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韓国、「内憂外患!」自動車産業こけたら「永遠の中進国」

2017-09-21 17:06:24 | 日記

勝又壽良の経済時評

日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。

2017-09-21 05:00:00

韓国、「内憂外患!」自動車産業こけたら「永遠の中進国」

IMF専務が危惧の念

政府にSOS打つ危機へ

現代・起亜の格下げ予告

 

(2017年9月21日)

韓国の悲願は、GDPで先進国入りすることだ。

日本と同じグループで肩を並べたい。文在寅政権の登場は、この夢を実現させるどころか、さらに遠ざける危険性が大きくなった。

文氏の唱える「所得主導成長経済」は、分配面を重視する反面、成長面を軽視しているからだ。

 IMF専務が危惧の念

先に訪韓したIMF(国際通貨基金)のラガルド専務理事は、次のように指摘した。

「所得主導成長経済戦略は需要を創出する政策だが、その場合、供給も合わせる必要があると述べ、

慎重に接近が必要である」(『中央日報』9月11日付)と、やんわり釘を刺しているほど。

私も、この立場を一貫して指摘しているが、文氏には学生時代に受けた左派系経済学の講義の影響が強く残っているのだろう。

 文氏は、善人である。他人の意見をよく聞くが、残念ながらその影響を受け易い人物でもある。

文氏が、大統領府に招いた秘書官の3割は、学生運動家上がりの人たちだ。

彼らが日常交わす会話は、昔の「左派系経済学」のそれであろう。

現に、打ち出されている経済政策は、全て左派系である。

経済成長あって初めて高い分配も受けられるのだ。この前提を、意図的に無視している。

それが、左派系経済学の特色である。

 現在、世界的に法人税率引き下げ競争をしている。

この狙いは、海外からも企業を呼び込んで、積極的な投資を期待しているからだ。

企業による設備投資は、雇用を増やすから家計所得が増加して個人消費を刺激する。

これに伴って、経済が活性化されれば企業はさらに投資を増やして、雇用や賃金を増やす。

こういう好循環が期待して、法人税率を引き下げるものである。

 文氏には、法人税率引き下げが「企業優遇」に映るらしい。

「反企業」を基本的立場にする左派系経済学では、法人税率は引上げが当たり前という発想法である。

実は、この左派系経済学の思潮にそった判決が出された。

 ソウル中央地裁は8月31日、起亜自動車労組が起亜車を相手に起こした賃金請求訴訟で、「定期賞与金は通常賃金に該当する」との判決を下した。

ボーナスが通常賃金に計算されるというのだ。

通常賃金は超過勤務手当・退職金などの基準となる。

今回の判決で、ボーナスが通常賃金に加えられると、会社が支払う各種手当の金額も膨らむ。

起亜自動車は、この判決を不服として控訴した。 

私もかつて東洋経済で、会社側の立場から賃金交渉に参加した経験がある。

組合側の要求は、ボーナスが通常賃金の一部であるという主張である。

だから、業績の波によってボーナスを大きく変動させるのは不当である、とした。

これに対した会社側は、ボーナスは業績を反映するから、好不況によって違いが出るのは致し方ないと反論。

この労使の主張は交わるはずがなく、最後は「妥協」して解決した。

 この労使交渉の例から言えば、ボーナスを通常賃金とする判決は、労組寄りと言うほかない。

企業業績は一定不変のものでなく、国際情勢、世界経済、政府の経済政策など、企業がコントロールできない要因で変動するものだ。

だから、ボーナスは好不況に合わせて変化するのはやむを得ない。

その変動してやまないボーナスが、通常賃金に加算されることは、経済変動の実態を知らない裁判官の理想論に過ぎない。

 今回の判決が、韓国企業に広く適用された場合、韓国の経済成長率にどのような影響があるのか。

 「パク・ギソン誠信女子大経済学科教授によると、

通常賃金の範囲拡大による勤労者報酬の増加は年間の経済成長率を0.13%ポイント低めるという。

昨年の韓国の経済成長率(2.8%)を基準にすると、国内総生産(GDP)は2兆262億ウォン減少する」(前出の『中央日報』記事による)というのだ。

労組の主張が、韓国の経済成長にマイナスをもたらすから、韓国全体の福祉増進にブレーキとなる。

そのメカニズムは、次のようなものだ。

 ボーナスが通常賃金に加わると、企業の支払う賃金総額は増える。

それは、企業利益を圧迫して減益要因になる。

こうして、企業の設備投資意欲には負の影響を与える。

雇用増を期待できず、経済循環が止まり、経済活動は縮小過程にはまり込むのだ。

韓国司法は、経済循環過程についての考察もなく、単なる法理論を援用した判決をくだした。

それが、いかに現実から遊離しているか。視野を広めるべきであろう。

 韓国司法は、時の政権の主張によって影響される根本的な欠陥を抱えている。

権力に対して無意識のうちに「媚びを売る」ことだ。

将来、権力から取り立てて貰えるという淡い期待を持っている。

先の朴槿恵(パク・クネ)前大統領の取り調べに当たった特別検察のトップは、現場の捜査官に「激励金」を渡していることが発覚している。

韓国司法は、決して「公正中立」ではない。

極めて、政治的な動きをする。後進国的な動きだ。

 韓国の自動車業界は、先の起亜賃金訴訟の判決が出る前に、韓国政府に対して異例の「嘆願書」を出している。

 政府にSOS打つ危機へ

『朝鮮日報』(8月22日付)は、「高コスト低効率の韓国自動車産業、危機克服に政府支援を」と題して、次のように報じた。

 韓国産業の二大看板は、電器と自動車である。その一つの自動車産業が、経営危機を訴えていることは異常事態と言うほかない。

理由は、ボーナスの通常賃金算入によって、著しい生産コスト増を招き経営危機に陥るというのだ。

そこで、政府に対して、「労働者・使用者・政府の間で中立的な協議機関を稼働させてほしい」と要請する事態となった。

その後のソウル地裁の判決で、韓国自動車産業の危機が一層、深まっている。

 実は、前記の三者による調整案は、文在寅大統領が就任時に提案したことでもある。

宗教家の参加まで求めていたから、文氏にも腹案があるに違いない。

賃金問題は本来、労使交渉で解決するものだが、ここまで労使対立が激しくなると、政府が「行司役」となって調整するしか方法がなくなったのだろう。

 (1)「韓国自動車産業協会は8月22日、韓国の自動車産業に関するグローバル競争力の危機的状況を話し合う懇談会を開催した。

協会によると、韓国の自動車産業は内需・輸出・生産がいずれも2年連続で減少している。

このため昨年の工場稼働率(91.1%)も前年に比べ5ポイント減少した。

懇談会に出席した完成車メーカーと部品メーカー各社は

『韓国の自動車産業の“高コスト・低効率“の生産構造が限界に来ている』として

『危機を克服するためには政府の支援が必要』と主張した」

 韓国の自動車産業が、「高コスト・低効率」の生産構造となり限界に来ている点は事実であろう。

その原因を探ると、労組の高賃金要求が一貫して続いていることである。

「労働貴族」とも揶揄されるように、今では世界一の強硬労組である。

要求貫徹のためには、高い煙突に登ることなど珍しくなく派手な運動を行なっている。およそ、「妥協」という二字とは無縁の行動を続けている。

 米国のGM(ジェネラルモーターズ)は破産(2009年6月)に追い込まれたのは、強硬労組の高賃金要求が続いた結果だ。

「世界のGM」と言われ、「GMに良いことは米国にも良いこと」とナショナルフラッグを背負った意識であった。

そのGMすら倒産する。韓国自動車企業が倒産に追い込まれるのは朝飯前のことなのだ。

この現実を、韓国の自動車労組は認識すべきであろう。

 

 (2)「韓国自動車産業協会の金容根(キム・ヨングン)会長は、

『このような危機は4次産業(情報・知識産業)の基盤の弱体化につながるはずで、通常賃金の問題まで重なれば重大な社会問題になるだろう』として、

『とりわけ根深い労使関係問題の解決に向けて、政府は労働者・使用者・政府の間で中立的な協議機関を稼働させてほしい』と求めた。

労組と通常賃金をめぐって訴訟を繰り広げている起亜自動車の朴旱雨(パク・ハンウ)社長は

『産業の特性上、残業や夜勤が多いが、通常賃金(の範囲)が拡大すれば手当が50%増える。

起亜自の手当が50%増えれば現代自(労組)も黙ってはいない。

そうなれば労働市場でさらに大きな混乱が起きるだろう』と危機感を示した」

 韓国の労組組織率は、約10%である。

日本の17%に比べても格段に低い。

韓国では、大企業や公的企業が労組を持っている程度で、中小企業にはほとんど労組が存在しないのだ。

実は、労組員は高い賃金を得ているので、韓国の上位10%所得層に数えられている。

いわば、韓国では「特権階級」に属する恵まれた立場である。

それにもかかわらず、現代自動車労組は、今年で連続6年のストを続けている。

すでに、トヨタ自動車を上回る賃金を得ているが、それでもスト権を確立した。

 現代・起亜車の格下げ予告

『朝鮮日報』(9月8日付)は、現代自動社系列3社の社債格付けについて、次のように報じた。

 スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が、

現代自動車、起亜自動車、自動車部品メーカー・現代モービスの3社の格付け見通しを「弱含み」に引き下げた。

今後、1年間の業績推移を見て引き下げる場合もあるという予告である。

現状では、中国事業で手こずっているから、格付けの引き下げは不可避と見られる。

 (3)「米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は8日、

韓国の現代自動車グループの現代自動車、起亜自動車、自動車部品メーカー・現代モービスの3社の格付け見通しを

『安定的』から『ネガティブ(弱含み)』に引き下げた。

ただ3社の長期格付けは、これまでと同じ『シングルAマイナス』とした。

起亜の発行する長期債の格付けも『シングルAマイナス』で据え置いた」

 S&Pの格付けで、「シングルAマイナス」とは、「A-」の記号で表されている。

10階級中で上から7番目という「下位ランク」である。

もし、引き下げられるとなれば、「BBB+」で8番目のランクとなる。

 (4)「S&Pは現代自動車と起亜について、業績と収益性が落ち込んでいることを指摘。

今後、12カ月の間に現在の状況を改善できるかどうかは不透明だとした上で、

米国の最新鋭地上配備型迎撃システム『高高度防衛ミサイル(THAAD、サード)』の在韓米軍配備に反発する中国での両社に対する否定的な世論は数カ月続くと予想した。

現代モービスについては、現代自動車グループと緊密な関係にあることに言及。

『今後12~24カ月の同グループの自動車製造事業に関する不確実性を反映した』とした」

 現代車と起亜車の中国事業については、9月12日の私のブログで詳細に取り上げた。

部品の供給ストップによる組み立てラインの操業停止が一時的に起こったもの。

理由は、部品代金の支払い遅延である。

今でも、未払い分はそのまま残っているから、いつ部品の納入ストップが起きるか分からない危険状態が続いている。

また、現代車の合弁相手の北京汽車が、強引に部品価格の25%引き下げを要求するなど、現代車と対立している。

一部では、この両社の合弁解消説も流されるなど、中国側からの揺さぶりが大きくい。

今後の中国での新事業についても、見通しは立っていない。

中国政府は、大気汚染を防ぐべくガソリン車やディーゼル車の製造・販売を禁止する方針であると報じられた。

英仏が2040年までの禁止を表明したことに追随し、導入時期の検討に入った。

電気自動車(EV)を中心とする新エネルギー車(NEV)に自動車産業の軸足を移す。この動きについて、現代車も起亜車も具体的な動きを見せていないのだ。

 中国事業で立ち直り不可能なほどの深手を負うと、韓国経済にとっても重大事態になる。

韓国自動車産業は、韓国製造業生産の13.6%、雇用の11.8%、輸出の13.4%を支えているからだ。

この大部分は、現代車・起亜車が担っている。

韓国自動車産業は、文字通り「内憂外患」を迎えた。

国内では、ボーナスを通常賃金に算入すべしという判決。

国外では、中国事業がTHAAD問題のトバッチリを受けて「生死をさまよう」事態である。

もはや、企業レベル単独の解決能力を超えている問題が起こっているのだ。

 

 



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