韓国の国民も見放し始めた文大統領、日本は冷静に考える必要がある
● 韓国の国民も 文大統領を見放しつつある
ここへきて、韓国の国民も文在寅(ムン・ジェイン)大統領を見放しつつあるようだ。
5月27日には、文氏の弾劾を求める市民の請求が21万7000件に達した。
20万人以上の請願が集まると、韓国政府は市民の求めにどう対応するか答弁を行わなければならない。
経済運営がうまくいかず、外交面でも問題を抱える文政権を取り囲む状況は一段と厳しさを増している。
● 国民の世論が 振り回す韓国の政治
文大統領に対する弾劾請求の背景には、韓国の国民心理が大きく影響している。
今回の弾劾請求を呼びかけたのは、朴前大統領の弾劾につながった“ろうそくデモ”の参加者とみられる。
この人物は、北朝鮮との融和政策などを批判し、文大統領の弾劾を請求したといわれている。
その論理は、大統領の政策運営に反対するので弾劾を求めるというもののようにみえる。
朴前大統領も、同様の国民の心理によって罷免された。
韓国の民主主義は、ある意味では、国民の恨みや不満のエネルギーに翻弄されているようにみえる。
本来、民主主義における政治の機能は、多様な利害を調整し、長期の視点で国の発展を目指すことにある。
特定の問題に不満を抱く人が多い場合、政策を立案して問題を解消し、より良い状況を目指すのが政治の役割だ。
ただ、これまで韓国では、選挙によって選ばれた大統領が国民の利害ではなく、親族や知人、財閥企業の利害を優先してきたケースもあった。
朴前大統領は、知人女性の崔順実(チェ・スンシル)被告を国政に関与させた。
崔被告はその立場を利用して、財閥企業から便宜を受けたといわれている。
これに怒った国民はデモを行い、結果的に大統領が弾劾された。
本来であれば、有権者からの批判などをもとにして、法にのっとった形で国家トップの責任などが問われる。
これが、“司法の独立”が尊重される理由だ。
これに対して韓国では、デモという一部の国民の不満や恨みに押し流されるようにして、国の最高権力者である大統領が罷免されたようにみえる。
その状況に関して、韓国の民主主義は成熟していないと指摘する政治の専門家もいる。
韓国において政治家は、国民の心理をくみ取り、それに寄り添うことが重要になる。
朴前政権は、政財界の癒着を放置し、一握りの人物に富が集中する状況を続けた。
文氏は、朴政権までの政治との決別する“革新派”として、新しい政治路線を打ち出すことで支持を得ることはできた。
しかし、社会の改革を進めて、新しい社会を作り上げることは口で言うほど容易ではない。
文大統領への国民の不満がたまった最大の要因の1つは、経済運営の失敗だ。
韓国の世論は、政府主導での経済的富の増大と公正な分配を求めてきた。
朴前大統領の父は、“漢江の奇跡”を実現し韓国経済の高成長を実現した朴正煕だ。
それだけに、韓国世論には「その娘なら、きっと国民の生活をよくしてくれる」という期待があった。
しかし、朴前大統領は歴代の政権同様、財閥企業に依存した経済構造を改めることはできず、自らの利権を重視してしまった。
そこで、韓国の国民は所得向上の夢を文大統領に託した。
その負託に応えようと、文氏は最低賃金の引き上げを目指したが、経済の実態を無視した賃上げは企業の大規模な反発に遭ってしまった。
急速な賃上げは、雇用と労働時間を減少させた。
文政権の政策は経済にマイナスの影響を与えた。
それに加え、中国経済が減速し、韓国経済を支える輸出と、財閥企業の収益が急減した。
韓進や錦湖アシアナなどの大手財閥では、世襲経営の限界という問題も顕在化している。
この状況について、財閥依存の韓国経済は行き詰まりを迎えたと指摘する経済の専門家もいる。
労組の影響力が強い上に企業業績の悪化懸念も加わり、若年層を中心に雇用環境は厳しさを増している。
ある韓国出身の知人は、「韓国に帰る度に経済の悪化を痛感する。どのように韓国で満足のいく生活を送ることができるか、想像することも難しい」と話していた。
すでに、1~3月期、韓国のGDP成長率は前期比0.3%減に落ち込んだ。
短期間で景気が持ち直す展開は想定しづらい。
その中で、文大統領は財政支出を積極的に増やす“ばらまき型”の政策を進め、世論の不満に対処しようとしている。
にもかかわらず、政府が対応しなければならない水準にまで弾劾を求める国民が増えたことは軽視できない。
文大統領がどのようにして世論をなだめ、国内の安定を実現することができるか、先行きの不透明感は増している。
● 深刻さ増す 韓国の国際社会での孤立
今後、極東および国際社会の中で、韓国は一段と孤立する恐れがある。それは、極東地域の安定に大きく影響する。
現在、韓国では文大統領への弾劾請求に加え、前政権の与党であった自由韓国党の解散を求める請願も出された。
その請願者数は180万人を超えた。
この先、韓国の政治がどのように社会を安定させ国力を高めることができるか、予想することが難しい。
文大統領は支持率を少しでも確保するために、財政出動をさらに重視するだろう。
それは、一時的に成長率を押し上げ、世論の不満をなだめることにはなるだろう。
ただ、過度な財政出動は長く続けられる政策ではない。
中国の景況感が悪化する中で、韓国が財閥企業の経営改革に着手することも難しい。
この状況が続くと、韓国経済は長期停滞に陥る恐れがある。
その懸念から、韓国ウォンが大幅に売られている。
4月から5月下旬までの期間で見ると、韓国ウォンは米ドルに対して4%超下落した。
この下落率は、米国との通商摩擦の激化懸念と景気減速懸念を受けた人民元の下落率(約2.8%)を大幅に上回り、アジア通貨の中でも断トツだ。
資金の流出が続けば、韓国の経済界は日韓スワップ協定の再開を求めるだろう。
韓国の政治と経済は、一段と不安定になる可能性が高い。
世論はさらに政治を批判するだろう。
極東情勢の緊迫感が高まることも想定される。
わが国は、そうした変化を念頭に対策を練るべきだ。
政府は、安全保障面では米国との関係を基礎としつつ、国際世論を味方につけなければならない。
日本の主張に賛同する国が増えれば、政府は韓国に対して冷静に日韓請求権協定を守るよう伝え、しかるべき対応を求めることができる。
それまでわが国が韓国をまともに相手にする必要はないだろう。
何よりも重要なことは、わが国が国内での改革を進めつつ、アジア新興国などとの関係を強化して多国間の経済連携を目指すことだ。
わが国の主張に賛同する国際世論を形成することが、長期の目線で国力を高めるために欠かせない
(法政大学大学院教授 真壁昭夫)
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