異形の仲間たち見聞録

私が見てきた精神疾患者たち

小説 『呆け茄子の花 その五十一』

2021年05月09日 01時55分23秒 | 小説『呆け茄子の花』
とうとう尚樹は、たった二日間で机上の荷物や他のところにあった自分のもの全てを持ち帰ってしまった。その後の部長のリアクションは別に気にしていなかったが、その後なんら言葉や手紙はなかった。そのことの方が尚樹の気を患わせることがなかったので良かった。課長から退職に当たって事務的な処理をしに少しだけ来て欲しいというので、行ったが捺印や住所、氏名の記入程度で終わった。尚樹は手続きが終わると、内密に各部署の親しくしてもらっていた人たちに極秘に「暇乞い」のあいさつをしに回った。なかには、尚樹の心情を察してか「きっと、いろいろあったんやな」と声をかけてくれる人が居た。人中ではあったが尚樹は思わず今までのことが溢れてきて涙がこぼれそうになったが、やっとの思いでこらえるのが精一杯だった。そんなこととは知らない患者さんたちは「勤務上がり」と勘違いをしてか「さよなら」といつもの言葉をかけてくれ、尚樹もその言葉に応えた。駅へ向かう途中、振り返り大きな病棟を見て「二度と来るまい」と思い駅へ急いだ。




その五十二へ続く





















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小説 『呆け茄子の花 その五十』

2021年04月10日 17時51分15秒 | 小説『呆け茄子の花』
尚樹の仕事場が荷物を抱えて退勤する前に、課長の部屋に赴いた。課長は丁度在室していた。課長には前もってメールを送っていた。「退勤時にお話しがあるのでお部屋へ伺います。」と。部屋へいくと両手に荷物をいっぱい抱えた尚樹を見て半笑いしながら「尚樹さんどうしたんですか?」と白々しく言った。課長はそう言いながら隣部屋へ導いた。尚樹は課長の前で過剰に深刻な顔を作って「今日のことどう思われました?」と朝に話しはしたのだが改めて聞いた。「えっ?どうって・・・。」言葉に詰まった様子だった。尚樹は率直に「辞めようと思うんです。」というと課長は慌てて「えっ!?ちょっと急すぎませんか!?」。課長も尚樹からメールが来た時点で想定の中に入っていたはずだが、現に言われてしまうと今後のことが頭の中を走馬燈のように巡って行った。「(・・・部長にどう言おう。まずはこの男を翻意させることだ。)」と思い「考え直しませんか?朝もいいましたが僕もよく怒られるし、そういった意味じゃ仲間じゃないですか。」この後、十分を超える課長の説得があったが、頑ななところがある尚樹は動じなかった。尚樹は今まで何も聞いていなかったかのように「明日で荷物を全部出し終えるので、退職の手続きを完了出来るようにお願いします。」と吐き捨てるように言いながら一応、一礼し退室した。課長は座っていた椅子から落ちそうになった。「(・・・これは部長にどう言えばいいのか?とりあえず尚樹には頭を冷やすように時間を掛けよう。)」と。尚樹は帰路辞めると決めたことは、これ以上考えること無く、なにかすっきりした表情で両手に抱えた重い荷物を持って帰った。寝る際も逡巡することなくそのまま朝を迎えた。尚樹は「今日で意地でもすべて持って帰る。否、そうしなければ部長の介入してくる。」と思い頑丈な袋をバックに詰めて出勤した。出勤すると尚樹のデスクの上に一枚のメモ書きがあった。そのメモには「仕事のこと心配しています。」と。部長のサインがあった。尚樹はスッカリ白けていて、以前部長に言った言葉を思い出して欲しいと思った。それは時期を違えて二つの言葉であった。一つは「言葉の矢は放つと戻らない」、「叩いた手は痛くない」というもの。これはどこの格言でもなく、尚樹自身が思ったことを端的にしたものだった。言葉を発してしまうと、その言葉は「無かったこと」にできないので発言は慎重でありたい。また暴力や言葉の暴力は加害者は一切痛むことがない。親が子どもを叱る時はあるだろうが、その言葉は『コントロール下』にあって計画的である。部長が言い放った言葉は、その言葉に無責任で一時の感情のまま表したもの。そして相手がどんなに傷ついても一向に顧みることはない。そんな部長が自身の『悪癖』とも言うべきことに気づいて欲しかったが、尚樹は今まで今回尚樹が体験したことその影響で退職した人を数例知っていたので尚樹自身の退職も部長の心の奥深いところにはなんの影響も無いまま終わるだろうと思っていただけにメモ書きを見て白々しさを感じたのだった。「このメモは所詮『付け焼き刃』」と。




その五十一につづく






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小説 『呆け茄子の花 その四十九』

2021年04月08日 03時30分04秒 | 小説『呆け茄子の花』
尚樹は課長との話を終えて自室に戻っていつもの仕事に戻った。ただ黙々とそして丁寧に。午前中の仕事の記録を付けていると、「この部屋のもう一人の住人」である部長が入ってきた。なにか数時間前の怒りを入ってくる前にわざと沸き立て直して入ってきたような「無理やりな怒り」で入ってきたように見えた。尚樹が何事も無かったかの様に「お疲れ様です。」と声を掛けると、部長はキリッと尚樹を睨み付けた。尚樹はこれまた何事も無かったようにPCに向き直り一心に記録を付けていた。早々に部長は荷物を持って部屋を出て行った。尚樹は一つため息をついて「相変わらず子どもみたいだ。」と思った。尚樹は今までの人生の中でいわゆる「修羅場をかいくぐって来た」ことを思うと下品な言い方をすれば「屁」の様なものだった。尚樹はふと、以前に部長が言っていた医師になった切っ掛けを聞いたことを思い出した。部長は医師の家系で親に従って医学部にはいったもののどの診療科を目指すべきか迷っていた。その頃、「遅れてきた思春期」とでも言おうか、人生に迷い、毎日のように「淡い希死念慮」が頭をもたげてきたそうである。その思いもいつの間にか消え淡い死を考えていた当時を振り返って、「精神科」を選んだそうである。その考えに至ったのも、聞いた当時も今も部長の経験からすれば大きな事だったことかもしれないが、尚樹に取ってみれば「屁」のようなことだと思った。精神疾患者の思う「死」への思いはもっと切迫した、まさに「瀬戸際」の体験であり、人によってはそのまま逝ってしまう事もある「隣人」のようなものであるからだ。記録を書き終えた尚樹は時刻がちょうど昼時を30分ほど超過していることに気づいた。尚樹は自然解凍のおかずの入ったご飯特盛りの弁当を取り出し、一気に掻き込んだ。13時まであと15分ほどあるので机に突っ伏して仮眠を取った。あの会議後の叱責の時に部長は「ろくに仕事もせずに、休んでばかりいる。」というのは、食事を終えた後のこの一服を指しており、時間を超越して働いている部長からすれば昼の一服をしている尚樹のことを「だらけている」程度にしか思っていないように見えるのかもしれないが、以前に聞いた部長が当直明けの時にどうしても日中堪えきれなくなった時には、当直室や自分だけの「診察室」で仮眠をしていることは直接聞いた話しであり,尚樹にとっては事故の後遺症により倦怠感が強く出て「昼の休憩時間」に休息を取ることを「だらけている」とは心外な話しであって、こういう時に本音が出るもんだと思った。また部長であり主治医の発言でも無いなと思った。頭を上げると13時も5分前だったので尚樹は仕事に戻った。部屋を後にして前から指示をもらっていた「ピアカウンセリング」をしに病棟へと向かった。長いカウンセリングを終え、自室に戻り記録を早めに付けて退勤時間の30分前から「準備」を始めた。「退勤の準備」ではなく「退職の準備」に。自分のデスクの上にある持ち込んだ書籍をちょうど帰りに買い物しようと持ってきていた「エコバッグ」と部屋にあった丈夫な紙の袋に詰め込み始めた。二つの袋がいっぱいになっても半分ほどの書籍と持ち込んだ文具等は残ってしまった。「致仕方なし」と思い部屋を後にした。



その五十につづく






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再開!小説 『呆け茄子の花 その四十八』

2021年04月04日 14時54分41秒 | 小説『呆け茄子の花』
永らく投稿をせずに参りまして申し訳ないことと思っております。_(._.)_
先ほどまで「終了のお知らせ」を書いていたのですが、「このような時期にこそ書いてみよう!」と思い細々と書いていこうと思い立ったところでございます。では、「再開、『呆け茄子の花 その四十八』」の駄文をどうぞ。

尚樹に身の上に突然の大きな転機が訪れてしまった。あえて「訪れてしまった。」というからには良い転機ではない。その日の朝の出来事である。この日は朝一番からある会議の準備に尚樹は忙殺される。参加人数分の書類のコピーや「主治医=部長」の業務に関する「道具」を取りに建物内を縦横に駆け巡らなければならない。
これが手間取るのである。各部屋に置きっ放ししがちである主治医であるが故、いわば「ひろって歩く」のである。なければ、ならず必死に会議に間に合わせても「あっ、そう」の一言にも足らないような言葉で済まされるのであるから、まったく報われないのだ。この会議は会社の関係部署の人間ばかりで無く、他の行政機関、民間企業からも参加するため「シャンシャン会議」では済まないので終了時間もまちまちであるので、その後の予定も組みにくい。そんな中、尚樹は「ある仕事」を上司に断らなければならなかったことが頭の中を支配しており、この日の会議で「とちり」つまりは「忘れ物」をしてしまい。会議中に外部の人間がいる前で主治医から厳しく叱責を受けたのである。そればかりか、会議後にその「断り」をしなければならなかった。会議終了後、尚樹は資料の片付けをしながらいると上司と二人っきりになるタイミングを計っていた。運良く他の関係者は退出し、主治医/部長と二人っきりになった。以前に会議後に厳しく叱責を受けたことで二人にはなんだか話す雰囲気は流れておらず、しかしこのことは離さないわけに行かないことであったので「すみません、春から研修を受けていた仕事なのですが、自分には向いていないのでお断りしたいと思います。」社会的にはあり得ない事かもしれないが、尚樹の心中は「このまま続けていては迷惑が掛かる。」思いが強く、断ったのであるが・・・。「主治医=部長」は「そんなことを言って君は『卑怯』だと思わないのか!?そんなことは認められない、課長を呼べ!」といわば『ヒステリー』を起こし、私は課長を呼びに部屋を飛び出した。課長は訳のわからぬまま尚樹と会議室に来て、課長の面前で尚樹が改めて叱責されるのをただ見ているだけであり、時折主治医から同意を求められた際に首肯するだけであった。最後に「認められないから!」という言葉で終わり、尚樹は課長を残し会議室を後にした。自室に戻った尚樹は直属の上司である課長から電話が掛かり課長の部屋へ赴いた。課長は隣の部屋へ促し、二人っきりで話した。「尚樹さん、どういうことなんですか?部長から聞いたのでは、あの『ヒステリー振り』では内容解らないんだよ。」と困惑する課長に対し、新たに「試しで」仕事をすることになった「医療事務」が尚樹には向いていないこと、部長からは先週「向いていなければ、辞めても言い」と言われたことなど説明し、その矛盾もできるだけ私感を入れずに話した。課長はただ「う~ん」とうなって「私もよく怒られるし、その度やり過ごしてきた。今回もガマンしてくれよ。」と、お得意の「事なかれ主義」を発動した。尚樹は返事をせずままに部屋を後にした。自室にもどった尚樹は、いつになく平静であった。
それはなぜか・・・




その四十九につづく・・・


私の亡失のため、設定の変更いたします。(小説にこんな事はあり得ないのでありますが)
(~_~;)
・主治医/部長(♀)
・直属の上司/課長(♂)以上です。




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小説 『呆け茄子の花 その四十七』再開は突然に・・・_(._.)_

2021年01月16日 11時21分13秒 | 小説『呆け茄子の花』
※身辺というか心辺穏やかでないものの、また書くこととなりました。
よろしくお願いします。

|||||||||_(._.)_|||||||||

「日常」というのは「非日常」の連続のようなもの

いつものようにDr.のもとで仕事をする日常であった。
ある日、Dr.から「尚樹さん、前に言っていた勤務時間を増やしたいって
話しですけど、今の仕事で増やすのは難しいのだけど、
この病院で違う職種で勤務時間を増やしてみませんか?」
「どんな仕事でしょうか?」
「受付と事務なんですけど」
尚樹はDr.の『今の仕事では勤務時間は増やせない』という言葉が
引っかかったものの、とりあえず受けてみることにした。



今回はこの辺で










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