タイの「非常事態宣言」で市民の生活はどう変わったのか
4/1(水) 6:01配信
ダイヤモンド・オンライン
タイの「非常事態宣言」で市民の生活はどう変わったのか
バンコク市内のスーパー入り口。来客者すべてを検温。こうした風景は今や当たり前のものとなった 写真:高田胤臣(以下同)
東京都で新型コロナ感染者数が急増する中、「緊急事態宣言」がにわかに現実味を帯びつつある。一方、日本人に人気が高い東南アジアの観光国タイの政府は、3月26日に非常事態宣言を発令した。タイはこの数日、毎日100人超の新感染者が発見され、在タイ日本大使館によれば、タイ保健省公表の3月30日時点におけるタイ国内の累計感染者が前日比136人増の1524人になっていて(その内累計治癒人数は127人)、先がまったく見えない。政府は非常事態宣言の期間を現在のところ4月末までとしているが、状況次第で延長される可能性も大いにある。実際、タイ国際航空に至ってはタイ‐日本間のフライトを最長で10月下旬まで運休する決定を下しているほどである。非常事態宣言下となったタイでは今、何が起きているのか。(タイ在住ライター 高田胤臣)
【バンコクのスーパーなど、タイの街も様子(画像)はこちら】
● 過去にもあった 非常事態宣言との違い
タイが非常事態を宣言するのは、近年では2010年4月、2014年1月に続いて3回目になる。
ただ、今回の非常事態宣言はこれまでとはまったく違う。2010年と2014年のケースは反政府活動の激化による治安維持のためのものだった。そのため、反政府活動による経済活動の妨げはあったものの、政府が強制的に小売店などを営業停止させるといったことはなかった。飲食店やバーなども営業しており、在住外国人にとっては「今日もタイ人が騒いでいるな」くらいのことであった。
しかし、今回の非常事態宣言はウイルスのまん延を防ぐもので、過去2回のときとは街の様子がまるで違っている。
宣言が出される以前の時点で、3月22日からバンコクを皮切りに飲食店などの強制休業が決定されていた。接客業にあたる業種のほとんどが営業できなくなり、例外的にスーパーなどの食料品販売、飲食店のテイクアウト、ドラッグストアや銀行といった、生活に必要なところのみが営業可能となっていた。バンコクに続いて多数の県も同様の対策を実施しており、ほぼタイ全土で飲食店や映画館などのエンターテインメント系の施設、商業施設が閉まってしまった。
こうした状況において非常事態宣言が発令されたのだ。またタイと隣国に設けられた国境ゲートはすべて閉鎖され、空路においても基本的に外国人の入国が禁止となった。これらのことは、過去の非常事態宣言時にはまったく見られなかったものだ。
● 外出や移動を禁じる ロックダウンではない
一方で、外出禁止や国民の県境を越えての移動は今のところ制限されていない。ネットニュースなどでは首都封鎖を意味する「ロックダウン」がバンコクに適用されているという内容を見かけるが、実際はロックダウンはされていない。
タイ国内でロックダウンとなっているのはプーケット県だ(執筆時点)。世界的に有名なビーチリゾートとして知られ、3月30日時点の感染者数はタイ国内で3番目に多い41人となっている。そんな中、同県の感染症委員会委員長を兼ねるプーケット県知事は3月29日、ウィルス感染拡大を抑制するため、プーケット県に入る陸路と海路を4月末まですべて閉鎖することを告示した。さらに翌日の現地報道では4月10日から空路も閉鎖することも県知事が決定した。
プーケット県はタイで唯一の島の県で、他県から入る陸路が1本しかない。そのため、ロックダウンが比較的容易な環境にある。
とはいえ、「今のところ生活に影響はない。外国人を始め人が多いのは歓楽街を抱えるエリアだけで、住宅地は平穏だ」(現地在住の日本人)というのが現状だ。
首都バンコクはそこまで徹底して閉鎖的ではないとはいえ、3月26日からは他県からバンコクにつながる道路や、ほかの県同士の県境に「コロナ検問」が設置されているのも事実だ。そこでは身分証明証を提示し検温、移動の目的を説明する必要がある。
これまでの非常事態宣言では何度か夜間外出禁止令が出ている。しかし、先にも述べたように飲食店などに制限がなかったので、わりと自由な雰囲気はあった。
「飲食店の外に出なければ夜間外出禁止令に違反していない」という解釈がまかり通り、警察もこれを取り締まることはなかった。
実際、ある日本人とタイ人のカップルは2014年の非常事態宣言下で結婚披露宴をバンコクで行い、2次会は日本人経営の飲食店で朝まで楽しんでいた。
2010年と2014年の非常事態宣言はともに反政府集会の激化が理由であり、政府は集会エリア以外の地域にはまったく無関係だった。だからこそ、外出禁止令も厳密に守ることを強要されず、先述のように「飲食店の中にいれば外出ではない」というとんちのような方法で経営者たちは苦境を乗り切ることができた。
ただ、2014年5月に陸軍によるクーデターが起こり、その際に陸軍が戒厳令を敷いたときだけは例外で、このときの夜間外出禁止は厳密に守られた。タイ警察は陸軍の下部組織のような存在で、タイ陸軍は昔から政治にも強く関わってきている。それゆえ、国民のほとんどが「陸軍が何をするかわからない」との不安から深夜に出歩くことを控えた。コンビニエンスストアでさえ深夜0時きっかりに電気が消え、深夜から日の出までバンコクはしんと静まりかえった。
● 食料供給の安心感から 今のところ平穏を維持
今回の非常事態は、そんな戒厳令を出した軍部の影響力が強く残る政権が発した。また、強制休業はタイの法令である「仏暦2558年行政施策法」に基づいて不服申し立てができない上、感染症法に基づいて違反者は1年の禁錮刑や約35万円の罰金が科せられる。黙って従うしかない。さらに今のところ、休業を迫られた人たちに対する政府や地方自治体からの補償などは特に発表されていない。
ウイルス蔓延初期に観光客やタイ人の外出者が激減した際は、商業施設の店子たちが家賃減額の嘆願をするなどの行動が見られた。だが、今やタイ全土に新型ウイルスの猛威が蔓延し、国民の危機感も非常に高まっているため、飲食店の強制休業などに対する強い反発はほとんどない。今はとにかく我慢するしかないという心境のようだ。
ただし、休業により失業したり給料をもらえなくなった地方出身者たちが田舎に帰省したことで、地方でのウイルス感染が拡大する懸念が高まっており、その点については政府の失策ではなかったのかと指摘も出ている。
こうした中、一部の銀行はローンの支払いを一時的に停止したり、電気会社が料金を一部値下げするなどの動きも出始めている。
いずれにせよ、非常事態宣言の発令後も社会が比較的平穏を保っている理由のひとつに、食糧などの供給への安心感があるとみられる。
先述の通り、今のところ外出禁止はなく、飲食店もテイクアウトなら可能であり、かつスーパーも食料品売り場はオープンしている。生活に必要なものはそろうので、そのあたりの心配は少ない。国境が閉まっているとはいえ、最低限の物流と運行要員の出入国は可能なので、豊饒な土地で農作物も豊富な東南アジアはまず飢える心配はない。
むしろタイは周辺諸国の中でも製造力や食品加工のレベルが高く、たとえばラオスやベトナムのコンビニで売られている商品の多くがタイ製だ。タイ国内の物流が停止しない限り、スーパーやコンビニの棚からものがなくなることはないだろう。
また、タイは国民の94%が仏教徒であるといわれる仏教大国。徳を積むことを喜びとし、助け合いの精神が強い。
こうしたこともあってか、今のところ、買い占め騒動のような事態はほとんど見られず、スーパーなどでは卵、豚肉、インスタント麺、缶詰などの一部商品を除けば、平常時と変わりがない。
とはいえ、タイでも新型コロナへの対応は日を追うごとに厳しくなりつつある。
今のところ外出は可能だが、ある日突然禁止になるかもしれない。
タイでも徐々に不安は高まりだしている。SNSでは、フェイクニュースも含めたさまざまな情報が流され、タイ政府は神経をとがらせている。
私が過去に見てきたタイの非常事態はいずれも政治的な問題に起因しており、和解や武力衝突などはあれど、解決は可能だった。
しかし、今回の非常事態は、先が見えないウイルス感染拡大への不安と生活のさまざまな制限により、すでにタイ国民の心的ストレスは相当に高まっているような空気を感じる。今後、経済活動への影響のみならず、治安が悪化することを懸念している。
高田胤臣
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bri***** | 1日前
バンコクは地方に比べて物価が高く休業となった人の多くは地元に帰っていると聞いています。
非常事態宣言が出される少し前から、バンコクから地元に帰る大勢の人が、バスターミナルに押しかけているニュースもあり、今後地方に広がる恐れも大いにあると思います。
また上記の理由から、今さらバンコクをロックダウンしたところで大きな効果は得られないでしょう。
もし、日本で非常事態宣言や企業の活動停止を行うのなら、合わせて東京から地方への移動の制限をしないと、比較的被害が少ない地方に広がる可能性も十分に考えられます。
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pol***** | 1日前
挙示されている政治的戒厳令は、反政府派の暴走や激化が原因ではなく、守旧派の宮廷・財界・軍が結託し、反政府「暴動」の様相を醸し出すため、スナイパー等の殺し屋まで送り込んで工作したもので、事実を歪曲している。
また、決して自由意思に基づく「和解」等ではなく、軍の強権(不成不当な選挙含む)、そして究極には極右テロの恐怖によって押さえ込まれているのが実情だ。
それに加え、タイ社会の「正義を追求して騒ぐな」という雰囲気、法的強制を伴ってはいるが、王室や仏教界という理屈抜きに「敬愛」し崇拝しなければならない対象があることが安定の根拠なのだろう。
そしてタイの支配層は、若干の恐怖と、迷信に基づく崇拝に加え、いわゆる「パンと娯楽」を与えておけば御し易い社会だと認識して統治しているのだ。
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!, | 1日前
食料の供給が十分でも金がなきゃ買えないじゃん。
多くの人は収入途絶えていて、貯蓄が少ないどころか借金ある人も山ほどいるのにどうなってるのか気になるところ。
「市民の生活」とタイトルにして置いて、日本人観光客の感覚でそこら辺には一切触れないって浅すぎる。
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iwa***** | 1日前
この方、最近、ベトナムから戻られたと記事にされていたと思いますが、14日間の自宅待機の後に街の取材をされているのでしょうか?。
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ro_***** | 1日前
バンコク在住ですが、今のところは平穏です
しかし多くの店が休みだして一ヶ月後4月の後半どうなってるか不安でしかない
コロナなら拡散も不安だが治安悪化も不安
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pon***** | 1日前
タイは対応が早くて素晴らしい。
都市部は宅配も発達しているから生活は不便だけど大丈夫なようですね。
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sin***** | 11時間前
在住ですがあまり変わりません。食料品も普通に手に入ります。
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pan***** | 1日前
一方日本では毎日100人以上発覚しているのになんの宣言もないのであった。
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タイ在住中 | 22時間前
今日から深夜から早朝にかけてコンビニも閉まるようになりました。治安だけが不安に
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God***** | 1日前
タイ人は家族、親戚の繋がりが強いので何かあればすぐ田舎に帰れば良いと思っています。実際タイの田舎に行くと、農繁期以外は何もしないで一日中皆んなのんびりとして過ごしており、これが一種の社会保障のような役割をしています。
年中暖かいので米は二毛、三毛で収穫でき、バナナやパパイヤなど年間通して食料は豊富にあります。
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