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選挙圧勝から4カ月・文政権の支持率が激減、「反日アピール」をしない意外な理由 -

2020-08-24 15:42:21 | 日記
選挙圧勝から4カ月・文政権の支持率が激減、「反日アピール」をしない意外な理由 -

菅野 朋子 Tweet

「光復節」という韓国の重要な国の行事で保守VS進歩の構図がこれほど浮き彫りになった年もなかったかもしれない。

8月15日、韓国では、「植民地から解放された光(国の主権)」を取り戻したとされる「光復節」だった。

しかし、今年、話題になったのは、文在寅大統領の演説よりも過去の親日派(日本に協力したと見なされた人物)と現政権の失政などを巡る保守と進歩のくんずほぐれつの対立だ。

対日関連についても演説で触れたのは徴用工問題のみ。「司法部の判決を尊重する」という従来の立場を繰り返し、「いつでも日本政府とテーブルに着く準備はできている」としながらも、踏み込んだメッセージはなく、実にあっさりしたものに感じられた。

それもそのはずか。文政権は韓国内の問題でがんじがらめになっている。

8月14日、下がり続けていた文在寅大統領の支持率はさらに急落。

39%にまで落ち込んだ(世論調査会社「韓国ギャラップ」)。岩盤層といわれる支持率40%を割ったのは昨年10月、曺国前法相事態以来のことだった。

与・野党の支持率が逆転するという世論調査結果

「K防疫」と自ら誇った新型コロナ対策で5月には71%の支持率を記録し、「レームダックのない稀有な大統領になるかもしれない」と夢のように囁かれたのも束の間。

3カ月で32ポイントも下落した。

さらに衝撃が走ったのは8月17日。

与・野党の支持率が逆転するという世論調査結果が出ると、汝矣島(韓国における「永田町」)をはじめメディアも騒然となった。

野党第一党の保守「未来統合党」の支持率(36.3%)が与党「共に民主党」(34.8%、世論調査会社「リアルメーター」)を上回ったのは2016年10月以来、3年10カ月ぶりだ。世論調査会社関係者は言う。

「今回の与・野党の支持率逆転が起きた背景には、与党に嫌気が差した中道層と30代からの離脱が見られたことがあります。しかし、さらに深刻だと見られるのは、湖南での支持離れでしょう」

 
湖南は韓国の南西部にある全羅道地域を指し、金大中元大統領のお膝元といわれる進歩の牙城だ。中道系紙記者は支持離れを「湖南から与党への警告」と表現した。

不動産政策での失敗で怒り爆発

文政権離れが起きている原因としてまずあがるのが、7月に詳報したように、ここ数カ月間くすぶり続けている不動産政策での失敗だ。

ソウル市のマンション価格は文政権に入ってから52%も上昇したといわれ、不動産政策が20回以上施行されたにもかかわらず、政策が打ち出されるたびにマンション価格は逆に上昇。

家を持ちたいのに持てない、借りたいのに借りられない30、40代の間で不満が膨らんでいたが、7月にはマンション保有者への税金を増額し、今度はマンション保有者からもブーイングがあがった。

こんな状況にもかかわらず、8月10日、文大統領は

「過熱現象を起こしていた住宅市場が安定化し、(マンション)価格の上昇の勢いは沈静化の気配を見せ始めている」(朝鮮日報、8月10日)と発言し、非難囂々となった。

しかし、なぜ湖南という地方で支持離れが起きたのか。前出の中道系紙記者はこう解説する。

「ソウル市民の不満はいうまでもありませんが、ソウルのマンション価格だけ高騰している現象に地方は疎外感を覚えています。

また、湖南地方を襲った水害でいち早く動いたのは野党だといわれていて、そんなところから不満が膨らんだのではないかと見られています。

ただ、今回の与党離れは不動産政策や水害での失敗だけが原因ではない。大統領も与党も4月の総選挙での与党圧勝に酔って、

与党代表が漏らした『進歩政権50年』という言葉にあらわれていたように、まるで未来永劫、今の政権が続くかのように錯覚してしまった。

その傲慢ぶりに国民の不満が爆発したんです」

昨年夏から続いている検事総長いじめ

4月15日に行われた総選挙で与党「共に民主党」やその衛星政党が国会の総300議席中180議席(除名などもあり現在176席)を獲得し、スーパー与党となったのは周知のとおり。

当初こそ、謙虚な姿勢を口にしていたが、6月から開かれた現国会では野党の協力が得られなかったとして、国会内の常任委員長職18人すべてを与党議員で固め、批判の矢が飛んだ。

さらには、昨年夏の曺国前法相事態から続いている尹錫悦検事総長いじめが度を超してきていて、これには支持層からも疑問の声が上がり始めている。

尹検事総長は、朴槿恵前大統領時代に左遷されたが、崔順実による「国政介入事件」で第一線に復帰。

文政権に入ってからは「積弊清算」で朴前大統領周辺を起訴に持ち込み、昨年7月、検察トップに任命された。

しかし、曺国前法相の捜査でその手を緩めることはなく、“敵”とみなされ、露骨に検察からの追い出しが図られていると言われている。

与党の尹検事総長憎しの感情はこんな与党議員の失言からも読み取れる。

「飼い犬(尹検事総長)が主人(政府)を噛んだと同じこと」(8月18日、中央日報)

反日政策は今や「北風」と同じ

では、韓国内での批判を外に向けるために、またぞろ「反日」が蠢き出すのではないかという視角もあるが、別の中道系紙記者は一笑する。

「日本への関心度はかなり低いし、反日は今や北風と同じだといわれていて、政府の求心力を高めるような効果は期待できません。

昨年から続いている日本製品不買運動も日本から韓国へ輸入規制が行われたことへの反発ですし、今回も強制労働者(徴用工)裁判での現金化が実現し、日本政府が報復措置をとれば、その措置への反発は高まるかもしれません。

しかし、与党が危機に陥っているために、過去を持ち出して日本はけしからんと今言っても、世論もばかじゃない、簡単に反日には動きませんよ」

「北風」とは、かつて保守政党が選挙時に自らを有利に導くために北朝鮮の脅威を利用しようとしたもの。金大中元大統領が当選した大統領選挙でそれらが工作だということが明るみに出てからは、効果はなくなったといわれる。「反日」も同じというわけだ。

サラン第一教会の牧師を逮捕しろ

文政権が立て直しを図るには、再び、感染が広がっている新型コロナ対策と北朝鮮関連しかないといわれたが、新型コロナで保守から救世主が現れた。

韓国では8月15日から感染者が3ケタ台となり、18日には国務総理がソーシャルディスタンシングを引き上げるという談話を出した。しかし、実は、ここにも保守VS進歩の陰が。

8月15日、「反文在寅」集会を行った、保守のサラン第一教会の牧師や信徒らから感染者が急速に広がると、2月の「新天地イエス教会」と同じように信徒全員の名簿を確保しようとする政府と拒否し続けるサラン第一教会との攻防が大々的に報じられ、世論の怒りの矛先は同教会に。牧師を逮捕しろという声も上がる。

一方、野党「未来統合党」は、新型コロナの潜伏期間を考えても政府の反応は過度だと非難しつつも、「新型コロナテロ」だと主張するサラン第一教会と一線を引くことに躍起になっている。

こうした攻防に文大統領の支持率は21日には8ポイント跳ね上がり47%と反動(世論調査会社「韓国ギャラップ」)。「反文在寅」集会が逆に支持率を押し上げた皮肉な結果になっている。

対北朝鮮では安保ラインを刷新し、さっそく新型コロナでの共同防疫を提案したが、北朝鮮からは「よそからの協力は要らない」とあっさり門前払い。なす術なしで手をこまねいている状態が続く。

自ら点数を落とし、劣勢は変らない文政権だが新型コロナ対策で再び一息つくのか。保守勢力が真の意味で巻き返しを果たせるかどうかの山場は、来年4月に行われる予定のソウル市と釜山市の市長補欠選挙になりそうだ。

(菅野 朋子)

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