なぜ、脱出できなかったのか――。台風21号と低気圧の影響に伴う25日の豪雨。千葉、福島両県で10人が死亡したが半数の5人が車で移動中に犠牲となった。約2週間前の台風19号は各地で88人もの死者を出したが、約3割が「車中死」だった。

 内閣府は、災害時の避難について原則徒歩を求めているが、避難所が遠い場合、車で向かうのはやむを得ない。車で移動中、豪雨に遭うとどうなるのか。日本自動車連盟(JAF)に聞いた。

「一般的に車のボディーの底の高さまでの水位になると、エンジンルームに水が入ってしまい、車が動かなくなるとされています。ただ、それよりも下の水位でも、走行中に巻き上げる水がエンジンルームに入り、車が停止する可能性があります。車体は密閉されているわけではないので、ホンのわずかな隙間からでも水が入ってくるのです」(広報部の担当者)

 道路に雨水がたまり始め、さらに降雨が続きそうな場合、走行できたとしても車は使わない方が賢明と言えるが、ここで疑問が湧く。

 犠牲者は、なぜ車中にとどまり、死ぬことになってしまったのか――。車が水に漬かり、動かなくなったら、車外に逃げることはできなかったのだろうか。

「エンジンルームに水が入り、電気系統がやられてしまうと、パワーウインドーやドアロックが作動しなくなります。いずれも電気で制御しているので、水には弱いのです。さらに、車内に水が入ってきてしまうと、車外の水位の方が高い場合は、水圧の力でドアを開けようとしても開きにくくなるという実験結果があります。車内と車外の水位が同じ高さになれば物理的には開くようになりますが、既に電気系統がやられてしまって、窓もドアも開かないという状況は十分に起こり得るのです」(前出の担当者)

 そのまま、パニックに陥って、車両が水没したり、濁流で車ごと川に流され、転落するなどして死に至るのだ。

 車中で窓もドアも開かなくなった場合、ガラスを割って脱出するしかない。フロントガラスは、ヒビは入るが破壊はできない強さだが、サイドか後ろのガラスは脱出時に破壊できるように、工具で割れる強度になっている。ただ、面ではなく点の力で割るなどコツがあるという。あらかじめ、車からの脱出法を確認しておいた方がよさそうだ。