娘はすうっと立って、箕吉の上にかがみこむと、
「今みたことを、けっして人にいってはいけませんに。いった時には、おまえのいのちはない。おまえがあんまり、様子のいい若者だから、 わたしはおまえを好いたから、今いのちはとらないけれど・・・・・」
いいも終わらんうちに、娘の姿はふっと消えて、あいた戸口から吹き込む粉雪だけが、くるくると舞っていたそうな。
箕吉ははねおきて、茂作をゆすぶり、
「おとっさま、おとっさま」
と叫んだが、茂作は、ものもいわん。もう一度ゆすぶって、箕吉は、わっと叫んだと。茂作の息は絶えておった。
次の朝、箕吉はよろよろと山をおりて、村人に茂作が死んだことをしらせ、泣く泣く野辺の送りもすませた。親子ふたりの暮らしだったから、残されてみれば、あとにもさきにも、ひとりぼっちの、さびしい暮らしがつづいたそうな。そうして、 次の年の、やっぱり吹雪の夜のことだったと。
とんとん、とんとん、誰かが戸をたたく。いま時分、尋ねてくるもんがある筈もなし、誰だべと戸をひきあけて、たまげた。なんともかんとも、うつくしい娘が吹雪の中に、ぽっつら立っておった。きけば、旅のものだが、道に迷って雪の中をようやくここまで来たという。
箕吉は、
「そうか、そら困ったな。この家はおらひとりで、泊めるところもねえし、御馳走もできねえ。ほかの家さいってくろ」
といったんはことわったが、娘があんまり疲れ果てているふうなので、みるにみかねて中へいれたそうな。粥など煮ながらはなしあっているうちに、みよりのないこともわかって、娘はとうとうこの村にすみつき、箕吉の嫁さんになったと。
いい嫁さんだったそうな。つぎつぎ子どもも生まれて、しあわせな日がつづいたと。嫁さんは、名をゆきというたが、その名のとおり、抜けるように色の白いおなごで、子どもをいくたりも産んだというのに、やつれもせん。いつまでも来た時のままのうつくしさであったと。
ある夜のこどだった。嫁さんは暗いあかりの下で、子どもの着物を縫っておったそうな。そとは吹雪で、ごうごうと小さな家をゆすっていく。箕吉は寝ころんで、嫁さんの顔をみとるうちに、父親を失った日のことが、まざまざと浮かんできたと。
「おもいだすでよ、あの晩のことを」
箕吉はつぶやいたと。
「あの晩のこと」
嫁さんは顔をあげ、じっと箕吉をみつめた。
「おとっさまが死んだ晩のことだ。おとっさまは・・・・・」
箕吉はあの夜のことを、はじめて口からだした。いっぺんはなしはじめると、とめられんようになって、なにもかも嫁さんにはなしたと。
「だども、ふしぎだなあ。おまえはあの時の、あの女にそっくり似ているでよ。雪のように白い顔の、真っ黒な髪をうしろで結んだ、くちびるだけが赤い・・・・・あれは、もしかしたら、おら、雪女ではねえかと」
箕吉が、そこまでいった時だった。嫁さんは縫い物を捨てて、すっと立ちあがった。
「とうとうおまえは、いいましたね。決していってはいけないといったのに、約束を破りましたね。今はもう、子どもたちもいるから、いのちはとらないけれど、これでわたしたちは、お別れです。わたしはあの時、山小屋をおとずれた女です。おまえのいうとおり、雪女ですに・・・・」
嫁さんの声はふるえ、黒い目はうるんでおった。と、その姿はいつか消えて、ただ粉雪が、舞っておったそうな。それも消えたと。
(長野県)
私が以前に読んだ「雪女」は「不気味で恐ろしい」お話しでしたが、松谷みよ子さんのお話はもっと情の深い悲しい物語でした。恋する雪女!
印象的でしたので、ここに紹介しました。
「今みたことを、けっして人にいってはいけませんに。いった時には、おまえのいのちはない。おまえがあんまり、様子のいい若者だから、 わたしはおまえを好いたから、今いのちはとらないけれど・・・・・」
いいも終わらんうちに、娘の姿はふっと消えて、あいた戸口から吹き込む粉雪だけが、くるくると舞っていたそうな。
箕吉ははねおきて、茂作をゆすぶり、
「おとっさま、おとっさま」
と叫んだが、茂作は、ものもいわん。もう一度ゆすぶって、箕吉は、わっと叫んだと。茂作の息は絶えておった。
次の朝、箕吉はよろよろと山をおりて、村人に茂作が死んだことをしらせ、泣く泣く野辺の送りもすませた。親子ふたりの暮らしだったから、残されてみれば、あとにもさきにも、ひとりぼっちの、さびしい暮らしがつづいたそうな。そうして、 次の年の、やっぱり吹雪の夜のことだったと。
とんとん、とんとん、誰かが戸をたたく。いま時分、尋ねてくるもんがある筈もなし、誰だべと戸をひきあけて、たまげた。なんともかんとも、うつくしい娘が吹雪の中に、ぽっつら立っておった。きけば、旅のものだが、道に迷って雪の中をようやくここまで来たという。
箕吉は、
「そうか、そら困ったな。この家はおらひとりで、泊めるところもねえし、御馳走もできねえ。ほかの家さいってくろ」
といったんはことわったが、娘があんまり疲れ果てているふうなので、みるにみかねて中へいれたそうな。粥など煮ながらはなしあっているうちに、みよりのないこともわかって、娘はとうとうこの村にすみつき、箕吉の嫁さんになったと。
いい嫁さんだったそうな。つぎつぎ子どもも生まれて、しあわせな日がつづいたと。嫁さんは、名をゆきというたが、その名のとおり、抜けるように色の白いおなごで、子どもをいくたりも産んだというのに、やつれもせん。いつまでも来た時のままのうつくしさであったと。
ある夜のこどだった。嫁さんは暗いあかりの下で、子どもの着物を縫っておったそうな。そとは吹雪で、ごうごうと小さな家をゆすっていく。箕吉は寝ころんで、嫁さんの顔をみとるうちに、父親を失った日のことが、まざまざと浮かんできたと。
「おもいだすでよ、あの晩のことを」
箕吉はつぶやいたと。
「あの晩のこと」
嫁さんは顔をあげ、じっと箕吉をみつめた。
「おとっさまが死んだ晩のことだ。おとっさまは・・・・・」
箕吉はあの夜のことを、はじめて口からだした。いっぺんはなしはじめると、とめられんようになって、なにもかも嫁さんにはなしたと。
「だども、ふしぎだなあ。おまえはあの時の、あの女にそっくり似ているでよ。雪のように白い顔の、真っ黒な髪をうしろで結んだ、くちびるだけが赤い・・・・・あれは、もしかしたら、おら、雪女ではねえかと」
箕吉が、そこまでいった時だった。嫁さんは縫い物を捨てて、すっと立ちあがった。
「とうとうおまえは、いいましたね。決していってはいけないといったのに、約束を破りましたね。今はもう、子どもたちもいるから、いのちはとらないけれど、これでわたしたちは、お別れです。わたしはあの時、山小屋をおとずれた女です。おまえのいうとおり、雪女ですに・・・・」
嫁さんの声はふるえ、黒い目はうるんでおった。と、その姿はいつか消えて、ただ粉雪が、舞っておったそうな。それも消えたと。
(長野県)
私が以前に読んだ「雪女」は「不気味で恐ろしい」お話しでしたが、松谷みよ子さんのお話はもっと情の深い悲しい物語でした。恋する雪女!
印象的でしたので、ここに紹介しました。
家で練習用だから良いかな?
カラオケも出来るって言うんで色気を出してつい!
自分の習った分のところの朗読を再生してみると
欠点がよ~~~く判りつくづく、道遠し・・・と。
体験教室やっただけで見違えるほど良くなるわけ無いか!!
と気を引き締めました。
内蔵型の小さいマイク、本格的になってから買おうと思います。
結構 朗読のサイト、探すと沢山あるんですよ!
アチコチ聞いて参考にしています。
母は マイク内臓のものを 使っています。
マイク 持ちながらだと 本のページ めくりにくいですよね?
なにか いい マイクが 見つかりますように!
カセットテープ買って来ました!ところが・・・
マイクが別売りなのを忘れていました
「さくらや」に問い合わせたところ2000円から
あるそうです。良かった
そそっかしい私は、マイクも無いのに、すっかり
その気になって、ラジカセに向かい一生懸命、
「録音」を押して朗読していました。
再生しても聞こえない! なぜ?
取り扱い説明書を読むと、マイクは別売り、と
かいてあったので
小さいのが ありますよ!
私の 母が 大正琴の教室に持って行ったり
自分の演奏を録音して 聞きなおしたり・・・。
いつでも 持ち歩いて 聞いているので 私は 笑ってます。
レストランで食事をする時にも 聞くんですもの♪
・・・ちょっと ここでは かんべんしてくれ~!! って。
やりたいことは「ゴスペルソング」とか「陶芸」「アートビーズ」その他、沢山ありましたが、朗読を選びました。うららさんは「一寸」じゃすまないと思われましたか。そうですね!これは本腰を入れて遣ってみたいと思っていますが、月一回ではあいだが空いてしまうのが残念です。声だしと感情の入れ方はこれから徐々にと思っていましたが、「聴く側の思い」は抜けていました! 親しい友だちに聴いてもらって、感想や注文など、遠慮なく聞いてみたいです!!
テープにとって! 取りたいです。自分の耳に聞こえる声と、テープの声とは違いますよね。いまは如何すれば取れるのかな?カセットテープって今でも売っているのかな?明日にでも電気屋さんで聞いてみます。
アドバイスありがとうございます。
ご主人、本場で雑技団の演技をご覧になったのですね。
本当に豪華で煌びやかで想像以上でしたよ!
さて…これは私は続けられるかと、こればかりは一寸足踏み…
(一寸やってみようではすまないのじゃないかな~と)
だからばーばーサン、頑張って挑戦して見て下さい
シッカリと声をだし、感情のタイミングの入れかた、聞く側の思いも…テープにとって(余計なお世話でした)
遣り甲斐の有る挑戦だと思います、
中国雑技團は、上海でツレアイが見て感激しておりました
中々煌びやかで綺麗で本場での舞台の華やかさは凄いらしいですね