ペットのクローン販売、中国で拡大 犬580万円、猫380万円…「生命の尊厳を脅かす」規制求める声も、
中国で拡大 犬580万円、猫380万円…「生命の尊厳を脅かす」規制求める声も
4/21(火) 9:45配信
西日本新聞
ペットのクローン販売、中国で拡大 犬580万円、猫380万円…「生命の尊厳を脅かす」規制求める声も
北京近郊に住む男性が依頼したポメラニアンのクローン犬。本来は1匹の予定だったが、2匹誕生したので引き取った
かわいがっていた犬や猫が死んで悲しむ飼い主のため、ペットのクローンを作って販売する-。こんな小説のようなビジネスが中国で広がりつつある。北京のベンチャー企業が2018年から一般向けに始め、1匹数百万円と高額にもかかわらず、依頼が相次いでいる。ただ、クローン技術の商業利用には専門家から「生命の尊厳を脅かす」と規制を求める声も上がる。
【写真】性格も似てる?タレント犬とクローンの子犬
ふわふわした茶色い毛の小型犬がマンション内をところ狭しと駆け回る。「死んだ愛犬そっくり。性格まで似ている」。北京近郊に住む40代男性の李さんは満足そうに目を細めた。
ペットのクローン販売、中国で拡大 犬580万円、猫380万円…「生命の尊厳を脅かす」規制求める声も
男性が17年間飼っていたポメラニアン
17年間飼ってきた雌のポメラニアンが死んだのは18年7月。「生後2、3カ月から育ててきた私にとって娘のような存在だった」。喪失感に苦しむ中、頭をよぎったのがクローンペットだった。死んだ犬の皮膚を冷蔵保存。昨年4月に北京のバイオベンチャー企業「北京希諾谷生物科技(シノジーン)」へ持ち込んでクローン作りを依頼した。
同7月に生まれたクローンの子犬は2匹。想定外だったが「喜びが増えた。引き取らないわけにはいかない」。死んだ犬とは別の名前を付け、日々成長を楽しみにしている。
クローンペットに対する批判は李さんも知っている。しかし「全ての科学技術には論争がある。クローンは成熟した技術で、倫理的にも問題はないと思う」と意に介さない。
「クローン技術を生かしてペットロスを解消したい」
「ペットを亡くした飼い主の6割が心理的な病を患うという調査もある。クローン技術を生かしてペットロスを解消したいというのが私たちの思いだ」。シノジーン社の王奕寧・副総経理(44)は強調した。
17年末からクローンペット事業に着手。18年7月から一般向けにクローン犬を作り始め、昨年7月からクローン猫も作っている。費用は犬が38万元(約580万円)、猫が25万元(約380万円)。昨年末までに犬46匹、猫4匹のクローンを誕生させた。
クローンを作るにはまず、犬や猫の皮膚などから体細胞を採取する。皮膚は最低2ミリ四方が必要で、死後1週間以内に採取しなければならない。その後、体細胞から抽出したDNAを卵子に入れ、代理母の犬や猫の子宮に移植する。受注から6~10カ月後にはクローンを渡すことができるという。米国と韓国にもクローン動物を作る企業があるが「比較的安価に提供できるのが私たちの強み」と王氏は強調する。
近年のペットブームを背景に、同社の顧客のほとんどは中国人が占める。中には愛犬を連れて中国を訪れ、クローン作りを依頼した日本人もいた。新型コロナウイルスがまん延した今年は、皮膚などを採取できない状態が続いているが、王氏は「中国国内の感染は収まりつつあり、クローンの作業も回復している」と話す。今年は80~100匹の受注を目標に掲げる。
北京市公安局は警察犬のクローン犬
クローン動物はペット以外にも活用が進む。シノジーン社は昨年、映画やCMに出演するタレント犬のクローンを誕生させた。高齢となったタレント犬の体力低下を懸念した所有事務所が依頼した。クローンの子犬は現在1歳。「外見だけでなく、集中力が高いところも似ている。訓練すれば映画にも出演できる」と好評だ。「実はクローンの子犬はもう1匹生まれており、弊社の広告塔として活躍してもらう予定だ」と王氏は明かした。
昨年11月には、北京市公安局が警察犬のシェパード2匹の皮膚から、クローン犬6匹を作り出したと発表した。6匹は記憶力や攻撃性など多くの面が類似。通常の警察犬より高い能力を発揮しているという。同じようなクローン警察犬は雲南省昆明市も導入した。中国当局の関係者は「クローン警察犬の大量化、優れた警察犬の“細胞倉庫”作りに向けて関係企業と協力していく」と話した。
「無事に生まれるのは3割程度」
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広がりを見せるクローン動物だが、課題も少なくない。その一つが成功率の低さだ。代理母は流産する割合が高いとされ、シノジーン社も「無事に生まれるのは3割程度」と認める。失敗に備えて複数の代理母を用意するのが一般的で、卵子を提供する別の雌も必要となる。クローン1匹作るのに、多くの雌に負担を強いているのが実態だ。
中国を含む各国はクローン人間の作製を法律などで禁じているが、クローン動物は明確な規制がない。国際的なルールの必要性が指摘されるが、動物の命や人との関わり方については、文化・宗教面から各国で考え方が異なり、議論は進んでいない。
何よりクローン動物の普及によって、ペットの命を軽んじる風潮が生まれないか懸念が残る。クローン技術への抵抗感が薄れ、人間に試してもいいという考えが広まる可能性も否定できない。シノジーン社の王氏は「そう考える人はいるかもしれないが、私たちは組織で運営している。禁止されたクローン人間を作ることはない」と言い切る。
クローン犬2匹を購入した李さんも「将来に備えて自分の細胞を残そうという気持ちは全くない。人間の寿命は自然なものだ」と笑い飛ばした。しかし、愛犬については考えが異なる。もし今回の2匹が死んだら、また新たなクローンを依頼するか。そう尋ねると言葉を濁した。「その時になったら考える」
クローンの広がりが命との向き合い方を問いただしている。 (北京・川原田健雄)
国際的ルールづくり議論を 北海道大教授 石井哲也氏
クローンペットにはどんな問題点があるのか。生命倫理に詳しい石井哲也・北海道大教授に聞いた。 (聞き手は川原田健雄)
-企業側はペットロス解消につながると強調する。
「遺伝情報の似通った動物が手に入るだけで、死んだペットが生き返るわけではない。悲しみは一時的に解消されるかもしれないが、それはごまかしでしかない。逆にクローンが手に入るからと、命が尽きる瞬間までペットに寄り添わないなど、飼い主の責任放棄につながらないか懸念する」
-技術的な課題は。
「代理母が流産したり、クローン動物が生まれてもすぐ死んだりするケースが少なくない。一定程度、健康なクローンを作るには複数の代理母に出産させて数を確保する必要がある。移植用の卵子を提供する雌は代理母とは別に必要で、ホルモン注射をして無理やり過排卵させている。非常に乱暴な繁殖方法だ」
-クローン技術を動物に適用すること自体慎重であるべきか。
「医学的な実験など限られた場面ではあり得る。しかし、クローンペットが普及すれば、愛犬が病気になっても新しいのを作ればいい、いらないから捨てるとなりかねない。ペットロス解消と言うなら、事故死した子どものクローンを作ってもいいじゃないかという考えが出かねない。かけがえのない一つ一つの命を大切にするという根幹が崩れる恐れがある」
-中国でクローン技術の活用例が増えている。
「中国はバイオテクノロジーなど産業化できる科学技術分野に国家として膨大な資金を投入している。クローン技術も当局主導で警察犬を誕生させており、お墨付きを与えているようなものだ。当然ペットへの適用もOKとなる」
-法的な規制は。
「必要だが、国際的な統一ルールは難しいのが現状だ。ただ、近年は動物の命のあり方に関心を持つ人が増え、国際的な『動物福祉』の意識も高まっている。クローン技術について幅広く情報提供し、市民が議論を深めることが大事だ。そこから最低限守るべきラインが見えてくるかもしれない」
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