"韓国経済の大黒柱"サムスン崩壊がまもなく現実になるワケ
7/14(火) 9:16配信
プレジデントオンライン
現在の韓国経済を俯瞰すると、自動車、航空、国内の小売り、観光など、多くの業種で業績が悪化している。
韓国の景気停滞感は強い。
そうした状況下、サムスン電子の半導体事業が韓国の経済を支えている状況が鮮明化している。
しかし、サムスン電子の先行きがどうなるかは見通しづらい。
1つには、米中対立が先鋭化し、米国が韓国に中国向けの半導体供給を見直すよう圧力をかけていることがある。
7月8日に米国のスティーブン・ビーガン国務副長官が訪韓した背景には韓国の対中政策を見直すよう圧力をかける目的などがあるのだろう。
それに加えて、中長期的な将来像を考えると、サムスン電子は重要顧客であるファーウェイなどの中国企業といずれライバル関係になる可能性が高い。
圧倒的な国からの支援を背景にする中国の先端企業との競争は口で言うほど容易ではない。
サムスン電子が自力で、中国企業との半導体分野での競争に対応できるかは不透明だ。
それは、サムスン電子の業績拡大に依存してきた、韓国経済の不安定性が高まる可能性があることを示唆する。
■韓国経済の大黒柱サムスンの行く末
現在の韓国経済の状況を一言で表現するならば、サムスン電子の半導体事業によって、経済全体が支えられているというべきだ。
それは、サムスン電子と他の企業の業績動向を確認するとよくわかる。
今年4~6月期、サムスン電子の営業利益は23%増加した(速報ベース)。増益を支えたのが半導体事業だ。
巣ごもり需要やテレワークの増加が、同社の半導体メモリの需要を押し上げた。
また、地域別に見た収益状況の詳細は公表されていないものの、中国からの需要がサムスン電子の半導体事業の業績拡大を支えた可能性は高い。
米中対立が先鋭化する中で中国は半導体の在庫確保を急いでいる。
他方、半導体以外のサムスン電子の事業は苦戦したようだ。
スマートフォン事業は世界各国での都市封鎖や移動制限の影響から出荷台数が減少したとみられる。
サムスン電子以外の韓国企業の業況を確認すると、かなり厳しい。
韓国の輸出動向を見ると、半導体以外の品目は総崩れというべき状況だ。
新型コロナショックの影響によって世界全体で貿易取引が減少した影響は非常に大きい。
産業のすそ野が広い自動車業界では、現代(ヒュンダイ)自動車をはじめ各社の生産台数が落ち込んだ。
世界の家電市場などで存在感を示してきたLG電子も苦戦している。
4~6月期、LG電子の営業利益は前年同期比で24%減少した(速報ベース)。
現在の韓国経済でサムスン電子以外に、高額の付加価値を創出し、景気の低迷を食い止められる企業はほとんど見当たらない。
政府系シンクタンクである韓国開発研究院は、新型コロナウイルスの感染拡大が続いているために外需の回復が進まず、韓国経済が縮小していると悲観的な見方を示している。
その状況下、サムスン電子の半導体事業の収益が増加するか、あるいは伸び悩むかは、韓国経済に一段と大きな影響を与えることが予想される。
■中国向け半導体提供に圧力をかける米国
中長期的に考えた場合、サムスン電子の半導体事業がこれまでのような成長を維持できるかは見通しづらい。
その理由の1つに、米中対立の先鋭化がある。
今後の世界経済をけん引するIT先端分野を中心に、米中は覇権国の座を争っている。
5月、米国は中国のIT覇権を阻止するために、ファーウェイへの禁輸措置を強化した。
台湾がそれにいち早く対応した。
台湾は米国に安全保障を依存し、中国との関係が不安定化している。
台湾の半導体受託製造大手TSMCは、ファーウェイからの新規受注を止めた。
5月までにTSMCがファーウェイから受注した半導体は、9月半ばまでは通常通りに出荷可能とみられる。
それ以降は、出荷のために米国の許可を得なければならず、事実上出荷できない。
TSMCは収益の22%を占める中国から距離をとり、56%の収益を生み出している米国の需要獲得に注力することを選択した。
同社はアリゾナ州に120億ドル(約1兆2800億円)規模の工場を建設する計画であり、米国での受託製造シェア獲得に動いている。
韓国も台湾と同様に安全保障を米国に依存している。
冷静に考えると、韓国は安全保障を固めるために米国との同盟関係を維持・強化しなければならない。
米国は台湾に続いて韓国にも中国への半導体供給を絶たせたい。
トランプ大統領は9月のG7サミットに韓国を招待し、米国の陣営に加わるよう踏み絵を踏ませたい。
また、ビーガン米国務副長官が訪韓した目的には、
文政権の対北融和姿勢にくぎを刺すことに加え、同盟国として韓国が米国の陣営にしっかりと加わり、対中包囲網の形成に貢献するよう求める狙いがあるだろう。
米国から韓国への圧力が強まる中、サムスン電子が中国への半導体輸出を続け、業績拡大を目指すことができるか否かはわからなくなっている。
それは、サムスン電子が中国の半導体需要を取り込んで業績を拡大し、それによって経済の安定と成長を遂げてきた韓国にとって無視できないリスクだ。
■半導体の自給率向上に邁進する中国
別の視点からサムスン電子と中国の半導体需要を考える。
中国が韓国の半導体業界を重視してきたのは、中国が高性能の半導体を量産する十分な体制を整備できていなかったからだ。
半導体業界の専門家の中には、台湾や韓国と中国の生産技術には3、4年の差があると指摘する者がいる。
半導体の設計と開発に関して、中国の実力は高い。
ファーウェイ傘下のハイシリコンの半導体開発力は世界トップレベルにある。
その一方で、中国の半導体生産能力は発展途上にある。
特に、微細なICチップを量産するための技術が十分に備わっていない。
中国の量産体制の弱さを補完する形でサムスン電子は中国の半導体需要を取り込み、それが韓国経済を支えた。
2015年5月以降、中国政府は先端分野の産業強化策である“中国製造2025”を推進し、半導体の自給率向上に強く取り組んでいる。
それによって、徐々に中国の半導体生産能力は向上した。現在、中国では半導体企業が資金調達を大規模に進め、量産体制の確立に向けた投資を積み増している。
■日本に依存してきたサムスンの陰りが低迷リスクに直結する
共産党政権は産業補助金の支給によってそうした取り組みをサポートしている。
長めの目線で考えると、遠くない将来、ファーウェイ傘下のハイシリコンや中国の半導体受託生産企業である中芯国際集成電路製造(SMIC)が韓国などに比肩する生産技術を確立する可能性がある。また、中国は台湾などから専門人材を積極的に確保している。
このように考えると、サムスン電子と中国半導体業界の関係は、補完的なものから競合的なものに変化していく。
サムスン電子は半導体の開発や生産技術、人材をわが国などに依存してきた。
その同社が、米国からの圧力と中国半導体企業からの熾烈(しれつ)な追い上げに対応し、自力で競争力を高めることは口で言うほど容易なことではないだろう。
中長期的に考えると、サムスン電子の半導体分野での競争力には陰りが見え始める可能性がある。それは、韓国経済の低迷リスクを一段と高める要因と考えられる。
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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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7/14(火) 9:16配信
プレジデントオンライン
現在の韓国経済を俯瞰すると、自動車、航空、国内の小売り、観光など、多くの業種で業績が悪化している。
韓国の景気停滞感は強い。
そうした状況下、サムスン電子の半導体事業が韓国の経済を支えている状況が鮮明化している。
しかし、サムスン電子の先行きがどうなるかは見通しづらい。
1つには、米中対立が先鋭化し、米国が韓国に中国向けの半導体供給を見直すよう圧力をかけていることがある。
7月8日に米国のスティーブン・ビーガン国務副長官が訪韓した背景には韓国の対中政策を見直すよう圧力をかける目的などがあるのだろう。
それに加えて、中長期的な将来像を考えると、サムスン電子は重要顧客であるファーウェイなどの中国企業といずれライバル関係になる可能性が高い。
圧倒的な国からの支援を背景にする中国の先端企業との競争は口で言うほど容易ではない。
サムスン電子が自力で、中国企業との半導体分野での競争に対応できるかは不透明だ。
それは、サムスン電子の業績拡大に依存してきた、韓国経済の不安定性が高まる可能性があることを示唆する。
■韓国経済の大黒柱サムスンの行く末
現在の韓国経済の状況を一言で表現するならば、サムスン電子の半導体事業によって、経済全体が支えられているというべきだ。
それは、サムスン電子と他の企業の業績動向を確認するとよくわかる。
今年4~6月期、サムスン電子の営業利益は23%増加した(速報ベース)。増益を支えたのが半導体事業だ。
巣ごもり需要やテレワークの増加が、同社の半導体メモリの需要を押し上げた。
また、地域別に見た収益状況の詳細は公表されていないものの、中国からの需要がサムスン電子の半導体事業の業績拡大を支えた可能性は高い。
米中対立が先鋭化する中で中国は半導体の在庫確保を急いでいる。
他方、半導体以外のサムスン電子の事業は苦戦したようだ。
スマートフォン事業は世界各国での都市封鎖や移動制限の影響から出荷台数が減少したとみられる。
サムスン電子以外の韓国企業の業況を確認すると、かなり厳しい。
韓国の輸出動向を見ると、半導体以外の品目は総崩れというべき状況だ。
新型コロナショックの影響によって世界全体で貿易取引が減少した影響は非常に大きい。
産業のすそ野が広い自動車業界では、現代(ヒュンダイ)自動車をはじめ各社の生産台数が落ち込んだ。
世界の家電市場などで存在感を示してきたLG電子も苦戦している。
4~6月期、LG電子の営業利益は前年同期比で24%減少した(速報ベース)。
現在の韓国経済でサムスン電子以外に、高額の付加価値を創出し、景気の低迷を食い止められる企業はほとんど見当たらない。
政府系シンクタンクである韓国開発研究院は、新型コロナウイルスの感染拡大が続いているために外需の回復が進まず、韓国経済が縮小していると悲観的な見方を示している。
その状況下、サムスン電子の半導体事業の収益が増加するか、あるいは伸び悩むかは、韓国経済に一段と大きな影響を与えることが予想される。
■中国向け半導体提供に圧力をかける米国
中長期的に考えた場合、サムスン電子の半導体事業がこれまでのような成長を維持できるかは見通しづらい。
その理由の1つに、米中対立の先鋭化がある。
今後の世界経済をけん引するIT先端分野を中心に、米中は覇権国の座を争っている。
5月、米国は中国のIT覇権を阻止するために、ファーウェイへの禁輸措置を強化した。
台湾がそれにいち早く対応した。
台湾は米国に安全保障を依存し、中国との関係が不安定化している。
台湾の半導体受託製造大手TSMCは、ファーウェイからの新規受注を止めた。
5月までにTSMCがファーウェイから受注した半導体は、9月半ばまでは通常通りに出荷可能とみられる。
それ以降は、出荷のために米国の許可を得なければならず、事実上出荷できない。
TSMCは収益の22%を占める中国から距離をとり、56%の収益を生み出している米国の需要獲得に注力することを選択した。
同社はアリゾナ州に120億ドル(約1兆2800億円)規模の工場を建設する計画であり、米国での受託製造シェア獲得に動いている。
韓国も台湾と同様に安全保障を米国に依存している。
冷静に考えると、韓国は安全保障を固めるために米国との同盟関係を維持・強化しなければならない。
米国は台湾に続いて韓国にも中国への半導体供給を絶たせたい。
トランプ大統領は9月のG7サミットに韓国を招待し、米国の陣営に加わるよう踏み絵を踏ませたい。
また、ビーガン米国務副長官が訪韓した目的には、
文政権の対北融和姿勢にくぎを刺すことに加え、同盟国として韓国が米国の陣営にしっかりと加わり、対中包囲網の形成に貢献するよう求める狙いがあるだろう。
米国から韓国への圧力が強まる中、サムスン電子が中国への半導体輸出を続け、業績拡大を目指すことができるか否かはわからなくなっている。
それは、サムスン電子が中国の半導体需要を取り込んで業績を拡大し、それによって経済の安定と成長を遂げてきた韓国にとって無視できないリスクだ。
■半導体の自給率向上に邁進する中国
別の視点からサムスン電子と中国の半導体需要を考える。
中国が韓国の半導体業界を重視してきたのは、中国が高性能の半導体を量産する十分な体制を整備できていなかったからだ。
半導体業界の専門家の中には、台湾や韓国と中国の生産技術には3、4年の差があると指摘する者がいる。
半導体の設計と開発に関して、中国の実力は高い。
ファーウェイ傘下のハイシリコンの半導体開発力は世界トップレベルにある。
その一方で、中国の半導体生産能力は発展途上にある。
特に、微細なICチップを量産するための技術が十分に備わっていない。
中国の量産体制の弱さを補完する形でサムスン電子は中国の半導体需要を取り込み、それが韓国経済を支えた。
2015年5月以降、中国政府は先端分野の産業強化策である“中国製造2025”を推進し、半導体の自給率向上に強く取り組んでいる。
それによって、徐々に中国の半導体生産能力は向上した。現在、中国では半導体企業が資金調達を大規模に進め、量産体制の確立に向けた投資を積み増している。
■日本に依存してきたサムスンの陰りが低迷リスクに直結する
共産党政権は産業補助金の支給によってそうした取り組みをサポートしている。
長めの目線で考えると、遠くない将来、ファーウェイ傘下のハイシリコンや中国の半導体受託生産企業である中芯国際集成電路製造(SMIC)が韓国などに比肩する生産技術を確立する可能性がある。また、中国は台湾などから専門人材を積極的に確保している。
このように考えると、サムスン電子と中国半導体業界の関係は、補完的なものから競合的なものに変化していく。
サムスン電子は半導体の開発や生産技術、人材をわが国などに依存してきた。
その同社が、米国からの圧力と中国半導体企業からの熾烈(しれつ)な追い上げに対応し、自力で競争力を高めることは口で言うほど容易なことではないだろう。
中長期的に考えると、サムスン電子の半導体分野での競争力には陰りが見え始める可能性がある。それは、韓国経済の低迷リスクを一段と高める要因と考えられる。
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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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