「股1」
電車に乗っていると、
相変わらず、股を開いて座っているおばさんが多い。
夏場は冷房の関係からか、比較的少ないようだが、
冬場になると車内の暖房でつい気がゆるむらしくて、
あちらこちらで股を開いているおばさんが出没する。
これからますます「股ぱっくりの季節」になるのである。
あるとき、電車の空いている席に座り、ふと前を見たら、
50年配のおばさんが席に座っていた。
ところが、そのおばさんは寝てもいないのに、股を開いている。
こういう場合、私はいつも自分が同じことをしているような気になってしまう。
「これは見て見ないふりをしたほうがいいかもしれない」
と思ったのだが、私の目は意に反して、ついついスカートの中をのぞいてしまった。
すると、いかにも冷え防止用のぽってりした厚手のスカートの中に、
肌色とピンク色がまじったような不気味な色の
ひざ上ズロースが、でーんと存在していた。
それを見たとたん、頭の中にはウエストの上まであるような、
股上の深いパンツ、メリヤスのシャツと化繊のペチコートが
合体したスリップまでが浮かんでしまったのである。
「早く股のぱっくりを、やめてくれないかしら」
みっともなくて、気が気じゃなかった。
だからといって、わざわざそばに行って、
「股、開いてますよ」と言うのも変だし、
ここは何とか、こちらから念波を送って、
みっともない恰好に気がついてくれとお願いした。
しかし私にはそういう能力はゼロのようで、
おばさんは大きなあくびをしながら、堂々とぱっくりをさせていた。
つづく
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