テ レ ビ ジ ョ ン 学 会 誌 Vol.41, No.4 (1987)
7. 地 球 観 測 衛 星 の 現 状
石 沢 禎 弘 †
† 宇宙開発事業団 7. "Present Status of Earth Observation Satellite" by Yoshihiro Ishizawa (National Space Development Agency of Japan, Tokyo)
1. ま え が き
人 が 人工 衛星 を打 上 げ る手 段 を手 に した時 に,そ の 利 用 のひ とつ として,短 時 間で 広範 囲 な場 所 の上 空 を 飛 ぶ衛 星 の特性 を用 い た地球 の観 測(気 象,海 洋,地 表 面等 の観 測)を 思 い つ くの は当然 で あ り,衛 星 第1 号 ス プー トニ ク打 上 げか ら約3年 後 の1960年 に は, 早 くも初 の実験 用気 象 観測 衛星 タイ ロス1号 が打 上 げ られ たの は,い か に衛 星 が地球 の観 測 に有効 で あ るか を如 実 に物語 ってい る.
そ の後,中 高度 の気 象衛 星 は 着 実 に実用 化 され,や が て 静止 気 象衛 星 も開発 され, 気 象観測 の強 力 な手段 とな った1).
一 方 ,米 国 におい て種 々 の観 測器(セ ンサ)の 開発 試験 が ニ ンバ ス衛星 を用 い て行 われ2),そ の結 果 とし て,1972年 に地 球観 測衛 星ERTS(Earth Resources Technology Satellite,の ちのLANDSAT-1)が 打 上 げ られ た.
こ の衛 星 か ら得 られ た デー タが,農 林 漁 業,環 境 保 全,防 災,沿 岸監 視,土 地 利 用,資 源探 査 な ど広 い 分 野 に お い て その 利 用価 値 の高 さが 認 識 さ れ,衛 星 を用 いた リモ ー トセ ン シングが世 界 的 に深 い 関 心 を 呼 ぶ こ と に な り,そ の 後,米 国 に お い て は LANDSATシ リー ズ,フ ラ ンスで はSPOT衛 星,日 本 の海洋 観 測 衛 星1号(MOS-1)等 の発 展 へ と続 い て 来 てい る.本 文 で は,こ の地球 観測 衛星 の特 徴 と,用 い られ てい るセ ンサ につ いて,そ の一端 を紹 介 す る.
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2.2 観 測衛 星 の特徴 前節 で述 べ た観測 衛星 は,そ の観測 目的,搭 載 す る 観 測機 器 に よって,衛 星 本体 に もい ろい ろ な特 徴 が生 じ る.こ れ らの もの につ いて以下 に述 べ る.
(1) 観 測衛 星 の軌道
地球 観測 衛星 に適 す る軌道 として選 定 され る軌道 高 度 は,一 般 に は1500km以 下 の 中 高 度 軌 道 と,静 止 軌 道が あ る.
静 止軌 道 は,常 時一 定地 域 の観測 が で き る特性 を利 用 して,気 象 衛星 が用 い てい る.
す な わち 我 が 国 がGMS,米 国 がGOES,ヨ ー ロ ッ パ が METEOSAT,お よび イ ン ドがINSATを 打 上 げ て い る.
こ れ らの衛星 の軌 道 に対 す る要 求(打 上 げ方法 , 軌 道 の保 持精度 等)は,通 信衛星,放 送衛 星 と差 はない が,気 象 のデ ー タ処 理上,衛 星 の位置 を精 密 に求 め る 必 要 か ら,測 距 信号 の応答 機 能 を有 す る送 受 信機 を, 地球 上 の異 な る2ヵ 所 に設 置 し,3点 測距 に よ り精 密 な軌 道測 定 を行 ってい る.
中高度 の軌道が選定される場合 に,そ の軌道選定の 基準 となる条件 は種々あるが,そ のひとつは定期的に 同一場所の観測が要求されるか どうかによる.こ の定 期観測が必要な場合 には回帰軌道 または準回帰軌道が 選定 される.
こ の場合 の回帰 日数は,搭 載 しているセ ンサの観測幅(一 般には走査幅)が ,最 も狭 いもので も1回 帰周期間で地表面の全域が抜けな く観測できる ように選定する.
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(2)観 測衛星の姿勢制御
観測衛星の姿勢制御に対する要求は,画 像の撮像方 法 によって異なる.
す なわち短時間に画を蓄積 した後 ゆっくりと伝送するようなセンサ(ビ ジコンカメラ等) と1ラ イ ンごとに走査伝送 を行 うセ ンサ(機 械走査型 センサ等)で は,衛 星の姿勢が変動 した場合に受ける 影響が異なる.
走 査型セ ンサの場合 には,1つ の画面 を撮 り終るまでに,あ る時間を要し,こ の時間内に衛 星の姿勢が変動する と画面の歪 となって現われる.
し たがって,地 球観測衛星では姿勢の指向精度 よりは姿 勢の安定度のほうが重視 される.
静 止 気 象 衛 星 のGMSで は,高 度 約36,000kmか ら見 て,可 視 光 域 で は1.25km(瞬 時 視 野 で2°/ 1,000),赤 外 域 で5km(瞬 時視 野 で8°/1,000)の 地表 面 分解 能 を有 し,地 球 の画 像 を とるの に約25分 を要 す る.
こ の25分 の間 に走 査線 の所 定 の走 査 域 か らの ず れ は可視 光 域 の瞬 時視 野2°/1,000以 内 とい うの が 姿 勢制 御 系へ の 要求 で あ る.
GMSで は この要 求 を満 た すた めス ピン安 定方 式=アンテナでスパン安定方式=を採用 し,ま た,こ の ス ピ ン を利 用 して東 西方 向 の走査 を行 ってい る.
初 代 の静 止 気 象 衛 星GOES,METEOSATは 同様 の ス ピン方式 を とって い るが,イ ン ドのINSATは, 通信 放送 の機 能 も有 す る複 合衛 星 で あ るため,姿 勢 制 御 方式 は3軸 姿 勢制御 方 式 を用 いて い る.
ま た米 国の 次世 代 静 止 気 象 衛 星GOES-I,J,Kは,3軸 姿 勢制 御 方式 で前述 の ような厳 しい安 定 度 を満た す衛星 とし て 開発が 進 め られて お り,そ の成果 が 注 目 され る.
中高度 の地 球観 測衛 星 の場合 は,初 期 の気 象観 測衛 星 の よ うにス ピ ン安定 方式 を用 い た もの もあ るが,こ の場 合 に は搭 載 で きるセ ンサ の種類 に大 きな制約 が生 じる.
近 年 の よ うに高 性能 の セ ンサ を搭 載 す るよ うに な る と,3軸 姿勢制 御 方式 が主 流 とな って い る.
初 期 の3軸 姿 勢 制 御 衛 星(ITOS-1,NOAA等)で は,モ ー メ ンタム ホ ィー ル を有 し,衛 星全体 で角運 動量 を有 す るバ イア スモー メ ンタ ム方式 が用 い られ たが,
他 方 衛 星全 体 の角運 動量 が ほ とん ど零 とな る ような ゼ ロモ ー メ ン タ ム 方 式 の 衛 星(LANDSATシ リ ー ズ , TIROS-N等)
あ るい は,あ る程 度 の角 運 動量 を残 し た中 間 の方 式(MOS-1等)が 採用 され て い る.
姿 勢 制 御 系 に要 求 され る性 能 の 一例 と して,
LANDSAT-5 の姿勢制 御 系 の性能 は次 の通 りで ある.
指 向性誤 差 く0.01°,
姿 勢 の安定 度 平均<10-6°/s,
ジ ッタ<0.0006。 (以上 の値 は1σ 値)
(3) 観 測 デー タの伝 送
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