「それにしてもご主人は罪なひとですね こんなに綺麗な奥さんを置いて行くなんて
僕だったら何があっても連れて行きますよ、しかもこんなに悲しんでいらっしゃる・・・」
「主人・・・?」
なぜ私が “主人を見送りに来て悲しんでいる妻” に見えたのか?
わからなかった
「ええ・・・その指輪 ご結婚されているんでしょう?」
「あ、これ・・・いいえ、私は独身です」
「えっ? そうだったんですか? いやあ~失礼いたしました。
指輪をなさっているから てっきり奥さんだと・・・
単身赴任か何かのご主人の見送りだとばっかり
いやあ~オレ早とちりだから そうでしたか・・・失礼失礼」
そう言って頭を掻きながらにこやかに話す達也を見ていると
自分のつらさもどこかへ消えてしまったようだった。
「うちはね、女房と娘がふたりでディズニーランドへ行くというので送ってきたんですよ
本場に行ってみたいと言うもんでね・・・全く、困ったもんですよ」
「まぁそうでしたの、それはそれは楽しいでしょうね」
私は当たり障りのない返答をして無理して笑ったかもしれない
「どうです? 具合もよくなられた様子、よかったらお送りしましょうか?」
「いいえ、それには及びません 私も車で来ていますので一人で大丈夫です。
ご親切にありがとうございました。」
そう言って立ち去ろうとした私の手を達也は少しだけ強引に引っ張ると
「ここで会ったのも何かの縁だ、よかったら連絡先を教えていただけないでしょうか?」
「まぁ・・・強引な方ね、奥さまもいらっしゃるのに」
少し呆れて言った私に、悪びれもない顔で笑うと
「いや・・・たまに一緒に酒でもと思っただけですよ、うちのやつあまり飲めないもんで
下心なんて毛頭ありません」
「私、飲めるなんてひと言も言ってませんのに・・・」
「いや・・・あなたの顔を見れば、イケる口だってわかりますよ」
と、しっかり下心のありそうな顔でそう言ったのだった。
40代半ばぐらいであろうか?
達也はその時無邪気な少年のような顔で、楽しそうに笑ったのだった

私はたとえ下心があろうとも
“この人なら少しの間だけでも嫌なことを忘れさせてくれるかもしれない”
と、その日携帯電話の番号を交換したのだった