韓国は政・経・外交すべて崩壊状態、2020年4つの懸念を元駐韓大使が指摘
武藤正敏:元・在韓国特命全権大使
国際・中国 元駐韓大使・武藤正敏の「韓国ウォッチ」
2019.12.26 5:37
「一度も経験したことがない国づくり」とは?
中央日報は文在寅大統領を辛辣批判
文在寅大統領が2019年に実行した政策を振り返ってみると、残りの任期である2年半の間に、文大統領が韓国をどこに導こうとしているのか全く見通せないばかりか、隣国である日本の安全保障や、アジア経済に重大な悪影響を及ぼす危険性を高めていると思わざるを得ない。
12月19日、韓国大手紙「中央日報」に『【コラム】文大統領の〈経験したことがない国の終着駅はどこなのか〉」が掲載された。
コラムを要約すると、以下のようになる。
・同じ革新政権でも、金大中大統領と盧武鉉大統領は市場経済の原理に忠実であった。これに対し、文在寅政権では左派経済原理に従い、古い社会主義政策が呼び起こされ、韓国経済は混乱と後退に陥った。
・金大中大統領と盧武鉉大統領も南北問題に執着したが、守るべきところは守られた。しかし、文大統領の対北政策には卑屈があふれ、国のアイデンティティは傷だらけ。金大中・盧武鉉大統領の遺産に対する拒否であり脱線だ。
・文大統領の目指すところは「一度も経験したことがない国づくり」だが、その具体的な形状を示していない。金炯オ(キム・ヒョンオ)元国会議長は「任期の半分が過ぎても文大統領が国をどこに導いていくのか指向・終着駅が不明だ」という。
・文大統領は長期政権を目指し、権力掌握と体制変革に執念を燃やしている。その実践はほとんど隠密に行われたが、曺国(チョ・グク)事件を境に、露骨にそれを実践している。
金秉準(キム・ビョンジュン)元韓国党非常対策委員長(盧武鉉政権の青瓦台政策室長)は「仮面を脱ぎ捨てて、全体主義に向かおうという意志を露骨に表している」と話している。
良いところが全くない
2019年の文在寅政権の政策
コラムの趣旨は、筆者の韓国の現状分析と近いものがある。韓国の政治、経済、外交(含む北朝鮮との関係、日韓関係)の全ての面で当てはまる。
文在寅政権の政策は、あらゆる面で崩壊状態だ。
まず政治面を見ていこう。文政権は積弊の清算に邁進して、過去の保守政権の業績の否定(漢江の奇蹟の抹殺)、親日派(韓国発展の功労者)の排除を行って国論を分裂させた。
支持層(革新派)の意向に沿った政策を実践しようとしたものの、経済の低迷と北朝鮮との関係悪化を招き、加えて曺国辞任やGSOMIA破棄撤回など、支持層の期待に反する結果ばかりであった。
経済政策については、成長率や雇用、輸出、投資、ウォン安など、全ての面で状況が悪化しており、最近では物価上昇率もマイナスに陥っている。
韓国の有識者の間では、すでに危機的状況の入り口に来ているとの見方が広がっている。文政権はこれら経済政策の失敗を認めておらず、2020年に向けた有効な対策を立てることなどできないだろう。
北朝鮮との関係では、18年9月に軍事合意を結んで韓国の安保のぜい弱性を高めた上に、19年はさらにGSOMIAを破棄しようとした。
大統領の重大な任務は国の安全を図ることだ。文大統領の政策は、明らかにこれに反している。
19年2月のベトナムにおける米朝首脳会談決裂後、米朝双方から韓国の仲介者としての役割は否定されている。そんな状況にもかかわらず、依然として北朝鮮非核化問題の現実を直視せず、融和姿勢を維持している。
足元では北朝鮮は米国に対し、19年内を期限として制裁を緩和するよう圧力をかけ、挑発も行っている。しかし、米国はこれには応じないだろう。
その結果、米朝対立が極度に緊張する可能性も否定できない。
米朝両国から信頼されていない韓国には、これを止める力などない。
そればかりか、対立が激化した時に、自国の国防力を自ら下げてしまったことがどういう影響を及ぼすのか、身を以て知ることになるのではないか。
日韓関係については言うまでもない。元朝鮮半島出身労働者問題では、日韓請求権協定の精神を反故にし、今や日韓関係は危機的な状況だ。
その他にも世論工作を繰り広げて日本を非難し、輸出管理強化の問題ではいわゆる元徴用工への報復だとして、 GSOMIA破棄をちらつかせ不買運動や渡航自粛運動を展開した。
しかし不思議なことに、政権支持率は昨年からほとんど変化していない。これには世論調査に対する信頼性を疑わざるを得ない。
韓国政治の2020年を
見通す4つの懸念
2020年、韓国情勢における懸念は4つある。
第一に、長期左派政権の基盤が確立しそうな点だ。前述のように文在寅政権は失政を繰り返しているにもかかわらず、支持率の明白な下降傾向は見られない。
いかにそこに改ざんがあったとしても、文政権が不安定になった兆候は見いだせない。
それは、文政権がこれまで守りを固めてきたからだ。立法や司法、行政の主要ポストを元全共闘のような過激で忠実な人々で固め、言論を抑え、国家情報院、国防部、検察、警察を政権に都合のいいように改革してきた。
従って、文政権の政治がいかに韓国の将来にとって障害となるものだとしても、朴槿恵前大統領のように弾劾される可能性は少ない。
文政権はこれらの権力を活用して、韓国で独裁体制を固めようとしていると言っても過言ではない。
これを止められるのは検察だ。だが、文在寅大統領は検察改革と銘打って、ここにも手を入れようとしている。
文政権が検察改革の目玉としているのが、高位公職者犯罪捜査処法である。
検察とは独立した組織を設立し、保守系の有力者を排除し、政権の基盤を固めようという意図があるといわれている。
しかし、韓国国民はこれを理解せず、文在寅大統領の検察改革をいまだに支持している。
文在寅大統領の権力基盤固めはこれにとどまらない。
最近、青瓦台が主導したとされる蔚山市長選挙介入疑惑が話題になっている。
当時の蔚山市長、金起ヒョン氏(キム・ギヒョン氏、ヒョンは火へんに玄)は保守系であり、文大統領の友人で人権派弁護士である宋哲鎬(ソン・チョルホ)に15%のリードを保持していた。
だが、青瓦台に先導された警察の不正疑惑捜査によって、リードが逆転されたというものだ。
選挙後、キム氏は無罪となったが、一連の不正疑惑捜査に青瓦台の工作が疑われている。
曺国・元青瓦台民情首席秘書官が関与しており、背後には文大統領自身が関与していると指摘する向きもある。
当面の大きな節目は、4月の国会議員選挙である。そこで惨敗すれば、レームダック化の可能性があるが、これに勝利すれば、一層強引な手法で長期左派政権の確立に邁進するだろう。
掲載者コメント
コロナ騒ぎで選挙に大勝
それまでの間、検察の政権中枢への捜査と検察の弱体化を狙う政権側との対立激化は必至だ。
検察改革が思うように進んでいなことから、政権側は新たに秋美愛(チュ・ミエ)元民主党代表を新法相に指名し、人事を通じて、検察を骨抜きにしようとしている。
検察側は、政権側の動きを察知して、文政権の疑惑に対する捜査を急いでいると思われる。
これらのことから分かるのは、文大統領がいる限り、政権へのチェック・アンド・バランス機能がほとんど働かない。
これを是正できるのは、韓国国民だけである。2020年、韓国国民はより広い視野で、客観的に文政権の業績を評価していくことが望まれる。
加えて、韓国政治の左派傾向は社会の流れにも大きく影響している。
最近、サムスン電子で労働組合が結成されたが、これを瓦解させようとしたとして、サムスン幹部7人に実刑判決が出された。
サムスンは社内に労組を結成させない代わりに、給与その他の待遇面で優遇してきた実績がある。
それにもかかわらず労組を結成した背景には、文政権になって左派勢力である労組が力を増し、主張を強めたことが考えられる。
その傾向は教育現場でも見られる。韓国の高校で
「安倍自民党は滅亡する」、
「日本の経済侵略に反対する』などといった反日スローガンを叫ぶよう教師が生徒に強要したとの訴えがあった。
これは「日本は敵、北朝鮮は友」という思想教育であり、強要した教師は左派政治団体である全教組に近い人物だったという。
ちなみに反日を強要したと訴えた生徒たちはさまざまな不利益を受けている。
「
経済」は日本の「失われた10年」に
レッドチーム入りも現実味
第二に、韓国経済の状況悪化がより深刻になり、日本の「失われた10年」のようになりつつある点である。
人によっては韓国経済のギリシャ化と言う人もいる。
多くの民間経済研究機関は、19年の韓国のGDP成長率見通しは1%台だと予測している。
漢江の奇蹟以来、韓国経済の成長率が1%台となったのは石油ショック、IMF通貨危機、リーマンショックという世界的な経済危機の時しかない。
これほど深刻であるにもかかわらず、文政権は「雇用と分配はよくなっている」と主張し、経済政策にまともに取り組んでいない。
韓国の経済界は、ウォン安が進行した場合の防衛策として、日本との通貨スワップを求めているが、今のように日韓関係が悪化した状況であれば、日本はこれに応じる考えはない。
そればかりか、韓国が元徴用工問題に絡んで、日本企業の資産を売却すれば、金融制裁などが待っている可能性がある。
そうなれば、韓国の通貨は致命的な打撃を受ける可能性もある。
第三の懸念としては、韓国が北朝鮮や中国との関係により“レッドチーム”入りすることである。
韓国は、北朝鮮がいかに韓国に対して挑発的な行動を取ろうと、一貫して融和政策を維持してきた。北朝鮮は韓国に対する敵対的な行動をエスカレートさせており、韓国の安全保障は脆弱になっている。
北朝鮮との関係が悪化した時、韓国を助けるのが日米韓の連携協力である。
しかし、文政権は日米韓の連携を乱す行動をし続けている。
中国の王毅外相が19年12月に韓国を訪問した際、文政権は中国政府からの日米韓連携を冷え込ませる要求を、ただ黙って聞いているだけで、何も言い返せなかったようである。
文政権は北朝鮮から邪険にされながらも、北朝鮮に人道支援を行い、そればかりか北朝鮮と経済的に連携すれば日本を超えられるという発想を持っている。
先月のGSOMIA破棄撤回は、米国の圧力で渋々応じた。これでは、文政権は日米韓に軸足を置いているのかどうか、疑われても仕方のない状況だ。
第四に日本との関係である。日本は、韓国のゴリ押しに譲歩しないという態度を明確にしている。
安倍総理も24日の文在寅大統領との会談で、政策を変えるのは日本側ではなく「韓国が国家として日韓関係を健全な関係に戻すきっかけを作るよう求める。
韓国側の責任において解決策を示してほしい」と韓国側の行動を求めている。そんな日本を見て、韓国は対日政策を改善の方向に変えるかというと、それも考えにくい。
「文在寅という災厄」
「文在寅という災厄」 武藤正敏著、悟空出版刊
日韓関係は当分膠着状況が続くことになるだろうが、事態が動くとすれば、元徴用工の資産売却に伴う報復合戦だと考えられる。
今般の日韓首脳会談で日韓の対話継続が確認されたため、直ちに日本側が要求しているように日本企業の資産の売却は行わないと考えるのが、外交上の常識だ。
だが、これまで何度も裏切られてきたことを忘れてはならない。左派政権の基盤が確立されるかどうかの節目と述べた4月の国会議員選挙において、文政権への逆風が強まれば、支持層向けの対策として日本企業の資産売却を強行する可能性は十分にある。
2020年も、文政権にうんざりさせられる状況は続くだろう。
(元・在韓国特命全権大使 武藤正敏)
武藤正敏:元・在韓国特命全権大使
国際・中国 元駐韓大使・武藤正敏の「韓国ウォッチ」
2019.12.26 5:37
「一度も経験したことがない国づくり」とは?
中央日報は文在寅大統領を辛辣批判
文在寅大統領が2019年に実行した政策を振り返ってみると、残りの任期である2年半の間に、文大統領が韓国をどこに導こうとしているのか全く見通せないばかりか、隣国である日本の安全保障や、アジア経済に重大な悪影響を及ぼす危険性を高めていると思わざるを得ない。
12月19日、韓国大手紙「中央日報」に『【コラム】文大統領の〈経験したことがない国の終着駅はどこなのか〉」が掲載された。
コラムを要約すると、以下のようになる。
・同じ革新政権でも、金大中大統領と盧武鉉大統領は市場経済の原理に忠実であった。これに対し、文在寅政権では左派経済原理に従い、古い社会主義政策が呼び起こされ、韓国経済は混乱と後退に陥った。
・金大中大統領と盧武鉉大統領も南北問題に執着したが、守るべきところは守られた。しかし、文大統領の対北政策には卑屈があふれ、国のアイデンティティは傷だらけ。金大中・盧武鉉大統領の遺産に対する拒否であり脱線だ。
・文大統領の目指すところは「一度も経験したことがない国づくり」だが、その具体的な形状を示していない。金炯オ(キム・ヒョンオ)元国会議長は「任期の半分が過ぎても文大統領が国をどこに導いていくのか指向・終着駅が不明だ」という。
・文大統領は長期政権を目指し、権力掌握と体制変革に執念を燃やしている。その実践はほとんど隠密に行われたが、曺国(チョ・グク)事件を境に、露骨にそれを実践している。
金秉準(キム・ビョンジュン)元韓国党非常対策委員長(盧武鉉政権の青瓦台政策室長)は「仮面を脱ぎ捨てて、全体主義に向かおうという意志を露骨に表している」と話している。
良いところが全くない
2019年の文在寅政権の政策
コラムの趣旨は、筆者の韓国の現状分析と近いものがある。韓国の政治、経済、外交(含む北朝鮮との関係、日韓関係)の全ての面で当てはまる。
文在寅政権の政策は、あらゆる面で崩壊状態だ。
まず政治面を見ていこう。文政権は積弊の清算に邁進して、過去の保守政権の業績の否定(漢江の奇蹟の抹殺)、親日派(韓国発展の功労者)の排除を行って国論を分裂させた。
支持層(革新派)の意向に沿った政策を実践しようとしたものの、経済の低迷と北朝鮮との関係悪化を招き、加えて曺国辞任やGSOMIA破棄撤回など、支持層の期待に反する結果ばかりであった。
経済政策については、成長率や雇用、輸出、投資、ウォン安など、全ての面で状況が悪化しており、最近では物価上昇率もマイナスに陥っている。
韓国の有識者の間では、すでに危機的状況の入り口に来ているとの見方が広がっている。文政権はこれら経済政策の失敗を認めておらず、2020年に向けた有効な対策を立てることなどできないだろう。
北朝鮮との関係では、18年9月に軍事合意を結んで韓国の安保のぜい弱性を高めた上に、19年はさらにGSOMIAを破棄しようとした。
大統領の重大な任務は国の安全を図ることだ。文大統領の政策は、明らかにこれに反している。
19年2月のベトナムにおける米朝首脳会談決裂後、米朝双方から韓国の仲介者としての役割は否定されている。そんな状況にもかかわらず、依然として北朝鮮非核化問題の現実を直視せず、融和姿勢を維持している。
足元では北朝鮮は米国に対し、19年内を期限として制裁を緩和するよう圧力をかけ、挑発も行っている。しかし、米国はこれには応じないだろう。
その結果、米朝対立が極度に緊張する可能性も否定できない。
米朝両国から信頼されていない韓国には、これを止める力などない。
そればかりか、対立が激化した時に、自国の国防力を自ら下げてしまったことがどういう影響を及ぼすのか、身を以て知ることになるのではないか。
日韓関係については言うまでもない。元朝鮮半島出身労働者問題では、日韓請求権協定の精神を反故にし、今や日韓関係は危機的な状況だ。
その他にも世論工作を繰り広げて日本を非難し、輸出管理強化の問題ではいわゆる元徴用工への報復だとして、 GSOMIA破棄をちらつかせ不買運動や渡航自粛運動を展開した。
しかし不思議なことに、政権支持率は昨年からほとんど変化していない。これには世論調査に対する信頼性を疑わざるを得ない。
韓国政治の2020年を
見通す4つの懸念
2020年、韓国情勢における懸念は4つある。
第一に、長期左派政権の基盤が確立しそうな点だ。前述のように文在寅政権は失政を繰り返しているにもかかわらず、支持率の明白な下降傾向は見られない。
いかにそこに改ざんがあったとしても、文政権が不安定になった兆候は見いだせない。
それは、文政権がこれまで守りを固めてきたからだ。立法や司法、行政の主要ポストを元全共闘のような過激で忠実な人々で固め、言論を抑え、国家情報院、国防部、検察、警察を政権に都合のいいように改革してきた。
従って、文政権の政治がいかに韓国の将来にとって障害となるものだとしても、朴槿恵前大統領のように弾劾される可能性は少ない。
文政権はこれらの権力を活用して、韓国で独裁体制を固めようとしていると言っても過言ではない。
これを止められるのは検察だ。だが、文在寅大統領は検察改革と銘打って、ここにも手を入れようとしている。
文政権が検察改革の目玉としているのが、高位公職者犯罪捜査処法である。
検察とは独立した組織を設立し、保守系の有力者を排除し、政権の基盤を固めようという意図があるといわれている。
しかし、韓国国民はこれを理解せず、文在寅大統領の検察改革をいまだに支持している。
文在寅大統領の権力基盤固めはこれにとどまらない。
最近、青瓦台が主導したとされる蔚山市長選挙介入疑惑が話題になっている。
当時の蔚山市長、金起ヒョン氏(キム・ギヒョン氏、ヒョンは火へんに玄)は保守系であり、文大統領の友人で人権派弁護士である宋哲鎬(ソン・チョルホ)に15%のリードを保持していた。
だが、青瓦台に先導された警察の不正疑惑捜査によって、リードが逆転されたというものだ。
選挙後、キム氏は無罪となったが、一連の不正疑惑捜査に青瓦台の工作が疑われている。
曺国・元青瓦台民情首席秘書官が関与しており、背後には文大統領自身が関与していると指摘する向きもある。
当面の大きな節目は、4月の国会議員選挙である。そこで惨敗すれば、レームダック化の可能性があるが、これに勝利すれば、一層強引な手法で長期左派政権の確立に邁進するだろう。
掲載者コメント
コロナ騒ぎで選挙に大勝
それまでの間、検察の政権中枢への捜査と検察の弱体化を狙う政権側との対立激化は必至だ。
検察改革が思うように進んでいなことから、政権側は新たに秋美愛(チュ・ミエ)元民主党代表を新法相に指名し、人事を通じて、検察を骨抜きにしようとしている。
検察側は、政権側の動きを察知して、文政権の疑惑に対する捜査を急いでいると思われる。
これらのことから分かるのは、文大統領がいる限り、政権へのチェック・アンド・バランス機能がほとんど働かない。
これを是正できるのは、韓国国民だけである。2020年、韓国国民はより広い視野で、客観的に文政権の業績を評価していくことが望まれる。
加えて、韓国政治の左派傾向は社会の流れにも大きく影響している。
最近、サムスン電子で労働組合が結成されたが、これを瓦解させようとしたとして、サムスン幹部7人に実刑判決が出された。
サムスンは社内に労組を結成させない代わりに、給与その他の待遇面で優遇してきた実績がある。
それにもかかわらず労組を結成した背景には、文政権になって左派勢力である労組が力を増し、主張を強めたことが考えられる。
その傾向は教育現場でも見られる。韓国の高校で
「安倍自民党は滅亡する」、
「日本の経済侵略に反対する』などといった反日スローガンを叫ぶよう教師が生徒に強要したとの訴えがあった。
これは「日本は敵、北朝鮮は友」という思想教育であり、強要した教師は左派政治団体である全教組に近い人物だったという。
ちなみに反日を強要したと訴えた生徒たちはさまざまな不利益を受けている。
「
経済」は日本の「失われた10年」に
レッドチーム入りも現実味
第二に、韓国経済の状況悪化がより深刻になり、日本の「失われた10年」のようになりつつある点である。
人によっては韓国経済のギリシャ化と言う人もいる。
多くの民間経済研究機関は、19年の韓国のGDP成長率見通しは1%台だと予測している。
漢江の奇蹟以来、韓国経済の成長率が1%台となったのは石油ショック、IMF通貨危機、リーマンショックという世界的な経済危機の時しかない。
これほど深刻であるにもかかわらず、文政権は「雇用と分配はよくなっている」と主張し、経済政策にまともに取り組んでいない。
韓国の経済界は、ウォン安が進行した場合の防衛策として、日本との通貨スワップを求めているが、今のように日韓関係が悪化した状況であれば、日本はこれに応じる考えはない。
そればかりか、韓国が元徴用工問題に絡んで、日本企業の資産を売却すれば、金融制裁などが待っている可能性がある。
そうなれば、韓国の通貨は致命的な打撃を受ける可能性もある。
第三の懸念としては、韓国が北朝鮮や中国との関係により“レッドチーム”入りすることである。
韓国は、北朝鮮がいかに韓国に対して挑発的な行動を取ろうと、一貫して融和政策を維持してきた。北朝鮮は韓国に対する敵対的な行動をエスカレートさせており、韓国の安全保障は脆弱になっている。
北朝鮮との関係が悪化した時、韓国を助けるのが日米韓の連携協力である。
しかし、文政権は日米韓の連携を乱す行動をし続けている。
中国の王毅外相が19年12月に韓国を訪問した際、文政権は中国政府からの日米韓連携を冷え込ませる要求を、ただ黙って聞いているだけで、何も言い返せなかったようである。
文政権は北朝鮮から邪険にされながらも、北朝鮮に人道支援を行い、そればかりか北朝鮮と経済的に連携すれば日本を超えられるという発想を持っている。
先月のGSOMIA破棄撤回は、米国の圧力で渋々応じた。これでは、文政権は日米韓に軸足を置いているのかどうか、疑われても仕方のない状況だ。
第四に日本との関係である。日本は、韓国のゴリ押しに譲歩しないという態度を明確にしている。
安倍総理も24日の文在寅大統領との会談で、政策を変えるのは日本側ではなく「韓国が国家として日韓関係を健全な関係に戻すきっかけを作るよう求める。
韓国側の責任において解決策を示してほしい」と韓国側の行動を求めている。そんな日本を見て、韓国は対日政策を改善の方向に変えるかというと、それも考えにくい。
「文在寅という災厄」
「文在寅という災厄」 武藤正敏著、悟空出版刊
日韓関係は当分膠着状況が続くことになるだろうが、事態が動くとすれば、元徴用工の資産売却に伴う報復合戦だと考えられる。
今般の日韓首脳会談で日韓の対話継続が確認されたため、直ちに日本側が要求しているように日本企業の資産の売却は行わないと考えるのが、外交上の常識だ。
だが、これまで何度も裏切られてきたことを忘れてはならない。左派政権の基盤が確立されるかどうかの節目と述べた4月の国会議員選挙において、文政権への逆風が強まれば、支持層向けの対策として日本企業の資産売却を強行する可能性は十分にある。
2020年も、文政権にうんざりさせられる状況は続くだろう。
(元・在韓国特命全権大使 武藤正敏)
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