今のところインフルエンザの患者は記録的に少ないことが報告されている。新型コロナ対策として実施されてきたマスク装着や手洗いの励行のほか、海外との人の出入りが少ないことなどが要因に挙げられている。
アレルギー疾患のエキスパートで、花粉症治療の先駆者である日本医科大学の大久保公裕教授
<1959年 9月8日生まれ、62歳
1984年 日本医科大学 卒業
1988年 同大学院耳鼻咽喉科 卒業
1989年〜1991年 アメリカ国立衛生研究所(NIH) 留学
現在 日本医科大学大学院医学研究科 頭頸部感覚器科学分野 大学院教授
https://www.kyowakirin.co.jp/kahun/supervisor/index.html
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はこう話す。
「インフルエンザ、新型コロナウイルス、風邪、花粉症のいずれにも通じる対策としてマスクは有効です。加えてテレワークの導入が進み、花粉の飛散シーズンに外出を控えることが可能な人が増えれば、花粉症の症状は総じて軽減されることが期待できます」
コロナウイルスは直径0.1マイクロメートルで、スギ花粉は直径30マイクロメートル。一般的な不織布マスクは5マイクロメートル程度より大きな粒子の侵入を防ぐとされている。隙間をつくらず顔面にぴったり張り付くようにマスクを装着すれば、花粉の侵入はほぼ防止できる上、飛沫に含まれるウイルスの感染を防ぐのにも一定の効果がある。
新型コロナの感染者が花粉症になり電車内などで頻繁にくしゃみをすると、多くの飛沫が飛び散り、マスクをしていてもウイルスを拡散させてしまう可能性があります」
花粉症はこれまで患者個人の生活の質や作業効率に影響するのが問題でしたが、今年は新型コロナの感染流行と重なったことで他人を新型コロナに感染させる引き金にもなり得る、新たな社会的意味をもつ疾患になったのです」
では、私たちは花粉症とどう向き合えばいいのか。大久保教授は「コロナ禍の今年は、花粉症の症状を完全にコントロールすることが求められる」と言う。
これまで花粉症治療といえば、症状を緩和し、仕事や睡眠に大きな支障が出ないように処置すればよかった。しかしコロナ禍の新常態では、ほぼ完全に症状が抑えられる水準まで治療しなければ社会生活に支障をきたしかねない状況になった、というわけだ。
たとえば、例年は花粉の飛来シーズンにマスクや眼鏡を着ける程度の対策で過ごしてきた人は、症状の兆候が出ればすぐに服用できるよう市販薬を購入しておく。これまで市販薬で対応してきた人は医療機関を受診し、処方薬をもらっておく、といった一歩先の対応だ。
ただ、花粉症で最もポピュラーな抗ヒスタミン薬でほぼ症状を止められる人は7割ほどに限られる。十分な効果を得られない人は、レーザーで鼻の粘膜を一時的に凝固させる「レーザー療法」や、抗IgE抗体製剤「ゾレア」を摂取するなどの治療法も選択肢になる。
そんな中、花粉症の人にとって「逆風」ともいえるのが室内の換気だ。新型コロナ対策では換気が必要とされているが、花粉症では逆に外気を遮断することが求められるからだ。
環境省の花粉症環境保健マニュアルによると、3LDKのマンションで花粉の最盛期に1時間の換気を行った場合、約1千万個の花粉が屋内に流入した、との実験結果がある。
新型コロナ対策の換気は飲食店や職場、電車などの公共交通機関にも広がっている。店舗で食事中や電車で移動中に花粉を吸い込み、くしゃみが出れば、周囲の厳しい視線を浴びるのは必至。どうすればいいのか。
都内で保険調剤薬局を展開している「メトロファーマシー」の管理薬剤師の守(もり)麻美さんは「命にかかわる新型コロナ対策を優先させるのはやむを得ない」と換気の必要性を認めた上で、空気清浄機を設置したり、立体吸着シートでこまめに床掃除をしたりして花粉をできるだけ除去するよう室内環境を整えることを勧める。室内に入る花粉をできるだけ抑えるには、カーテンを閉めたまま窓を開ける幅を小さくして換気することも大切だ。送風機を使って、室内に入った花粉を室外に送り出す空気の通り道を確保するのも有効だという
「緊急事態宣言下で受診しにくいと考える人もいると思いますが、オンライン診療でも薬の処方は可能です」
そう受診を呼び掛けるのは前出の大久保教授だ。受診をためらう人の中には、新型コロナの初期症状と花粉症の症状の見分けがつきにくい、という人もいるかもしれない。大久保教授はこうアドバイスする。
「新型コロナに特徴的なのは味覚や嗅覚に障害が出ることです。鼻づまりによって匂いがしなくなる花粉症の症状と似ていますが、鼻づまりが治まったときにも匂いがしない場合、新型コロナに感染した可能性も疑うべきでしょう」