プーチンが動かす傭兵集団
「ワグネル」の汚い役割
<ウクライナの戦場に投入されたエリート傭兵集団の正体と使命は>
ワグネルは「プーチンの私兵」とも言われる Sputnik/Mikhail Klimentyev/Kremlin/REUTERS
イギリス国防省は4月4日に公表した新たな分析の中で、ロシアのウラジーミル・プーチンとつながりのあるエリート傭兵組織「ワグネル・グループ」が、ウクライナ東部に派遣されていると明らかにした。
同省は分析の中で、「ロシア軍の部隊は統合と再編を繰り返し、ウクライナ東部のドンバス地方での作戦に攻撃を集中させている」と指摘した。「ロシア政府とつながりのある民間軍事会社、ワグネルの傭兵を含むロシア軍の部隊が、ウクライナ東部に移動している」
エリート傭兵部隊であるワグネル――「リーガ」の名前でも知られる――は2014年に結成され、同年のクリミア侵攻やドンバス地方での戦闘に参加。
2014年から2015年にかけて、親ロシア派の分離主義勢力がドンバス内でドネツク人民共和国・ルガンスク人民共和国の創設を一方的に宣言するのを手助けしたことで、注目を集めるようになった。
プーチンは2月24日のウクライナ侵攻前の21日、ドネツクとルガンスクの「独立」を承認する大統領令に署名していた。 創設者にはナチスのタトゥー ニューヨーク・タイムズ紙によれば、ワグネルという組織名は、ロシア軍参謀本部情報局(GRU)の元メンバーで同組織を設立したドミトリー・ウトキンのコールサイン(呼出符号)に由来する。
ウトキンは、ナチスの指導者アドルフ・ヒトラーが好んだ作曲家「ワーグナー(ワグネル)」を自らのコールサインに選び、ナチス関連のタトゥーを複数入れているらしい。
ワグネル・グループは単一の企業体ではなく、複数の企業や組織の大規模なネットワークによって構成されている。 アメリカの複数の当局によれば、ワグネル・グループには、プーチンに近い実業家のエフゲニー・プリゴジンが資金提供を行っている。
しかしプリゴジン本人は、ワグネルとの一切のつながりを否定。ロシア政府もワグネルへの関与を否定し、ロシアでは民間軍事会社の設立は違法だとして、その存在自体を否定している。
西側の複数の国の政府や活動家らは、ワグネル・グループがアフリカでの人権侵害や、リビアおよびシリアでの戦闘に関与したと非難してきた。マリやモザンビーク、スーダンに派遣され、代理戦争を戦ってロシアの影響力を行使し、油田などの戦略的利益を奪取したこともあるという。
ロシア兵の身代わりの「捨て駒」か
インターネットメディア「インターセプト」は3月31日、ワグネルの傭兵たちが、シリアなど自分たちが作戦を展開している国々で、さらなる戦闘員を採用していると報じた。
また本誌は3月29日に、ワグネル・グループがウクライナ東部に1000人の傭兵を投入予定だと報じた。ウクライナ軍も3月に入ってから、首都キーウ(キエフ)近郊で、ワグネルの傭兵たちと複数回にわたって衝突したことを報告していた。
英情報機関・政府通信本部(GCHQ)のジェレミー・フレミング長官は、ワグネルは、ロシア軍側の死者数(公式発表数)を少なく抑えるための「捨て駒」として使われている可能性が高いと指摘した。
ワグネルをウクライナに派遣することで、人権侵害行為から距離を置くこともできる。 国際行動規範協会のジェイミー・ウィリアムソン事務局長は、ワグネルはロシア軍の元兵士たちを雇い、「軍事請負組織」の機能を果たしていると指摘した。
「冷戦初期のような傭兵集団」 「ワグネルとロシア政府との間には、支配権と資金の出処という点において、明らかなつながりがある」とウィリアムソンは本誌に語った。「ロシア政府はその存在を認めていないが、ワグネルは軍事請負集団と見なされている。
冷戦初期にみられたような傭兵集団に等しい存在であり、アフリカの南部、東部や西部の複数の企業がワグネルに関与しているとみられる」
本誌は、傭兵使用に関する国連作業部会のソーチャ・マクラウド議長、および国際的な人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチに、ワグネルについてのコメントを求めたが、本記事の発行時点までに返答はなかった。
ウクライナにおけるロシアの軍事作戦は、ウクライナ側の激しい抵抗を受け、停滞している。これまでにウクライナの民間人を含む数千人がこの戦闘で命を落とし、数百万人が避難を余儀なくされている。