勝又壽良の経済時評
日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。
2017-05-29 05:00:00
韓国、「新大統領」日韓関係の危機回避に「全力挙げる」背景
日本との関係強化が不可欠
少女像撤去が関係改善の前提
文在寅韓国大統領は、日米中露の4ヶ国に特使を派遣した。
日米露での特使はスムースに受け入れられたものの、中国の習近平主席が韓国特使を属国扱いする席順で迎えたとか。
韓国メディアは怒りの記事を書いたほど。こんなところにも、中国の権威主義が顔をのぞかせている。
韓国大統領選中は各候補とも、15年12月に合意された日韓慰安婦合意の破棄、再交渉を叫んでいた。
文氏もその一人だった。いざ当選してみると、日本に対してそんな破壊的なことを言えるはずもない。
日本に差し向けた特使には、未来戦略重視と首脳が相互に訪問し合うシャトル外交を提案してきた。
日本政府も、こうした主旨の親書には反対するはずもない。親書を媒介にして、日韓関係は動き出す雰囲気である。
日本との関係強化が不可欠
文大統領が、選挙戦中の主張を引っ込めて「柔軟戦略」に出てきた背景は何か。
第一は、朴前大統領の失敗である。
慰安婦問題で日本が謝罪しない限り、日韓首脳会談に応じないと発言したことだ。
この一言で、日韓関係は根本から冷やされてしまった。
韓国では、大統領の発言が絶対的な重みを持っている。
朴氏の「反日宣言」に対して、これを諫めるメディアも登場せず、韓国は国中挙げての「反日国家」と化した。
朴氏は、結局一度も訪日しない韓国大統領として名を記すことになった。
第二は、この朴氏の失敗がもたらした経験に学んだのであろう。
前述の通り、韓国は大統領の意向一つで、「反日」にもなり、また金大中大統領時代のように「親日」にもなり得る、不思議な国である。
国家元首が右と言えば右、左と言えば左という一色に染められる。
メディアが、権力のご機嫌伺いすることで大統領意向を増幅させるのだ。
その意味で、韓国メディアには自主性が欠如している。
『朝鮮日報』や『中央日報』という発行部数1位と2位の新聞が、ついこの間まで激烈な「反日キャンペーン」を張っていたのだ。
第三は、韓国を取り巻く安全保障環境の悪化と経済成長の減速が加速化する懸念が強まっていることである。
北朝鮮の核とミサイルの開発も急ピッチで進んでいる。
日米韓の三カ国の防衛体制を固めざるを得なくなった。
中国が猛反対している「THAAD」(超高高度ミサイル網)の設置は、朴大統領時代に決定した。
文大統領はその導入決定過程が不明瞭だから、韓国国会で批准すべきだと主張してきた。
だが5月24日、大統領府での「THAAD」問題の審議の際、国防省高官は叱責を受けずに淡々と審議したと報じられた。
韓国は、中国に対して「THAAD」を国会で審議すると言い、ひとまず怒りの矛先をかわしてきたが、米国からはきつい要求を突きつけられたにちがいない。
これが伏線になって、大統領府での審議は「既成事実」として受け入れ、静かなのかも知れない。
文大統領は今更、「THAAD」白紙化などと言い出したら、保守派から弾劾状を突きつけられかねない。
韓国は経済面でも深刻である。
「反日」で日本経済界との交流を断ち切ってきた関係で、世界最先端の技術情報から遠ざかっていた。
この間、中国と蜜月関係を結んでいたが、中国へは技術が漏洩して、追われる立場になっている。
韓国の第4次産業革命の水準が、米国やドイツなど主な先進国に追い付くには4年もかかるという研究結果が産業研究院から示された(『朝鮮日報』5月25日付)のだ。
こういう手痛いミスを重ねてくると、「反日」騒ぎが韓国経済にとって死活的問題になってきた。
これに加えて、先に指摘した安保体制で、日本の協力が不可欠となった以上、慰安婦合意は白紙撤回などと言える場合でない。
そのことに、ようやく気づいたにちがいない。
『日本経済新聞』(5月25日付)「経済教室」欄は、「韓国新政権と日韓関係(下) 歴史問題の政治化避けよ」と題する寄稿を掲載した。
筆者は、韓国・世宗研究所所長 の陳昌洙氏である。
この寄稿では、朴・前大統領が歴史認識に固執したことが、日韓関係を泥沼に追い込んでしまった。
その失敗を二度繰り返さぬように主張している。
歴史認識は、歴史事実に基づくはずだが、中韓は事実を棚上げして、ただ日本に謝罪せよと迫っている。
まさに「土下座外交」の要求に他ならず、日本が受け入れるはずがない。
日本の一部マスコミには、中韓のこういう要求に呼応する動きもあるが、それは間違いだ。
歴史的な事実に基づく謝罪は当然だが、便乗要求の謝罪には一切応じてはならない。
アジア諸国が、中韓のような執拗な謝罪要求をしない理由は、日本の謝罪を受け入れてくれたからだ。
中韓は、そもそもこの問題を政争の具に仕立てる底意があるにちがいない。
自国にとって都合の悪いことが起こると「日本戦犯論」を持ち出す。
こんな卑怯な振る舞いはない。
東南アジア諸国と日本の友好関係が、中韓でも受け入れられるには、歴史認識を政治問題化せず、アジアの平和を築くという崇高な目的に使われるべきだろう。
日本をやり込めて謝罪させるために歴史認識を持ち出すべきではない。「感情過多」国家の中韓に、それが可能だろうか。
(1)「韓日両国指導者のリーダーシップは、これまで以上に冷徹に、韓日関係を新しく設計する時期を迎えている。
韓国新政府は日本の憂慮とは異なり、過去の問題と経済・安全保障協力を分離する『ツートラック政策』を採るとみられている。
文大統領は安倍首相との最初の電話会談で『良い信頼関係を構築するために両国のリーダーとして一緒に努力していきたい』と語った。
安倍首相もこれに応えて、韓国は重要な戦略的なパートナーであると述べた。
今後の韓日両国の課題は、指導者のリーダーシップが国内政治により振り回されるのではなく、戦略的な判断ができる能力と政策意思を維持して行使できるかどうかという点にある」
韓国が「十八番」で持ち出す「過去の問題」は、法的にはすべて解決済みである。
1965年の日韓基本条約、2015年の日韓慰安婦合意で終わっているはずだ。
「反日」が、「間欠泉」のように噴き出すのは、「安倍首相がつっけんどんな言い方をした」という類いのことがすべてである。
そのたびに、韓国は「日本が反省していない」と教師が生徒を叱るような発言をする。これを聞いた日本側が反論する。
これにまた韓国が反応するという悪循環に陥っている。
韓国は日本に謝罪させて大喜びだが、それは勘違いも甚だしい。日本人の怒りは深く静かに沈潜している。
韓国が、先端技術で大きく出遅れた理由は、日本人の怒りが、最先端情報を韓国に教えなかった結果でもあろう。
韓国は、日本に喧嘩を売れば、それだけ経済的に損する立場であることを自覚すべきだ。
(2)「今のように韓日両国政府が国内の世論に埋没し、十分に機能できない状況が続けば、韓日関係の未来は暗くなるしかない。
前向きの韓日関係をつくるためには、まず韓日両国首脳が一日も早く会い、虚心坦懐(たんかい)に意思疎通を図らねばならない。
現在、韓日両国は相手を信頼せず、互いに誤解が生じることにより、甚だしいときは相手を無視する政策を貫徹しようとさえしている。
韓日両国首脳がまず意思疎通を図り、互いを信頼できる環境をつくることにより、韓日関係は新しい発展が約束されるだろう」
人間は感情の動物である。それ故に、感情にまかせて相手を罵倒したら、感情のしこりが残って大変な事態になる。
だから、成熟した市民社会では、お互いに感情をコントロールしている。
中韓にはその訓練がないのだ。
記者会見を見ていても、中国の報道官や政府高官の発言は、感情にまかせたものばかりである。
国連で、中国の首相は二度、尖閣諸島の帰属を巡り「日本は泥棒国である」と公式発言した。
温家宝前首相と李克強現首相である。国連議場での「泥棒発言」である。驚くほかない。
韓国もこの傾向が強い。
日本に対して歴史認識問題を持ち出さなくなれば、日韓関係はずいぶんとスムースに動くと見られる。
かつて、金大中大統領は、日本に資金援助を求めてきたとき、「以後、日本批判を言わない」として、資金供与を求めてきたことがあるという。
そういうときは下手に出るが、最近はまた、反っくりかえった態度だ。
日本が感情面で「切れる」のも致し方ない一面がある。韓国が紳士的に振る舞えば、日韓関係は静かになろう。
(3)「次に1998年に金大中大統領と小渕恵三首相により発表された『韓日共同宣言(21世紀に向けた新たな韓日パートナーシップ宣言)』を発展させる形で、韓日両国の全体的で包括的な協力方針を一日も早くつくらねばならない。
韓日両国は全体的な協力のロードマップ(行程表)を作成するうえで、歴史認識が協力の前提とならないようにしなければならない。
すなわち歴史問題偏重の政策が韓日関係を悪化させる愚を再び犯さないよう、韓日両国指導者がリーダーシップを発揮して努力しなければならない」
日韓慰安婦合意について言えば、韓国が約束を果たしていないことは明らかだ。
ウイーン条約で、相手国公館の近くに不快なモノを置かないことになっている。
韓国は、明らかに約束違反である、それにもかかわらず、「韓日両国は全体的な協力のロードマップ(行程表)を作成する」とは、問題の本質をぼかしている。
その前に、「少女像」を撤去すれば済むこと。それをしないで、日本側に新たな義務を課すとしたら、不公平の誹りを免れない。
少女像撤去が関係改善の前提
『ハンギョレ』(5月26日付)は、「韓日間の軋轢は正常な姿、韓国はミドルパワーを発揮すべき」と題して、李鍾元(イ・ジョンウォン)早稲田大学教授 のインタビューを掲載した。
この記事は、日本滞在30年に及ぶ韓国人学者の日韓問題に付いてのインタビューである。
韓国人特有の日本警戒論がない点で、素直に聞ける面が多い。
ただ、一国の総合国力をGDPだけの基準で論じている点が気がかりである。
私は、「イノベーション」という目には見えない「改革力」が、国家発展の基盤であることを強調したい。
中国がGDPで日本を上回ったからと言って、中国を尊敬するつもりもないし、日韓がGDPで接近したからと言って脅威とも思わない。
こういう視点は、儒教社会特有の価値基準である「財力」で相手の力量を測る欠陥が感じられる。これが、極めて残念である。
日本人がヨーロッパを見るとき、GDPを基準にするだろうか。
ヨーロッパの文化と市民社会、そして民主主義の発展に対して畏敬の念を持っている。こういう視点が、このインタビューには発見できなかった。
日韓がGDPで接近してきたから、日本人が韓国に対して焦っているという点の指摘は、強く否定したい。
改めて、中韓と日本の価値基準が全く違うことを気づかされたのだ。
(4)「たとえば、1998年(金大中<キム・デジュン>・小渕恵三)の韓日パートナーシップ宣言があったが、その続きがない。
しかし、今すぐには、安倍首相や日本の社会世論の動向からして、容易ではないだろう。
日本は慰安婦合意を“獲得した成果”だと思っており、これを守るために圧力を加えるのが主流になっている。
長期執権を目指す安倍首相は右派に力を入れている。外交でも強い姿勢を取れる対象が韓国であり、韓国には譲れない政治的動機が多い。
逆にいうと、日本が譲歩をしなければならない政治的・外交的な動機が現在はない。
ところで、韓国外交は八方塞がりだ。外交が閉塞した状況では対日外交も力を発揮できない。
ただし、北朝鮮の核問題を機に米国との関係を再構築し、
中国と協力しながら、朝鮮半島状況も安定させることができれば、
日本を外交的に圧迫できる構造を作れるかもしれない。韓国が時間をかけて進めるしかない」
ここでは、のっけから妙な発言をしている。
「慰安婦合意そのものを守るか否かよりは、韓日間の新たな関係に向けて大きな枠組みを考えることもできるだろう」という指摘は間違えている。
日韓合意の「少女像」の撤去が日韓合意の最終帰着点である。
これを曖昧にして、新たな合意はあり得ない。この点が、韓国人の曖昧さと言うべきだ。約束を守る。これが国際間の基本ルールである。
これは、日本の右派とか安倍首相の長期政権云々と関わりはない。国際遵守に関わる問題に過ぎない。
「日本が(韓国に対して)譲歩をしなければならない政治的・外交的な動機が現在はない。
韓国外交は八方塞がりだ。外交が閉塞した状況では対日外交も力を発揮できない」という点は事実だ。
逆に、韓国は『少女像』撤去の義務を負っている。
この解決なしには日韓関係の前進はあり得ない。
この問題では、韓国政府が国民を説得する能力が問われている。
ウイーン条約で、外国公館まえにはこういう相手国を不快にさせるものを置いてはならないルールが存在する。
(5)「日本では、日本が以前のようにアジアで優越的な立場ではないということや、日中関係が逆転され、韓国ともほぼ対等になったように見える力の変化に対する感情的反発がかなり大きい。
2011年の東日本大震災のような大きな打撃もあった。社会全般的には強い日本に対するヒステリックな執着が多く見られる。
スポーツなど強い日本を前面に掲げることが多い。私が日本にはじめて来た約30年前には、日本はこんなにスポーツに熱狂しなかった。
しかし、韓日社会が同質化され、融合されている部分も多い。韓国文化は、サブカルチャーように依然として日本に根を下ろしている。
同じ人にも二つの側面が共存する。単純ではない」
このパラグラフの見方は、偏見に満ちている。
日本がGDPで中国に抜かれたのは、人口動態によるもので、卑下すべきことでもない。
中国経済は現在、過剰債務に苦吟しており、いずれはその総決算を求められる時期がくる。
こういう経済的な知識を備えていれば、中国を畏怖する必要もなければ、韓国とGDPで接近したことを嘆く必要もない。
日本には「イノベーション能力」がある。
私は中韓が必ず、自らの弱点ゆえに衰退すると読んでいるのだ。GDPという物量でしか相手国の力を測れない。そういう、儒教文化の後進性を強く指摘しておきたい。
(6)「改憲は外国で問題提起できるような事案ではない。
ただ、日本が北東アジアの平和にいかに貢献するかの枠組みを作ることは重要である。
国際政治的な発想では、日本の軍事的な方向を制御できる枠組みを考えて見ることができる。
欧州諸国がドイツに対して脅威を感じないのは、北大西洋条約機構(NATO)という枠組みがあるからだ。
大きな枠組みでドイツが乱暴にならないようにする制度ができているため、心配する必要がない。
日本の場合は、日米同盟が現実的抑制要因になっている。ただちに改憲をしたとしても、日本独自で行動するのは難しい」
日本の改憲問題に付いて、外国が口出しすることは内政干渉になる。
この点は、指摘の通りである。
日本が改憲して、自衛隊を憲法9条の中に包含することは必要である。
それが、他国に脅威を与えないという配慮はすべきだ。
現に、自衛隊と米軍の一体運用であることが、周辺国の懸念を払拭しているはずだ。
ドイツ連邦軍がNATOの一員に組み込まれている点は、自衛隊が米軍と一体運用である点と同一である。
(7)「私は韓国が中国とロシアとも安全保障について戦略的に協議しながら、どの国も単独行動に出られない枠組みを作るのが、ミドルパワーの知恵だと考えている。
文在寅大統領の公約を見ても、そういう方向性が見える。多国間でも、地域的グローバルな多国間協議を模索するというのは望ましい方向性だ」
韓国が、バランサー論に立って独自外交を行うのは、盧武鉉・元大統領張りの夢であろう。
韓国の経済力から見て不可能なのだ。
米軍の駐留を仰いでいる現実から見て、韓国軍は米軍との一体運用でしか安全保障を達成できる道はない。
自衛隊も米軍との一体運用である。
米国という世界覇権国家から離れて、独自の安全保障を模索するには経済的に膨大な費用を必要とする。
高齢社会を迎える韓国には、そのような力はない。日本も同じである。
よって、民主主義という基軸価値が同一である国家が同盟を組むことは必然である。
すでに、ドイツ哲学者カントが、18世紀に『永遠平和のために』で説いていることだ。
バランサー論よりも、はるかに現実的な安全保障の道であろう。
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