ロシア反体制派指導者が暴いた
「プーチン」「側近」の腐敗
“甘い汁”を吸う日本人女性とは
世界各国でプーチンとその側近らに対する資産凍結措置が強化されている。本誌(「週刊新潮」)3月24日号で報じたラブロフ外相のダミー会社の存在についても日本の関係省庁が関心を示す一方で、ロシアの反体制派指導者が暴くプーチン・ファミリーの腐敗は底知れぬ闇をのぞかせていた。
プーチン最側近の一人であるラブロフが、通称「青山ハウス」と呼ばれる“秘密拠点”を都内に持ち、コロナ禍前までは来日のたびに同ハウスを愛人との密会に利用していたことは本誌3月24日号で既報の通り。ロシアの諜報活動を捜査する警視庁公安部外事1課(通称・ソトイチ)はこの動きを長期間、監視していた。
その愛人の名は〈スヴェトラーナ・ポリャコーヴァ〉。昨年9月、ロシアの反体制派で野党指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏がプーチン政権の腐敗を告発した一連の「ナワリヌイ・レポート」で明かされている。
同レポートでは、ポリャコーヴァは映画やテレビの制作に携わる元女優で、2019年にラブロフと一緒に撮られた写真も掲載。さらに彼女は〈過去7年間でラブロフの大臣専用機で60回以上〉、世界二十数カ国の外遊に公費で同行し、そのなかに〈日本〉が含まれていたことも暴露された。
具体的に〈17年3月19日から21日〉にかけてポリャコーヴァばかりか、その娘も一緒にラブロフに同行して訪日したと記述している。 「実際、同月20日、ラブロフは岸田文雄外相(当時)と都内で会談しており、レポート内容の信憑性に疑問を挟む声は少ない。むしろロシア国内では“大臣なんて皆、それくらいやってるでしょ”といった反応が大半です」(全国紙ロシア特派員)
モスクワ郊外の刑務所に収監中
20年、シベリアでナワリヌイ氏は神経剤ノビチョクで毒殺されかけ、安全のためドイツで治療。翌年、帰国したところをロシア当局に逮捕され、現在に至るまでモスクワ郊外の刑務所に収監中の身だ。 「昨年2月の収監以降に発表されたレポートは野党関係者や反体制派など、ナワリヌイ氏の仲間が執筆を担当したものとされます。3
月15日、ナワリヌイ氏は新たに問われた詐欺罪などで禁錮13年を求刑され、獄中生活は長期化する見通しです」(同) 同レポートで興味深いのがラブロフとオリガルヒ(新興財閥)の一人である“アルミ王”ことオレグ・デリパスカとの関係だ。
レポート内で、ラブロフが〈外相の地位を利用してデリパスカの問題を解決〉し、〈デリパスカのビジネスに貢献〉。その見返りの一つとして、ラブロフと愛人のポリャコーヴァが〈デリパスカ所有の自家用機を自分たちの飛行機として乗り回している〉と記す。
国税が査察
青山ハウスを所有する英領バージン諸島に登記された法人は「デリパスカが実質オーナーを務める会社」(政府関係者)で、同ハウスを管理する都内・有明に本社を置くJ社は「ラブロフのマネーロンダリングのためのダミー会社」(警察関係者)と見られている。
J社にはこれまで海外のデリパスカの関連会社から大量の入金があり、加えて神奈川や静岡にデリパスカの資金で物件を所有。しかし賃料収入などを全く申告していなかった。ソトイチの情報により、16年夏以降、国税当局が法人税法違反の疑いで1年以上の長期にわたって査察に入っていた。
甘い汁を吸った日本人
実はJ社にはラブロフもデリパスカも知らない“秘密”があるという。 「ビジネス面ではラブロフの愛人が采配を振っていたようですが、J社の実務を取り仕切っていたのは日本人女性のIです。代表のMは“雇われ社長”のようなもので、実権は主にIが握っていた」と話すのは同社関係者。
Iはラブロフが青山ハウスに立ち寄った際の食事の手配や、箱根好きのデリパスカが来日した際に彼の子供をディズニーランドに連れて行くなどの世話も担当していたという。
「J社の運営資金はデリパスカが出していましたが、Iは日本人スタッフの人件費やハイヤー代などをバレないように水増し請求。他にも自身が香港に作ったペーパーカンパニーにコンサル料名目でカネを振り込ませ、海外での不動産購入代金に充てていた」(同)
国税のマルサが入った時、すでにIはマレーシアに移住していたため追及は免れたという。アルミ王のカネで甘い汁を吸ったのはラブロフばかりではなかったというのだ。
12人の売春婦
真相を確かめるため、マレーシアの自宅に電話してIに質問したが、 「コメントは差し控えさせていただきます」 と言って、通話は一方的に切られた。
スタッフの日本人女性にまんまとカネをくすねられたとしても、デリパスカにとっては目くじらを立てることではないのかもしれない。なにしろ純資産2600億円超という。ナワリヌイ・レポートに〈18年、デリパスカが12人の売春婦を連れてヨット旅行に行った〉という常識外れの豪遊がスクープされており、アルミ王のあり余る資金力がうかがい知れる。
同レポートはロシアの独立系メディアが公表した調査報道記事を参照している部分があり、その引用元の記事には、ラブロフは〈6億円以上の高級不動産を所有〉する一方で、愛人のポリャコーヴァは〈モスクワ中心部の高級住宅〉のほか、〈ソチの高級リゾート地に建つアパートメント〉なども所有し、資産総額はラブロフを上回るとされる。
年収は13億円超
そしてラブロフ以上に財を成したとされるのが、ロシア国営石油大手ロスネフチCEOのイーゴリ・セーチンだ。“ロシアのダース・ベイダー”と畏怖されるセーチンは、プーチンと同じ情報機関出身と噂され、副首相も務めたプーチンの側近中の側近である。
年収は13億円を超え、モスクワ郊外に70億円の大邸宅を建てたほか、〈妻の名前を付けた1億5千万ドル相当のクルーザーを購入〉したことなどがナワリヌイ・レポートで報じられている。しかし、その豪華クルーザーも今月、押収されたという。
「修理のため南仏の港に停泊中だったところをフランス当局に押収されました。セーチンは他にも、アフリカなどで大型獣を狩るトロフィーハンティングが趣味とされ、キリンやライオンを撃ったとの“伝説”も持つ。
実際、会社のパートナーに狩猟で殺した動物で作ったソーセージを好んで贈ることはよく知られています」(前出・特派員)
元防衛大学校教授で、国際問題研究家の瀧澤一郎氏が話す。 「ロシアの権力者が取る行動はだいたい皆、似通っています。モスクワ中心部に高級マンションを所有し、同時に田舎に何万坪もある宮殿のような別荘を建てる。さらに3千トン級のヨットを持ち、妻や愛人は毎週のようにパリやロンドンに行って買い物三昧……。
西側諸国の人間から見れば腐敗と映るでしょうが、帝政時代の全体主義から共産主義のソレへと移行した後にソ連崩壊を迎えた彼らにとって、健全な市民社会や統治のありようなどは理解できない代物なのです」
「週刊新潮」2022年3月31日号 掲載