(1)実験用通信衛星システム
実験用と称してもその時代や国情によって,純技術的 目的から応用的あるいは実用化試験的なシステムまで各 種あるが,代表的なシステムとして年代順に
ATS (米 国), CT S (カナダ), OT S (欧州)について簡単に 紹介する。我が国のEcs については別の機会に譲ると ととする。
(a) ATSシリーズ
初めての静止通信衛星シン コム 3号 (1964)の成功以来,
NASAは通信実験並び に応用分野の開発のために, 1966~1974年までに 6個 の ATS(Applications Technology Satellite)を打ち 上げた。
1号(150°W),3号(72。W), 5号(105。W), 6号 (15。E→94°W→l5°E)が打上げに成功し,数々 の意欲的な実験が行われた。
例えば,スピン( 1, 3号),重力傾斜( 2, 4, 5 号),三軸( 6号)の姿勢安定方式の比較実験, 6/4GHz 帯の各種通信方式実験,気象衛星の原型となった雲写真 撮影など,後j続の宇宙技術に与えた影響は計り知れな い。
特に最後のATS-6は, lOm径の開傘アンテナを有 する零モーメンタム三軸安定型衛星で,重量は静止衛星 として世界最大の 1275k~. 20以上の広範なミッション を有しており,船舶・航空機等の移動体通信,アポロ/ ソユーズ・ドッキングの衛星間TV中継実験,ロッキー ・アパラチア山岳地帯の保健・教育Ir関する放送実験, インドにおける教育TV放送実験などは,技術的にも利 用形態的にも今後の衛星通信システムの先駆として高く 評価されている。
我が国,特に電波研究所にとっても,衛星通信技術習 得の対象として,また,国際的・圏内的技術協力及び交 流の場として, ATS-1の果たした役割りは極めて大 きい。
すなわちRRL・NTT・NASA協同による世界最 初の PCM/TDMA実験, RRL• NHK • NASA協同の TV音声多重伝送実験, RRL•NASA 共同の大陸間時 刻同期実験や SSB/FDMA実験, RRL独自の SSRA 実験など,自前の衛星が無かった時期の我が国の無線通 信技術者の努力と鹿島地球局の活躍は特記されるべきで ある。
いずれにせよ, ATSシリーズは衛星通信分野におけ る米国の絶体的な優位を確立する上で,最も貢献した計 画と言っても過言でない。
また,インテルサット,アポ ロ計画,深宇宙計画,シャトル計画など,その後の宇宙 開発における基幹技術として, ATSシリーズの意義は 極めて大きいものがある。
米国は ATS-6を最後に, 衛星通信技術の国家的な研究開発は終わったとして撤退 した。
しかし,最近各国が単なる国威発錫としてではな く、国家安全の基幹技術として衛星通信分野の研究開発に力を注いでいる現状にかんがみ,米国では改めてAT Sシリーズ復活の必要性が叫ばれている。
b) CTS CTS (Communication Technology Satellite,愛称 Hermes)は,カナダ(通信省)が米国 (NASA)及び欧州(ESA)の協力を得て,衛星の 製作を行い, 1976年 1月デルタ 2914によって打ち上げ られた実験用高出力衛星である。
ー略ー