異形の仲間たち見聞録

私が見てきた精神疾患者たち

小説 『呆け茄子の花 その四十五』

2019年08月04日 01時20分09秒 | 小説『呆け茄子の花』

勤務先の病院の最寄り駅で降りた尚樹の心はすでに怒りに変わっていた。

病院に着くと部長はいつもの軽い調子で

「あ~、すみませんこの書類をスキャンしてもらってメモリーに移してください。

もらったらすぐにメールに添付して送りたいので」ということであったが、

尚樹は返事もせず、首肯したのみで書類を受け取った。

内心、「自分でやって」という思いが強かった。

作業自体は10分もかからず、USBにデータを移し部長に手渡し、

「それでは失礼します。」といってすぐさま駅に向かった。

事故に遭って精神に傷を負ってからというもの尚樹はストレス耐性が弱くなって

感情の起伏を抑えきれなくなることが多く、過去に部長と口論したこともあったし、

また、自分で怒りを上手く消化できず、寝込んで翌日欠勤することも少なくなかった。

そのようなわけであるから、今回の事に関しても怒りを消化できずにいて、

怒りの反面、来週の出勤に影響しないか心配であった。

だが、心配は悪い方に傾き月曜、火曜と寝込み欠勤してしまった。

水曜には出勤したものの勤務先で心許すことが出来る職員に不満を漏らしてしまうのである。

それで済めば良かったのだが、その矛先は組織上、部長の上司に当たる

尚樹の主治医にも不満を「漏らす」のではなく「爆発」させてしまったのである。

主治医に尚樹は、「先週、こんな事がありまして・・・」と話していく中で

尚樹はヒートアップしてしまい、思わぬ事に主治医が尚樹に対して

「謝罪」せざるを得ないほどになってしまったのである。

この事は尚樹自身にとって後悔が残る出来事であった。

 

 

 

その四十六につづく

 

 

 

 

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