お昼の休憩時間に若い女の子が私の席に挨拶に来た
二人は、イチロ兄の会社の子たちで会議の時に何度か会ったことがある
一人はこの日コースデビューだったそうで、浮かない顔をして
「私にはまだ早かった、同組の方に迷惑ばかりかけている」と肩を落としていた
もう一人は小さいころからゴルフに携わっていたらしく堂々としている
それでいてその腕前を決してひけらかすこともなくニコニコと楽しそうだった
「真理子さん今度は女子だけで来ましょうね!!」と次の誘いを受けていた時だった
まただ・・・誰かにじっと見られているような気配・・・
その日私は幾度となく同じような感覚に襲われた
なんとなく誰かに見られているような、そんな気配を何度か感じていた
周りを見渡したがこれと言って不審な人はいない
今日のコンペのメンバーは、この二人の女の子と同組の方以外はほとんど初対面の方ばかり
朝バタバタとイチロ兄から紹介を受けたがはっきり言ってほとんど覚えていなかった
改めてメンバーを見渡す、やはり見たことのない人ばかりだ
はっ!とした
初対面の人ばかりだと思っていたが、ひとりだけどこかで会ったことのある
そんな気がする人がいた
イチロ兄の同級生?・・・いや、違う
でも確かにどこかで会ったような・・・?
後でイチロ兄に聞いてみようと思い化粧直しに洗面所へと席を立った
私は本当に人の顔が覚えられない
“ここに千秋でもいればな・・・”
彼女は一度会ったら忘れないと自慢するほど人の顔や乗っている車など特徴を覚えるのが得意だった
そんなことを考えていた時思い出したのだった
“そうだ、あの時の男性(ひと)だ・・・”
以前千秋と一緒にカフェに行った時千秋がこちらをじっと見ている人がいると言ったあの人だ
“どういうこと・・・??”
今日のコンペに来ているということは、イチロ兄と何らかの接点のある人ということになる
朝の紹介の時の様子を思いだそうとするが、やはり全く分からない
“誰だっけ・・・??”
ぼんやり考えながら化粧室を出たところで誰かとぶつかった
「キャッ!」 「おっと・・失礼!」 同時に声をあげ相手を見て驚いた
そう・・・その誰だかわからない、その男性(ひと)だったのだ
私はあまりの驚きに呆然としていたのだがその相手はすぐさま
「君は・・・真理子さんだね、今日の調子はどうですか?」
と、当たり障りのないことを聞いて来た
私はとっさに上手く答えられず 「あ、久しぶりなのでいまひとつです・・」と
なんとも間抜けな答えをしたのだった
その男性は 「そうですか、どうぞ楽しんでくださいね」と笑顔で言いながら去って行った

その時はっきりと感じた
そう・・・その人に一瞬じっと見られた時に感じた気配は、
その日朝から何度か感じていた気配そのものだったのだ
後続組なんだから見られていても仕方ないかとも思ったが、
得体のしれないその男性の事が気になって
午後のスコアは散々なものだった