勝又壽良
Sent: Thursday, February 7, 2019 5:00 AM
中国の奇跡終焉、市場開放か覇権狙いかで運命決まる
迫る「中所得国のワナ」
「覇権国狙い」の落し穴
国連機関の驚くべき試算
受け皿にベトナムが浮上
昨年12月、中国は鄧小平が旗を振った改革開放政策から40年経ちました。
この間の平均経済成長率は、9.5%という空前絶後の実績です。
常識的に見れば、相当に無理をした経済成長であることが分ります。
投資主導というGDPにとって即効的な政策を長年続けたので、過剰設備=過剰債務という負のスパイラルに陥っているのです。
ここからの脱出はきわめて難しく、「中所得国のワナ」と言われる長期の経済停滞が予想される事態になりました。
迫る「中所得国のワナ」
「中所得国のワナ」とは、次のような内容です。
多くの途上国は、経済発展により一人当たり名目GDPが中程度の水準(中所得=1万ドル前後)に達した後、それまでの経済発展パターンや戦略を転換できず、成長率が低下、あるいは長期にわたって低迷することを指しています。
中国の一人当たり名目GDPは現在、8643ドル(2017年)です。
1万ドルのかなり手前にありますが、これまでの投資主導経済は、明らかに限界にぶつかっています。
過剰債務と過剰生産によって政策の継続は不可能です。
この事態を解決するには、先進国と同様に消費主導の経済に転換することです。
ただ、投資主導から消費主導に転換するとき、「断層」が発生します。
投資は経済政策によって左右可能ですが、消費は家計所得の増加が前提です。
それまで、投資主導で潤っていた企業が、そうでなくなれば途端に経営は苦しくなります。
賃上げどころか、解雇問題が発生します。
このような状況で、個人消費が主導する経済への転換はスムースに行きません。
これが、「中所得国のワナ」をもたらす原因と見られます。
中国の悲哀は一党独裁政権ゆえに、経済成長率の高さだけが国民の支持を得られる条件でした。
その結果、40年間の平均経済成長率が9.5%という「異常な結果」を招いたのです。
この投資主導経済を、スムースに消費主導経済へ転換させることは不可能でしょう。
必ず、大きな「段差」ができて、ガクッと経済成長率は落込みます。
中国政府はそれを恐れて、再びインフラ投資依存の政策に立ち戻っています。
独裁政権=硬直化政策という宿命的な悪循環にはまり込んでいるのです。これが、「中所得国のワナ」につながります。
中国経済は現在、大きな転換点であることは間違いありません。
だが、もう一つの岐路が現れて来ました。米中貿易戦争です。
この問題は、米中の貿易不均衡という単純な話ではありません。
中国が一昨年秋の党大会で、2050年頃に米国覇権へ対抗すると発表したのです。
これが、米中貿易戦争を招きました。その覇権の座を狙われている米国は、心穏やかでありません。
「覇権国狙い」の落し穴
米国はそこで、これまで黙認してきた中国の不公正貿易慣行の是正を前面に掲げたのです。
これは、貿易不均衡問題のほかに、中国の技術窃取、経済スパイ、補助金などの面で幅広い禁止を求めた内容です。
いはば、構造問題に切り込みました。
具体的な目標は、中国ハイテク計画の「中国製造2025」に関わる問題です。
中国は、この計画をテコにして2050年ごろに、米国覇権へ挑戦する予定でした。
米国は、間接的にこの計画を放棄させる圧力を加えています。
その具体的な手段が、前記の技術窃取、経済スパイ、補助金などの幅広い禁止要求です。
米中貿易協議の期限は、3月1日です。
それまでに話し合いが付かなければ、米国は2000億ドルの対米輸出品の関税を、現在の10%から25%へ引上げると通告しています。
これは、中国の輸出に大きな影響が出るものと予測されています。
国連貿易開発会議(UNCTAD)は2月4日、中国は対米輸出の2500億ドルのうち約90%が、他国からの輸出に置き換わるという衝撃的な予測結果を発表しました。
詳細は、後で取り上げます。これが現実となれば、中国の対米輸出は瓦解します。中国経済の急減速は不可避です。
ここで、中国が選択する道は二つあります。
第一は、米国が要求する不公正貿易の是正を受入れて市場開放する。
第二は、あくまでも「中国製造2025」を継続して、米国の構造改革を拒否する。
第一の場合は、中国が「普通の経済国」になるという宣言です。
市場を開放して、保護主義を撤廃する。そうなると、「中所得国のワナ」問題はかなりの時間がかかっても解決に向かう可能性が出てきます。
このケースでは、中国が世界の自由貿易ルールを守ることを宣言するに等しいことになります。同時に、世界秩序に賛成する意味でもあります。
これは、世界覇権を狙うという一昨年秋の党宣言と矛楯します。
習近平氏が、これまでの国家主席2期10年という任期制を撤廃して、「永久国家主席」への道を開いた政治的威厳は著しく傷つくでしょう。
国内の経済改革派は歓迎するとしても、保守派からは米国の要求に屈したという批判を浴びせられます。
第二の場合、経済的には悲惨な結果が待っています。
前述の通り、中国は対米輸出で著しく不利な立場に追い込まれます。
中国にとって最大の輸出市場である米国を失うからです。
米国市場は、いうまでもなく世界最大の旺盛な購買力を持つ市場です。
そこへ輸出という形でアクセスできなければ、中国の輸出産業は自然淘汰されます。
中国経済の空洞化が進行します。
経済成長率は一挙に5%割れを迫られます。当然、習近平氏への批判は猛然と起るでしょう。
習近平氏は、第一のケースでも第二のケースでも、かつて経験しない受難が始るでしょう。
習氏は、世界覇権を宣言した張本人ですが、側近に民族主義者を登用した影響をかなり受けたと見られています。
その側近とは、最高指導部メンバーで宣伝を担当する王滬寧氏(党序列5位)です。
王氏は、中国の国力を過大に宣伝し、世論をミスリードした責任が厳しく問われています。
米中貿易戦争では当初、「徹底抗戦」など勇ましメディア情報をリードした責任者です。
中国は、3月1日までにいかなる選択をするでしょうか。
中国にとっては、昨年2月からの米国トランプ大統領の関税引き上げ戦略に振り回されているので、さらに様子を見るべく「休戦継続」を選択する可能性もあります。
第一でも第二でもない「休戦継続」にしてさらに米国と協議を重ねるというものです。
一見、中国にとっては時間稼ぎで有利なように見えますが、そうではなさそうです。
中国が、米国の覇権狙いを断念しない限り、米中貿易戦争は続くという潜在的なリスクを抱えます。
そうなると、中国へ進出している企業はどのような選択をするかです。いつ米中貿易戦争が再開されるか分らないリスクを抱えるよりも、中国から工場を移転させる決断を下すでしょう。
欧米の中国進出企業の多くが、「脱中国」計画を持っています。
これまで中国で受けた不公平な扱いや、中国での人件費コストの上昇で、中国へ見切りを付けるチャンスが来たと見ているのです。
今回の米中貿易戦争は、欧米企業に「脱中国」を決断させる一押しになったようです。中国周辺国へ移転する計画が進んでいます。
国連機関の驚くべき試算
国連貿易開発会議(UNCTAD)は4日、3月以降に米中が互いに相手国の製品への関税を引き上げると、欧州連合(EU)が最も大きな輸出増の恩恵を受けるという調査報告をまとめました。
関税でコスト高となった対象製品の多くが、第三国への発注に振り換えるのです。
関税引上げが、米中両国にとって「国内産業保護に効果的でない」という指摘です。その結論を下記に要約します。
(1)
中国から米国への追加関税2500億ドル相当の輸出品は、次のように輸出先が変更されます。
1.第三国に調達先が変更される82%
2.中国からの輸出が続く12%
3.米企業が代替できる6%
中国は、米国へ輸出している2500億ドルの製品に25%の関税が掛けられると、88%の輸出品が他の国の製品に取って代わられるという驚くべき結果が出てきました。
大袈裟に言えば、中国は一瞬にして「世界の工場」の位置を失うことになります。輸出産業は壊滅的な打撃を受けるのです。
(2)
米国から中国への追加関税850億ドル相当の輸出品は、次のように輸出先が変更されます。
1.第三国に輸出を代替される85%
2.米国が輸出を続ける10%弱
3.中国企業の代替は5%程度
米国が、輸出を継続できるのは10%弱で、米国は90%程度の対中輸出が減る試算です。結論を要約します。
米中双方は3月以降に追加関税を引き上げると、互いに相手国へ約9割の輸出が減るという試算が出てきました。
とりわけ、輸出で経常黒字を稼ぎ出してきた中国の受ける損害は莫大な金額になります。
経常収支の赤字は拡大して、人民元相場は崩落。外貨準備高が急減して2兆ドル台前半と、哀れな姿が想像できるのです。
「一帯一路」など、もはや言い出す元気もなくなるでしょう。
これだけのリスク発生が予測される状態で、中国はどのような現実的な選択をするのでしょうか。
中国の「中南海」(日本の霞ヶ関)は、実利かメンツかの選択になります。
換言すれば、普通の国か、覇権を狙う国か。そのいずれかの選択でしょう。
肝心の米国は、中国が「普通の国」になる期待を全く持っていません。
米通商代表部(USTR)は2月4日、中国のWTO(世界貿易機関)規定の順守状況に関する『年次報告書』を議会に提出しました。
それによると、中国の「重商主義的」(保護主義的)行動は変らないと見ています。
加盟164ヶ国が現在、WTOの規定を通商慣行是正に向けて変更する議論を重ねています。
USTRは、中国があくまでも「重商主義的」振る舞いを続けるだろう。
その結果、経済・通商分野における現在の姿勢を制限しようというWTOの新規定協議が、成功すると期待すること自体、非現実的であるとの見方を示しました。
米国が、ここまで中国に対して冷めた目で見ているとなれば、安易な妥協をしないだろうという慎重論も当然でしょう。
受け皿にベトナムが浮上
米国は、中国が「普通の国」にならず、米国への「覇権を狙う国」であり続けるならば、米国は中国へ強い対応を取るものと見るほかありません。
中国へ進出している外資系企業が、それを嗅ぎ取れば「脱中国」の動きは弱まることはないでしょう。
その受け皿国として、ベトナムの存在がクローズアップされています。
ベトナムは、昨年のGDP成長率が7.08%でした。
当初目標6.7%を上回り、08年のリーマンショック以降で最高の成長率でした。
スマートフォンなどを生産する韓国サムスン電子の輸出が好調だったことも寄与しました。
中国の昨年の成長率は6.6%でした。これを上回ったのです。
ベトナムは、貿易戦争の影響で中国からの生産シフトがプラスに働いています。
こうして、昨年のGDPは、0.5%程度増加したとの指摘もあります。
アジアの主要国で「最もプラスの影響を受けた」と見られているのです。
世界銀行は、ベトナム経済の成長が緩やかに鈍化すると見ています。
19年は6.6%、20年は6.5%という予測です。
しかし、米中貿易戦争による「脱中国」効果が、GDPへ上乗せになることは確実でしょう。
中国経済は、世界のGDPの16%を占めています。
その「巨漢」が、急減速に見舞われて、各国に波紋を呼んでいます。
日本が、平成バブル崩壊で急減速したときは、これだけの騒ぎにならなかったのです。
この日中の差が、経済体質の違いを表わしています。
中国は、「粗放型経済」で資源ガブ飲み経済です。
長年の急速な経済成長を背景に、世界中から資源を買い漁ってきました。
そのため主要な貿易相手国となっています。
過去10年間、中国が世界の輸出入の伸びの5分の1をもたらしたほどです。
中国経済の減速はアジアに特に大きな打撃を与えていることは確かです。
前記のベトナムのように「脱中国」のプラス効果だけではありません。
アジア諸国の対中輸出は、衣料品、自動車から中国の巨大製造業企業を支える技術に至るまで多岐にわたります。
昨年末にかけての中国の需要の落ち込みは、著しいものでした。
先進国でも日本を初めとして対中輸出が落込んでいます。
だが、一定の期間をおけば、世界的な市場調整が進んでバランスが回復します。
先ほど上げた国連貿易開発会議(UNCTAD)の予測では、米中が互いに関税を引き上げて輸出先を失っても、他国がこれを約9割カバーすることを思い出して下さい。
UNCTADの報告によると、米中の関税引き上げ合戦でEUの域外輸出は、年間で計約705億ドル(約7兆8000億円)増えると推測しています。
このうち、中国の対米輸出の代替が約508億ドル、米国の対中輸出の代替は約197億ドルと見ています。
輸出増額の2位は、米国の隣国メキシコ(約279億ドル)、3位は日本(約244億ドル)となっています。
「水は低きに流れる」と言われます。
米中が貿易戦争をして傷つけ合っていても、第三国がその穴を埋めるという厳然たる事実を認識すべきでしょう。
このことは、とくに中国へ向けて強調したいと思います。
中国にとって「普通の国」か、「覇権狙いの国」かという究極の選択は、中国の運命を左右すると見て間違いないでしょう。
「覇権狙いの国」となれば、米国から徹底的なマークに遭い、経済的な破綻が想像できます。
基礎技術のない国家が、技術窃取を頼りに覇権国家を目指すというのは、いささか漫画的に見えるのです。
中国の経済改革派の奮闘を期待するほかありません。
Sent: Thursday, February 7, 2019 5:00 AM
中国の奇跡終焉、市場開放か覇権狙いかで運命決まる
迫る「中所得国のワナ」
「覇権国狙い」の落し穴
国連機関の驚くべき試算
受け皿にベトナムが浮上
昨年12月、中国は鄧小平が旗を振った改革開放政策から40年経ちました。
この間の平均経済成長率は、9.5%という空前絶後の実績です。
常識的に見れば、相当に無理をした経済成長であることが分ります。
投資主導というGDPにとって即効的な政策を長年続けたので、過剰設備=過剰債務という負のスパイラルに陥っているのです。
ここからの脱出はきわめて難しく、「中所得国のワナ」と言われる長期の経済停滞が予想される事態になりました。
迫る「中所得国のワナ」
「中所得国のワナ」とは、次のような内容です。
多くの途上国は、経済発展により一人当たり名目GDPが中程度の水準(中所得=1万ドル前後)に達した後、それまでの経済発展パターンや戦略を転換できず、成長率が低下、あるいは長期にわたって低迷することを指しています。
中国の一人当たり名目GDPは現在、8643ドル(2017年)です。
1万ドルのかなり手前にありますが、これまでの投資主導経済は、明らかに限界にぶつかっています。
過剰債務と過剰生産によって政策の継続は不可能です。
この事態を解決するには、先進国と同様に消費主導の経済に転換することです。
ただ、投資主導から消費主導に転換するとき、「断層」が発生します。
投資は経済政策によって左右可能ですが、消費は家計所得の増加が前提です。
それまで、投資主導で潤っていた企業が、そうでなくなれば途端に経営は苦しくなります。
賃上げどころか、解雇問題が発生します。
このような状況で、個人消費が主導する経済への転換はスムースに行きません。
これが、「中所得国のワナ」をもたらす原因と見られます。
中国の悲哀は一党独裁政権ゆえに、経済成長率の高さだけが国民の支持を得られる条件でした。
その結果、40年間の平均経済成長率が9.5%という「異常な結果」を招いたのです。
この投資主導経済を、スムースに消費主導経済へ転換させることは不可能でしょう。
必ず、大きな「段差」ができて、ガクッと経済成長率は落込みます。
中国政府はそれを恐れて、再びインフラ投資依存の政策に立ち戻っています。
独裁政権=硬直化政策という宿命的な悪循環にはまり込んでいるのです。これが、「中所得国のワナ」につながります。
中国経済は現在、大きな転換点であることは間違いありません。
だが、もう一つの岐路が現れて来ました。米中貿易戦争です。
この問題は、米中の貿易不均衡という単純な話ではありません。
中国が一昨年秋の党大会で、2050年頃に米国覇権へ対抗すると発表したのです。
これが、米中貿易戦争を招きました。その覇権の座を狙われている米国は、心穏やかでありません。
「覇権国狙い」の落し穴
米国はそこで、これまで黙認してきた中国の不公正貿易慣行の是正を前面に掲げたのです。
これは、貿易不均衡問題のほかに、中国の技術窃取、経済スパイ、補助金などの面で幅広い禁止を求めた内容です。
いはば、構造問題に切り込みました。
具体的な目標は、中国ハイテク計画の「中国製造2025」に関わる問題です。
中国は、この計画をテコにして2050年ごろに、米国覇権へ挑戦する予定でした。
米国は、間接的にこの計画を放棄させる圧力を加えています。
その具体的な手段が、前記の技術窃取、経済スパイ、補助金などの幅広い禁止要求です。
米中貿易協議の期限は、3月1日です。
それまでに話し合いが付かなければ、米国は2000億ドルの対米輸出品の関税を、現在の10%から25%へ引上げると通告しています。
これは、中国の輸出に大きな影響が出るものと予測されています。
国連貿易開発会議(UNCTAD)は2月4日、中国は対米輸出の2500億ドルのうち約90%が、他国からの輸出に置き換わるという衝撃的な予測結果を発表しました。
詳細は、後で取り上げます。これが現実となれば、中国の対米輸出は瓦解します。中国経済の急減速は不可避です。
ここで、中国が選択する道は二つあります。
第一は、米国が要求する不公正貿易の是正を受入れて市場開放する。
第二は、あくまでも「中国製造2025」を継続して、米国の構造改革を拒否する。
第一の場合は、中国が「普通の経済国」になるという宣言です。
市場を開放して、保護主義を撤廃する。そうなると、「中所得国のワナ」問題はかなりの時間がかかっても解決に向かう可能性が出てきます。
このケースでは、中国が世界の自由貿易ルールを守ることを宣言するに等しいことになります。同時に、世界秩序に賛成する意味でもあります。
これは、世界覇権を狙うという一昨年秋の党宣言と矛楯します。
習近平氏が、これまでの国家主席2期10年という任期制を撤廃して、「永久国家主席」への道を開いた政治的威厳は著しく傷つくでしょう。
国内の経済改革派は歓迎するとしても、保守派からは米国の要求に屈したという批判を浴びせられます。
第二の場合、経済的には悲惨な結果が待っています。
前述の通り、中国は対米輸出で著しく不利な立場に追い込まれます。
中国にとって最大の輸出市場である米国を失うからです。
米国市場は、いうまでもなく世界最大の旺盛な購買力を持つ市場です。
そこへ輸出という形でアクセスできなければ、中国の輸出産業は自然淘汰されます。
中国経済の空洞化が進行します。
経済成長率は一挙に5%割れを迫られます。当然、習近平氏への批判は猛然と起るでしょう。
習近平氏は、第一のケースでも第二のケースでも、かつて経験しない受難が始るでしょう。
習氏は、世界覇権を宣言した張本人ですが、側近に民族主義者を登用した影響をかなり受けたと見られています。
その側近とは、最高指導部メンバーで宣伝を担当する王滬寧氏(党序列5位)です。
王氏は、中国の国力を過大に宣伝し、世論をミスリードした責任が厳しく問われています。
米中貿易戦争では当初、「徹底抗戦」など勇ましメディア情報をリードした責任者です。
中国は、3月1日までにいかなる選択をするでしょうか。
中国にとっては、昨年2月からの米国トランプ大統領の関税引き上げ戦略に振り回されているので、さらに様子を見るべく「休戦継続」を選択する可能性もあります。
第一でも第二でもない「休戦継続」にしてさらに米国と協議を重ねるというものです。
一見、中国にとっては時間稼ぎで有利なように見えますが、そうではなさそうです。
中国が、米国の覇権狙いを断念しない限り、米中貿易戦争は続くという潜在的なリスクを抱えます。
そうなると、中国へ進出している企業はどのような選択をするかです。いつ米中貿易戦争が再開されるか分らないリスクを抱えるよりも、中国から工場を移転させる決断を下すでしょう。
欧米の中国進出企業の多くが、「脱中国」計画を持っています。
これまで中国で受けた不公平な扱いや、中国での人件費コストの上昇で、中国へ見切りを付けるチャンスが来たと見ているのです。
今回の米中貿易戦争は、欧米企業に「脱中国」を決断させる一押しになったようです。中国周辺国へ移転する計画が進んでいます。
国連機関の驚くべき試算
国連貿易開発会議(UNCTAD)は4日、3月以降に米中が互いに相手国の製品への関税を引き上げると、欧州連合(EU)が最も大きな輸出増の恩恵を受けるという調査報告をまとめました。
関税でコスト高となった対象製品の多くが、第三国への発注に振り換えるのです。
関税引上げが、米中両国にとって「国内産業保護に効果的でない」という指摘です。その結論を下記に要約します。
(1)
中国から米国への追加関税2500億ドル相当の輸出品は、次のように輸出先が変更されます。
1.第三国に調達先が変更される82%
2.中国からの輸出が続く12%
3.米企業が代替できる6%
中国は、米国へ輸出している2500億ドルの製品に25%の関税が掛けられると、88%の輸出品が他の国の製品に取って代わられるという驚くべき結果が出てきました。
大袈裟に言えば、中国は一瞬にして「世界の工場」の位置を失うことになります。輸出産業は壊滅的な打撃を受けるのです。
(2)
米国から中国への追加関税850億ドル相当の輸出品は、次のように輸出先が変更されます。
1.第三国に輸出を代替される85%
2.米国が輸出を続ける10%弱
3.中国企業の代替は5%程度
米国が、輸出を継続できるのは10%弱で、米国は90%程度の対中輸出が減る試算です。結論を要約します。
米中双方は3月以降に追加関税を引き上げると、互いに相手国へ約9割の輸出が減るという試算が出てきました。
とりわけ、輸出で経常黒字を稼ぎ出してきた中国の受ける損害は莫大な金額になります。
経常収支の赤字は拡大して、人民元相場は崩落。外貨準備高が急減して2兆ドル台前半と、哀れな姿が想像できるのです。
「一帯一路」など、もはや言い出す元気もなくなるでしょう。
これだけのリスク発生が予測される状態で、中国はどのような現実的な選択をするのでしょうか。
中国の「中南海」(日本の霞ヶ関)は、実利かメンツかの選択になります。
換言すれば、普通の国か、覇権を狙う国か。そのいずれかの選択でしょう。
肝心の米国は、中国が「普通の国」になる期待を全く持っていません。
米通商代表部(USTR)は2月4日、中国のWTO(世界貿易機関)規定の順守状況に関する『年次報告書』を議会に提出しました。
それによると、中国の「重商主義的」(保護主義的)行動は変らないと見ています。
加盟164ヶ国が現在、WTOの規定を通商慣行是正に向けて変更する議論を重ねています。
USTRは、中国があくまでも「重商主義的」振る舞いを続けるだろう。
その結果、経済・通商分野における現在の姿勢を制限しようというWTOの新規定協議が、成功すると期待すること自体、非現実的であるとの見方を示しました。
米国が、ここまで中国に対して冷めた目で見ているとなれば、安易な妥協をしないだろうという慎重論も当然でしょう。
受け皿にベトナムが浮上
米国は、中国が「普通の国」にならず、米国への「覇権を狙う国」であり続けるならば、米国は中国へ強い対応を取るものと見るほかありません。
中国へ進出している外資系企業が、それを嗅ぎ取れば「脱中国」の動きは弱まることはないでしょう。
その受け皿国として、ベトナムの存在がクローズアップされています。
ベトナムは、昨年のGDP成長率が7.08%でした。
当初目標6.7%を上回り、08年のリーマンショック以降で最高の成長率でした。
スマートフォンなどを生産する韓国サムスン電子の輸出が好調だったことも寄与しました。
中国の昨年の成長率は6.6%でした。これを上回ったのです。
ベトナムは、貿易戦争の影響で中国からの生産シフトがプラスに働いています。
こうして、昨年のGDPは、0.5%程度増加したとの指摘もあります。
アジアの主要国で「最もプラスの影響を受けた」と見られているのです。
世界銀行は、ベトナム経済の成長が緩やかに鈍化すると見ています。
19年は6.6%、20年は6.5%という予測です。
しかし、米中貿易戦争による「脱中国」効果が、GDPへ上乗せになることは確実でしょう。
中国経済は、世界のGDPの16%を占めています。
その「巨漢」が、急減速に見舞われて、各国に波紋を呼んでいます。
日本が、平成バブル崩壊で急減速したときは、これだけの騒ぎにならなかったのです。
この日中の差が、経済体質の違いを表わしています。
中国は、「粗放型経済」で資源ガブ飲み経済です。
長年の急速な経済成長を背景に、世界中から資源を買い漁ってきました。
そのため主要な貿易相手国となっています。
過去10年間、中国が世界の輸出入の伸びの5分の1をもたらしたほどです。
中国経済の減速はアジアに特に大きな打撃を与えていることは確かです。
前記のベトナムのように「脱中国」のプラス効果だけではありません。
アジア諸国の対中輸出は、衣料品、自動車から中国の巨大製造業企業を支える技術に至るまで多岐にわたります。
昨年末にかけての中国の需要の落ち込みは、著しいものでした。
先進国でも日本を初めとして対中輸出が落込んでいます。
だが、一定の期間をおけば、世界的な市場調整が進んでバランスが回復します。
先ほど上げた国連貿易開発会議(UNCTAD)の予測では、米中が互いに関税を引き上げて輸出先を失っても、他国がこれを約9割カバーすることを思い出して下さい。
UNCTADの報告によると、米中の関税引き上げ合戦でEUの域外輸出は、年間で計約705億ドル(約7兆8000億円)増えると推測しています。
このうち、中国の対米輸出の代替が約508億ドル、米国の対中輸出の代替は約197億ドルと見ています。
輸出増額の2位は、米国の隣国メキシコ(約279億ドル)、3位は日本(約244億ドル)となっています。
「水は低きに流れる」と言われます。
米中が貿易戦争をして傷つけ合っていても、第三国がその穴を埋めるという厳然たる事実を認識すべきでしょう。
このことは、とくに中国へ向けて強調したいと思います。
中国にとって「普通の国」か、「覇権狙いの国」かという究極の選択は、中国の運命を左右すると見て間違いないでしょう。
「覇権狙いの国」となれば、米国から徹底的なマークに遭い、経済的な破綻が想像できます。
基礎技術のない国家が、技術窃取を頼りに覇権国家を目指すというのは、いささか漫画的に見えるのです。
中国の経済改革派の奮闘を期待するほかありません。
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