韓国に輸出急減の懸念、自力での経済安定が望めない深刻事情
9/10(火) 6:01配信
(法政大学大学院教授 真壁昭夫)
● 韓国経済に 輸出急減の懸念が顕在化
足元、韓国経済に輸出急減の懸念が顕在化している。元々、韓国は輸出依存度の高い経済構造で、輸出の減少は経済全体に深刻なマイナス要因となる。
韓国の輸出急減の背景には、主力輸出先である中国の景気減速やトランプ米大統領の通商政策の影響などがある。
特に、米中の貿易摩擦の深刻化に伴い、現在、世界のサプライチェーンが混乱している。
そのため、輸出依存度の高い国ほどマイナスの影響が出ている。
韓国はその1つの例といえる。韓国以外にも、ドイツをはじめとするユーロ圏各国を中心に輸出依存度の高い国の景気は急速に悪化している。
8月の韓国の輸出は前年同月比で13.6%減少した。
9ヵ月連続で韓国の輸出は前年同月の実績を下回っている。
5月以降、米中の貿易摩擦への懸念が高まるに伴い、韓国の輸出減少幅は拡大している。
これまで韓国は、サムスン電子など主力の財閥企業の輸出を増やすことで経済成長を遂げてきた。
韓国のGDP(国内総生産)に占める個人消費の割合は50%を下回っており、米国や日本に比べ内需は厚みを欠いている。
半導体の主要材料などを輸入し、国内で製品を生産し輸出して収益を得てきた韓国にとって、輸出減少は経済の屋台骨が揺らぐことにもなりかねない。
韓国は、もう少し早い段階から財閥に依存した経済構造を改める必要があった。
しかし、歴代の政権は改革に伴う痛みを避けてしまった。
国内の資本の蓄積も期待されたほど進んでいない。
経済環境の悪化に加え、最側近による数々の不正疑惑が浮上した文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、さらに厳しい状況に直面する可能性がある。
● サプライチェーン混乱の 影響度合い
韓国の輸出が減少している要因の1つとして、米中の貿易摩擦の影響から世界のサプライチェーンに混乱が生じていることは見逃せない。
これまで、世界各国の企業は“世界の工場”としての地位を高めてきた中国に生産拠点を置き、必要な時に、必要なモノを、必要なだけ、各国から調達する体制を整えてきた。その上で企業はモノを生産し、世界各国に輸出して収益を獲得してきた。この中で韓国は、半導体などを各国企業に供給する重要な役割を担ってきた。
しかし、2017年1月に米国大統領に就任したトランプ氏が、グローバルなサプライチェーンを分断している。
大統領再選を狙う同氏は、制裁関税の発動などによって対中貿易赤字を削減し、米国産大豆などを中心に対中輸出を増やしたい。
できるだけ早期に交渉をまとめたいというのがトランプ氏の本音だろう。
一方、中国も引くに引けない。すでに共産党の長老などから習近平国家主席に対する不満が増えている。
香港での反政府デモが想定外に長引いていることもあり、中国は米国に譲歩できなくなっている。中国は基本的には交渉を持久戦に持ち込むなどして、米国の圧力が低下するのを待ちたいはずだ。米中の交渉がどのように進むかは見通しづらい。
この中、制裁関税の回避などを目指して、中国に置いてきた生産拠点をベトナムやインド、タイなどに移す企業が増えている。
この動きはまだ落ち着いていない。今後、さらに供給網が混乱する恐れもある。
同時に、世界経済の先行き懸念の上昇も重なり自動車や鉄鋼、機械など幅広い業種で減産を重視する考えが増えている。
これが、韓国の輸出にブレーキをかけた。これまで相対的に安定感を保ってきた米国において、ISM製造業景況感指数が景気強弱の境目である50を下回ったことを見ると、世界的なサプライチェーン混乱のマグニチュードは軽視できない。
当面、韓国の輸出には下押し圧力がかかり易いものと考えられる。
● 世界的な 半導体市況などの悪化
韓国の輸出減少を考える上では、世界的な半導体市況の悪化などの影響も大きい。
米国の半導体工業会(SIA)によると、7月、世界全体での半導体売り上げは前年同月比15.5%減少した。需給関係の悪化から、ICチップなどの価格には下落圧力がかかりやすい状況が続いている。
その要因の1つとして、スマートフォン需要の低迷は見逃せない。2017年以降、世界全体でスマートフォンの出荷台数が減少している。
スマートフォンの普及は韓国のサムスン電子などが半導体の輸出を増やし、業績拡大を実現するために欠かせなかった。
それに加え、世界的に設備投資が減少している。2016年から17年にかけて世界的にデータセンターなどへの投資が増加した。
その反動とサプライチェーン再編のコスト負担から、足元、世界各国で設備投資の減少が鮮明化している。こうした動きが、輸出主導で景気回復を実現してきた韓国経済を直撃している。
さらに、米アップルは制裁関税の回避のために供給網の再編だけでなく、製品原価の見直しにも着手し始めた。
アップルは、製品原価を引き下げるために、有機ELパネルの調達先をサムスン電子から中国の京東方科技集団(BOE)に切り替えることを検討していると報じられている。
また、アップルがサムスン電子に対して約束したディスプレーを購入しなかったことへの違約金を支払ったとの観測もある。
これは無視できない変化と考えるべきだ。
現在、中国は政府の補助金を用いて半導体をはじめとする先端分野の開発・生産能力の引き上げに注力している。また、世界的なサプライチェーンの混乱を受けて、世界の半導体などの生産能力には空きが出ている。
価格を抑えて受注を確保しようとする企業が出てもおかしくはない。より有利な条件での半導体などの調達を目指し、世界の企業が韓国外の企業との取引を重視する可能性が高まることは軽視できない。
その意味で、韓国経済の実力が問われているといえる。
● 文大統領の政策運営で 懸念される韓国経済の苦境
韓国経済の先行きを慎重に考える市場参加者や企業経営者は増えている。韓国最大の輸出先である中国の経済は、成長の限界を迎えつつある。
中国では、公共事業の積み増しなどにもかかわらず、十分な効果が確認できていない。
米国が第4弾の対中制裁関税を発動し、中国がそれに報復したこともあり、中国の企業、消費者のマインドは一段と悪化する恐れがある。いうまでもなく、これは韓国経済にとってマイナスだ。
それに加え、日韓の関係が悪化し、米国も韓国のことを当てにしなくなっていることも見逃せない。
歴史を振り返ると、通貨スワップ協定や半導体材料などの調達、さらには半導体製造技術の吸収といった点において、韓国はわが国に依存し続けてきたといえる。
日韓の関係がこじれにこじれる中、韓国がどのようにして経済を安定に向かわせるかは、かなり見通しづらい。
最側近による数多くの不正疑惑浮上に直面する文大統領に対する国民の見方も、徐々に変化している。
文大統領への信頼感がさらに低下する可能性は高まっている。
その中で、文政権が経済の安定を目指すことは難しいだろう。
韓国では国内産の材料などを用いて半導体生産を進めようとする動きが出ている。
その一方、韓国の株式市場では外国人投資家などが株式を売却し、資金が海外に流出している。
韓国政府・企業の取り組みが世界の企業や市場参加者の信頼を得ているとは考えられない。
わずかな成分の差が半導体の性能に大きな影響を与える。
従来、わが国の技術力に依存して生産力の増強に注力した韓国が、世界の信任を得られるだけの技術を短期間のうちに生み出すことは想定しづらい。
世界的なサプライチェーン混乱の中、文大統領は自国の経済をさらなる苦境に向かせてしまっているように見える。
現時点で、韓国が自力で経済を安定に向かわせる方策は見出しづらい。
もし米中の摩擦が一段と激化し、米国の景気後退への懸念がさらに高まるような展開が現実のものとなれば、韓国経済はかなり深刻な状況に陥る可能性がある。
(法政大学大学院教授 真壁昭夫)
真壁昭夫
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