習近平氏は、2035年を目標にして世界最先端技術を擁して、中等先進国並みの国民所得達成の夢を描いている。
その中核は、半導体国産化である。
だが、米国からの技術封鎖によって技術導入が不可能になっている。
「借り物技術」で始めた半導体国産化が、頓挫するのは当然であろう。
『日本経済新聞 電子版』(11月2日付)は、「死屍累々の中国半導体、それでも諦めない習氏」と題する記事を掲載した。
新型コロナウイルスの震源地、湖北省武漢の市街地から車で西に1時間。
中国に数多くある「経済開発区」の一角で、窓も内装もないコンクリートだけの巨大な建造物が横たわっている。
総額1000億元、円換算で1兆5000億円を超すプロジェクトとはやされた「弘芯半導体製造」本社工場の今の姿だ。
(1)「前記の弘芯半導体製造」は、最先端の半導体受託生産会社(ファウンドリー)を目指し、オランダから最先端の製造装置を導入したと宣言して1年もたっていない。
近くを歩く労働者に尋ねると賃金の未払いが2019年秋から続いているといい、別のエンジニアは「工場では鋼材など金目の物を運び出す作業が続いている」と言葉少なだ。
敷地内で唯一、弘芯の社名を掲げる建物は粗末なプレハブだけ。虎の子の製造装置は銀行に差し押さえられている」
半導体受託生産会社(ファウンドリー)を目指した「弘芯半導体製造」が、惨憺たる姿を止めている。
破綻原因は、資金が続かなかったのか、米国の半導体技術封鎖によるものか、不明である。
(2)「武漢市が数十億円を出資し、地元の地方銀行も多額の資金を貸し付けた半導体開発はなぜ頓挫したのか。
内情を探ると、半導体国産化に挑む習近平(シー・ジンピン)国家主席の大号令に乗り遅れまいと、精査もせずに突き進んだ地方政府のずさんな姿勢が透けて見える。
弘芯半導体の経営トップ、李雪艶氏は同社の議決権の49%を握るが、半導体産業に従事した経験はない。
地元メディアによると李氏が出資する他の複数の企業も経営実態はなく、登記上の住所は大半がもぬけの殻だった。
弘芯の取締役を既に退いている別の人物が黒幕との指摘まである」
半導体産業は儲かるという噂を聞きつけて、半導体に素人が経営実権を握っていたというから驚きである。
こういう調子で、「新ビジネス」に群がってくるのが中国である。
(3)「中国の半導体開発はよくいって玉石混交、有り体に表現すれば死屍(しし)累々の状況だ。
スマホのカメラに欠かせないCMOS(相補性金属酸化膜半導体)センサーを内製化するとうたった江蘇省の徳淮半導体、フレキシブル半導体の大量生産を掲げた陝西省の坤同半導体科技も事業は休止状態にある。
坤同半導体は18年10月の創業式典で折り畳み可能な有機ELディスプレーの展示までしていた。21年には量産に移ると表明したが、実際には用地取得の段階でつまずいた。
従業員の社会保険料も19年秋に納付が遅れ始め、陝西省が出資した資金の行方はやはり分からないままだ」
何か、「百鬼夜行」という感じある。
こういう類いの企業が、いくら設備投資しても半導体産業が軌道に乗るはずがない。
半導体など高度技術は、技術開発と製造技術の二面が揃わなければ成功しない。
先ず肝心の技術開発がゼロである。
こういう土壌の中国に、最先端技術が育つのはかなりのリスクを伴うはずだ。
そのあとに製造技術(ノウハウ取得)が車の両輪のようになって、初めて成功と言える。これでは、前途遼遠である。
(4)「もちろん成果を上げている案件はある。
国有半導体の紫光集団は武漢でNAND型フラッシュメモリーの量産に成功し、より難度の高いDRAMも重慶市で工場建設に入る。
華為技術(ファーウェイ)傘下の半導体設計会社・海思半導体(ハイシリコン)のように、米国の制裁前までは最先端の技術を備えていた企業もあった。
ただ、習氏は損失が膨らんでも半導体の国産化をあきらめないだろう。
極端にいえば、中国が輸入に頼らざるを得ない主要な産品は今や大豆と原油・天然ガス、半導体を残すくらいだ。
大豆は中南米から手当てすればいいし、エネルギーもイランやアフリカ、ロシアから仕入れることができる。
米国との持久戦に持ちこたえるため、どうしても実現しなければならないのが半導体の国内調達だ」
国有企業のように、組織だった支援の受けられる企業体では輸入技術で成功しつつある。
これまでは、米国の技術がふんだんに利用可能という恵まれた条件下にあった。その恵まれた道は、もはや閉ざされている。
中国は、新幹線技術で何度も失敗した。技術の壁を越えられなかったのである。
それが、日本とドイツの技術導入で道が開けた。基礎技術の乏しい中国では、半導体製造でも同様のことが起っているのであろう。貴重な製造ノウハウが得られなくなったのである。茨の道が待っているのだ。
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