ある日 私は一人でなじみの店へ向かっていた
大きな交差点の向こう側から歩いてきたのは
達也とその妻である美咲 そして娘であろう高校生くらいの少女の3人だった
私は素知らぬ顔で通り過ぎ しばらくして振り向いた
娘が何やら楽しそうな顔で、達也に腕をからませながら笑っていた
美咲も二人と並んで楽しそうに歩いていた
私は、達也の少しだけひきつったような顔を見逃しはしなかった
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「どこから見ても幸せそうな家族よね
上手くいってないなんて、無理して言わなくてもいいのに・・・
そう言えば、奥さま私の顔はご存じないのね?」
そう言った私に、なんとも情けない男は
「だから・・・そんな事言うなよ、あれは仕方がなかったんだ
あの日は娘の誕生日だったから、プレゼントをねだられて
ティファニーだぜ? 今どきの高校生はすごいものを欲しがる」
「ふふふ、でもやさしいパパは買ってあげたんでしょ?ティファニーを」
「う・・・そうさ、シルバーのネックレス ったく高くついて仕方ないぜ」
「かわいいもんじゃないの、それくらい買ってあげなさいよ
で? 奥さまにも何かねだられたとか・・・?」
「おい、真理子 お前やけに楽しそうだな? 何だかおれが苦しいことを楽しんでやしないか?」
「あら・・・? そうかしら? いいえ、そんなつもりはないわ」
「おまえさんのように金持ちのお嬢さんにはわかんないだろうな」
「いやね・・それは言わないでよ
まぁ、いずれにしても私には関係の無いことだわ」
いつでもそうだった
どの男にも敢えて深く関わらないようにしてきた
でも、達也との関係はそれまでの男たちとは
少しだけ違うものだった