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韓国、「原発廃止表明」原理主義と独善で唖然「電力対策」欠く

2017-07-01 11:59:16 | 日記
勝又壽良の経済時評

日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。


2017-06-30 05:00:00

韓国、「原発廃止表明」原理主義と独善で唖然「電力対策」欠く

文大統領の「関白宣言」!?

事実をねじ曲げたウソ発言



文在寅大統領はまた、野党にも相談なく原子力発電所の廃止宣言を出した。原子力発電所が問題含みであることは事実としても、国民の合意がなく一方的に廃止宣言するのは民主政治のルールに反する。

少数与党の韓国政府は、原発廃止宣言を実現できるのか。その具体的な見通しはゼロである。


文在寅氏は、日本の民主党政権を率いた鳩山由紀夫氏と、その政治スタイルが酷似している。

理想を追い求めるのは結構だが、それを実現する手法を持たずに、ただ闇雲に突っ走るだけである。

大統領府に政治経験ゼロの「86世代」を引き入れて、理想論だけを言い立てている姿は、鳩山氏を彷彿とさせる。


鳩山氏は、沖縄の基地移転で大ミソをつけた。安全保障上に占める沖縄の役割を忘れて、人情論で対応したからだ。

文在寅氏も同様である。THAAD(超高高度ミサイル網)設置の必要性が分からず右往左往している。鳩山氏の挫折は、文氏のそれを暗示している。


文大統領の「関白宣言」!?

『朝鮮日報』(6月20日付)は、「脱原発は任期5年大統領が勝手に決められる問題でない」とする社説を掲げた。

韓国大統領府は、全閣僚が決まらない段階で次々と重要な決定をくだしている。

THAAD(超高高度ミサイル網)の稼働先送りによって、米国との外交関係は急速に冷え込む前兆を見せているのだ。

これに次いで、今回の原発廃止である。

理想論から言えば、原発事故が起きた時の被害額が大きいことを考えれば、廃止するという結論もあろう。だが、国民の合意が前提である。

少数与党でしかも文氏は大統領選で4割強の得票率に過ぎない。この事実を棚上げして、一方的に「原発廃止宣言」は横暴である。

まさに、文氏自身が自戒してきた、「原理主義」と「独善」にとらわれた行動である。


(1)「文在寅大統領は19日、釜山広域市機張郡の古里原子力発電所1号機の永久停止宣言式に出席した際、『新規の原発建設を白紙化し、設計上の寿命を迎えた原発の運転延長もしない』とした上で、『脱原発の時代に進んでいく』と述べた。

文大統領は『慶州地震によって韓国も地震の安全地帯ではないことが確認された』とも述べたが、これについては当然多くの国民が同意しただろう。

文大統領の言葉通り、韓国は国土面積当たりの原発密集度が世界トップで、古里原発から半径30キロ以内にはおよそ380万人が居住している」

文大統領は、「スタンドプレー」が大好きのようだ。目立ちたがり屋である。

古里原子力発電所1号機の永久停止宣言式という舞台を利用して原発廃止宣言をした。

格好はいいが、原子力発電の穴をどうやって埋めるのか。その場合の電力料金はどの程度上がるのか。

それが、企業と家計のコストをどれだけ引き上げるのか。

こういった諸点を議論する場を、どのように開くのか。きめ細かい議論が欠かせないのだ。それもなく、「格好」をつけた議論だけが先行している。

(2)「韓国はエネルギーの97%を海外から輸入しており、年間のエネルギー輸入額は1600億ドル(約18兆円)を上回る。

そのような中で原発は電力原価の中で燃料代が占める割合がわずか2%と安く、年間8億ドル(約900億円)の輸入ウランで国全体に必要な電力の30%を賄うことができる。

原子力発電は気候変動対策や大気汚染の解消にも非常に有効だ。

文大統領は、『石炭火力発電所についても新規建設を中断し、老朽化した10基は任期中に閉鎖する』とも述べ、その代替として天然ガスを使った発電所を増やす考えを示した。

現在、韓国における原発と石炭火力の割合は発電量全体の70%を占める。

原子力を全て天然ガス発電で賄うには、液化天然ガス(LNG)を今よりも19兆ウォン(約1兆9000億円)分追加で輸入しなければならない。現時点で風力や太陽光だけで大量のエネルギーを賄うことはできないからだ」

韓国は、産業用電力料金が割安に決められている。

輸出工業を奨励する意味も含められてきた。

電力発電コストだけを比較すれば、原子力発電が優位であることは疑いない。欧州が原発を廃棄することで、当面の電力料金が跳ね上がっている。

ただ、原発の廃棄コストまで計算に入れたトータル・コストは極めて高くなる。


韓国の国内製造業は、割安な電力料金設定で支援されている。

原発廃止が、韓国の産業構造に大きな影響を与えるはずだ。雇用問題へも飛び火する。

現在の韓国経済において、喫緊の課題は雇用問題の解決である。国内の製造業が成り立たないケースが発生すれば、原発廃止が雇用問題に水を差すのだ。

(3)「文大統領の任期は5年だが、これは考えようによっては非常に短いため、大統領として決められることと決められないことがある。

脱原発や教育政策など国の根幹あるいは方向性に関わる問題は、5年の任期しかない大統領が自らの一方的な考えや偏見で決めるべきことではない。

任期中にたとえ力で押し通したとしても、5年後に再び見直されることも当然考えられるだろう。

もし今後原発や石炭への依存度を下げた場合、現状では何によってそれを賄うかというロードマップさえない。

いきなり脱原発を宣言はしたものの、これは政治的な発想によって実現できる問題ではない。

今政府では原発に強く反対する市民団体の活動家だった人物が何人も要職を占めている。つまり一方的な偏見を持った人物が国の政策を決めているということだ」。


原発の存廃問題は、文政権5年間で形がつく問題でない。

文政権がなすべきことは、広く国民に議論する場を提供することであろう。一方的に、少数与党の「共に民主党」内だけの結論を国民に押しつけることは、原理主義と独善主義の典型例である。


事実をねじ曲げたウソ発言


『朝鮮日報』(6月20日付)は、「文大統領の脱原発演説に専門家から異論」と題して次のように報じた。

(4)「文大統領は19日、最近の慶州地震に見られるように、韓国はもはや地震の安全地帯ではないことから、脱原発すべきだと主張した。

これに対しソウル大学原子核工学科の黄一淳(ファン・イルスン)教授は、『韓国が地震の安全地帯ではないという点は事実』と述べつつも『昨年の慶州地震はマグニチュード5.8で、韓国の原発の耐震設計範囲に収まっている』と語った。

もともと韓国の原発はマグニチュード6.5の地震に耐えるよう設計されている。

その後、2011年の東日本巨大地震に伴う福島第一原発の事故に鑑みて、新設される原発はもちろん、既存の原発についてもマグニチュード7.0に耐えられるよう補強工事を行った」

韓国では、昨年9月12日、慶州(キョンジュ)で発生したM(マグニチュード)5.8の強震のあと、今年の4月にM2.2の地震が連続して発生した。

これは昨年9月の余震と説明されている。

4月の余震は、週末ごとに起こるので、住民の不安を高めた。ただ、韓国の原発はM7まで耐えられるように補強工事を行なったという。専門家は、その面で安全であると保障している。

日本では、一時期の原発廃止論から、徐々に再稼働への動きを見せている。

原発廃止派からは厳しい批判を浴びているが、国民世論は容認へと傾いている。

世界最大の被害を出した日本だけに、原発批判が根強いのは当然である。

ただ、その不安を上回る安全対策がとられれば容認しても良い、とする見方も増えている訳で、最終的な判断は難しいものだ。


韓国が、一刀両断で大統領が廃止と言ったから廃止する。そういう簡単な問題でないことだけは事実だ。

余りにも乱暴な発言という批判が出ても致し方あるまい。科学的な議論を飛び越えた、感情論だけでの「原発廃止論」である。


(5)「文大統領が、『福島原発の事故で2016年3月現在、1368人が死亡した』と言及したことをめぐっても、誤解される面があるという指摘が出た。

『1368人死亡』は、昨年3月6日の東京新聞による報道だという。ソウル大学の朱漢奎(チュ・ハンギュ)教授は、『記事に出てきた死者の95.5%は、避難後にストレスで健康が悪化した60歳以上の人物で、67%は80歳以上の高齢者だった。

福島の原発事故現場において、放射線被ばくによって死亡した人は一人もいない』と語った」


文大統領は、原発廃止論の理由の一つに、日本の原発犠牲者が1368人にも上がったと指摘している。

実は、これが誤りだと韓国でも指摘されている。奇跡的に、放射能による死者は1人も出ていないのだ。ただ、この事故を悲観して命を自ら絶つという悲劇は発生した。


結局、文大統領の原発廃止論として掲げた2つの理由である、

①地震への対策と,

②日本での放射能被害者数の間違いは今後、論争の的になろう。

「原理主義」と「独善」に基づく原発廃止論が俎上に乗るのだ。


『中央日報』(6月20日付)は、「電力対策が抜けた文在寅政府の脱原発宣言」と題して次のように報じた。


文氏は、大統領になれば好き勝手に自己の信念を実現できると思っている節がある。

今回の「原発廃止宣言」はその最たるものであろう。人間は誰でも大統領の椅子に座ると、ここまで舞い上がってしまうのか。

そういう危惧の念を持たざるを得ない。もう少し、「権力の魔力性」に気づき自重すべきだ。

(6)「文在寅大統領が19日、『脱原発』方針を公式化した。この日の発表は文大統領の大統領選候補時代の公約を再確認したものだ。

文大統領は大統領選挙中、『40年後に原発ゼロ国家を達成』という公約で掲げ、新規原発建設中断および計画白紙化、脱核エネルギー転換ロードマップ樹立--を約束した。

しかし『脱原発』のためには増える費用負担問題を解決しなければいけない。この日の文大統領の発表には『脱原発』宣言だけがあり、電力需給対策の青写真はなかった」


文氏は、「脱原発」を宣言したが、具体的なその実現へのロードマップの発表はなかった。革新派メディアの『ハンギョレ』も国民合意を言い出すほど、実現のほどに懸念を持っているのだろう。

(7)「原発は最も費用が安い発電方式だ。韓国水力原子力によると、1キロワット時あたりの電力生産単価は原発が68ウォン、石炭火力が73.8ウォン。

一方、LNG発電(101.2ウォン)・再生可能エネルギー発電(156.5ウォン)は多くの費用がかかる。

発電費用がかかれば電気料金は高くなるしかない。 原発は発電コストが低いが、放射能などが流出する事故が発生すれば人間と自然に深刻な影響を及ぼす。

2011年の大地震で原発爆発事故を経験した日本の惨事が代表的な例だ」

文大統領は親環境エネルギー税制の整備、エネルギー高消費産業構造の改編、産業用電気料金の引き上げなどを代案として出している。

だが、電力料金はどの程度上がるのか。その際、産業や家計への影響がどのように出てくるのか。

それをはっきり「見える化」することであろう。むろん、原発への安全投資をどれだけ行なうか。そういった、総合的な試算を出して国民に問うべきであろう。

その点で、全くの唐突な原発廃止論の発表だ。

当然、韓国国内が動揺するという予測がつかなかったとしたならば、大統領は失格である。

ただの、目立ちたがり屋のスタンドプレーと蔑まされるだけであろう。

チョン・ボムジン慶煕大原子力工学科教授は、「電力の安定的供給という側面で緻密な計画を立て、電気料金引き上げの可能性などの現実を国民に知らせるべきだ」と指摘している。その通りであろう。



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