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 NTTドコモとKDDI(au)、ソフトバンクの携帯3社は2018年5月9日に新たなメッセージングサービス「+メッセージ」を一斉に始める。4月10日に3社で共同発表した。動画や長文、スタンプなどを送ることができ、「LINE」のように使える。3社はLINEからの乗り換えを狙うが、果たしてもくろみ通りに進むか。

 携帯3社はショートメッセージサービス(SMS)の機能を刷新する形で+メッセージのサービスを始める。ユーザー登録は不要。3社の携帯電話の契約者ならだれでも使える。他社の契約者ともやり取りでき、例えばドコモの利用者がauユーザーにメッセージなどを送れる。

「+メッセージ」の利用例
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 相手の電話番号さえわかれば手軽に利用できる。メッセージの送受信にはデータ通信料がかかるが、サービスの利用料は無料だ。NTTドコモの藤間良樹コミュニケーションサービス担当部長は「電話番号だけでやり取りできるSMSの良さを生かし、SMSを進化させた新たなサービスを提供する」と意気込む。新サービスは携帯通信事業者の業界団体であるGSMA(GSM Association)の標準規格である「RCS(リッチコミュニケーションサービス)」に準拠する。

 SMSは送れる文字が最大全角70文字に限られていた。+メッセージは最大で全角2730文字の長文が送れる。文字以外にも動画や写真、専用スタンプをやり取りできる。スタンプは3社共通で無料で使えるものを500種類用意する。複数人でメッセージをやり取りすることも可能だ。KDDIの金山由美子パーソナルサービス企画部長は「広く顧客に使ってもらうサービスを目指す」と話す。

 3社が2018年5月以降に発売するAndroid搭載のスマートフォンについては、+メッセージのアプリがプリインストールされている。2018年4月までに発売された機種の利用者はアプリをダウンロードするか、既存のSMSアプリなどを更新して使う。iPhone向けアプリの提供時期は未定という。

カギは「認証」の機能に

 使い勝手や料金などの面ではLINEとほぼ横並びとなった格好だ。SMSの刷新によって携帯3社がLINEに「追いついた」とも言える。だが乗り換えを促すほどのインパクトは欠く。打倒LINEは程遠いのではとの質問に、携帯3社の関係者は「そもそも打倒LINEを目指しているわけではない」とかわす。

 だが操作画面はLINEと見た目がそっくり。ドコモの藤間担当部長は「アイコンやUI(ユーザーインタフェース)が同じで名前も同じサービスを3社そろって始める」と新サービスの意義を強調するが、都内で20代男性に聞いたところ「同じような機能ならLINEを使い続けると思う」と当然のように話した。

新サービスに勝ち目はないのか。可能性があるとすれば、ユーザー認証の仕組みだろう。+メッセージは電話番号を使ってやり取りするため、携帯3社の契約者として認証されていることになる。

「+メッセージ」とLINEの比較
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 携帯3社の加入審査を通った人であるとの裏付けがあれば、個人のやり取り以外にも使い道が広がる。例えば企業が+メッセージのプラットフォームを活用すれば、航空会社の予約確認や電力会社の引っ越し手続き、電機メーカーの製品サポートなどに使える。海外ではRCSを通じて航空券を予約したり写真のプリントを申し込んだりできるサービスがあるという。「送金や決済などの用途もあり得る」とソフトバンクの千葉芳紀APIマネジメント部長はみる。

「打倒LINE」というより、まずはスタートラインに

 携帯3社が新サービスに乗り出す背景には、データ通信以外の収入を増やしたいという狙いがある。3社のデータ通信収入は人口減もあり大幅増が見込みにくい。企業として成長を続けるには動画見放題など有料サービスの売り上げ拡大が欠かせない。

 企業が顧客サポートやマーケティングなどに活用できれば、新たなビジネスの可能性が出てくる。顧客管理システムや予約システムなどの外部システムとの接続API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)を取りそろえれば面白くなる。

 もう1つ興味深いのは、メッセージを読んだかどうかが分かる「既読」表示をオフにできる機能だ。設定で「既読」機能をオフにすると、自分とメッセージを送る相手の双方で既読を示すマークが付かなくなる。米フェイスブックのSNS「Facebook」から利用者8700万人分のプライバシー情報が流出した事件を見ると、「たかが既読機能」などと侮ることはできない。

 フェイスブックの事件は他人の投稿に「いいね!」をしたデータからユーザーの趣味嗜好や信条などが明らかにされてしまった。既読表示についても「いつ読んだか」「誰のメッセージは読むのが早いか」といった傾向はもちろん、位置情報と関連づけて「どこで読んだか」といったデータをサービス提供会社が取得したら、厄介な問題につながるかもしれない。プライバシー保護に敏感な利用者に支持される可能性はある。

 +メッセージによって自社サービスとの接触時間を増やし、新たなビジネスにつなげられるか。勝負はこれから。新サービスは打倒LINEのスタートラインに立ったに過ぎない。