吉野川流域を中心に500年前から続いてきた林業。吉野杉や吉野ヒノキという銘木を切り出してきたが、木材価格の低迷と林業不振の影が落ちる。県は、海外への木材輸出に活路を見いだそうと、昨年からインドネシアの政府関係者との間で協力を進めている。

 5月中旬、川上村白川渡。研究機関「インドネシア科学院」のバンバン・スビヤント長官(59)が来日し、県の職員の案内で視察に訪れた。

 樹齢250年以上のスギの大木が立ち並ぶ林地。空に向かってまっすぐ伸びるスギの幹は、直径が約1メートル、高さが30~40メートルほど。

 ログイン前の続きバンバン長官は「すごいですね。何世代もかけて育てるなんて」と仰ぎ見た。「吉野のスギ、ヒノキの魅力は、年輪の模様の美しさと香り。インドネシアでも富裕層には、高級木製品などの需要があるはずです」

 バンバン長官は、かつて京大大学院で研究をした経験から、日本の木材文化の魅力、木の調湿・調温効果や耐震性などの機能性に注目。自国に取り入れたいと考えている。

 県内の林業をめぐる状況は厳しい。県内のスギの価格は、1980年に1立方メートル当たり約6万1千円だったが、2015年には約1万3千円まで下がった。素材(丸太)生産量も13年度は14万8千立方メートルで、ピーク時の1962年度の約8分の1にまで落ち込んだ。

 県奈良の木ブランド課は住宅着工戸数の減少や住宅様式の変化などで需要が落ち込んだことが、木材価格の下落の一因とみている。

 吉野材のPRに取り組む吉野林材振興協議会の中野悟専務理事(71)は「木材の価格が崩れて、大半が輸送費に消えてしまう。山に残る利益は本当に少ない。吉野林業でもこれが現状なんです」と説明する。

 こうした中、県は林業・木材産業振興プランで、首都圏や海外への販路拡大を狙い、2020年度までに25万立方メートルの素材生産量を目指している。特に関心を寄せてきた海外市場がインドネシアだ。県の担当者は「人口2億6千万人で、経済成長も進んでいて非常に魅力的な市場です」と話す。

 昨年10月、県職員がバンバン長官を訪問し、県産材の特長をアピール。お互いの林業や市場の動向について情報交換を進め、輸出に向けた検討を進めてきた。今年11月にインドネシアで開かれる木製品の展示会に県の参加が決まっている。

 県の担当者は「付加価値のある良質な製品なら、売れる先があるんだという先行事例になれば」と期待を寄せる。今後、県内の事業者に現地の需要や情報を提供するセミナーを開くなど、輸出を支援したい考えだ。