国連のアントニオ・グテーレス事務総長は26日、ロシア・モスクワを訪問し、ウラジーミル・プーチン大統領と会談した。グテーレス氏はロシアが侵攻を続けるウクライナにおける民間人の避難の必要性を訴え、プーチン氏は侵攻の正当性を主張した。両氏は民間人の避難に国連が関与することで合意したとされる。
一方、ドイツが方針を転換し、ウクライナに戦車を供与することが同日、明らかになった。 会談でグテーレス氏はプーチン氏に対し、ウクライナ侵攻は国連憲章に完全に背くものだと伝えた。
グテーレス氏は会談後、記者団に対し、ウクライナの人道面での状況を深く憂慮していると説明。人道回廊の設置について調整するため、ウクライナ、ロシア、国連による新たなグループを発足させたいと話した。
一方、関係者によると、プーチン氏は会談でウクライナ侵攻の正当性を長々と訴えた。同時に、「私たちはまだ外交チャンネルを通して和平が実現できると期待している」と述べた。
また、トルコ・イスタンブールで最近あった協議で「事態の打開」がみられたものの、ウクライナ・ブチャでの民間人虐殺の報道があったことで頓挫(とんざ)したと示唆。虐殺があったとするのは「挑発」であり、「ロシア軍は無関係だ」と述べた。
プーチン氏はさらに、和平に向けた協議はオンラインで継続され、前向きな結果になることを望んでいるとした。ただし、2014年に併合したクリミアとセヴァストポリ、およびロシアが支援する分離独立派が8年間にわたってウクライナ軍と戦闘しているドンバス地方の領土問題をめぐって何らかの決定をせずに、ウクライナの安全を保証することはできないと述べた。
■マリウポリの避難をめぐっては
国連の報道官によると、会談でグテーレス氏は、ロシア軍が包囲しているウクライナ南東部マリウポリのアゾフスタリ製鉄所に取り残されている、民間人の避難について取り上げた。
プーチン氏は、国連と赤十字国際委員会が避難に関与することに「原則として」同意したという。 今後、国連人道問題調整室(OCHA)とロシア国防省の間で詳細を詰める予定だと、報道官は説明した。
関係者の話では、プーチン氏はアゾフスタリ製鉄所について、ウクライナ兵が民間人を「人間の盾」にしていると主張。ロシア軍は民間人の脱出を妨げてはいないと述べたという。 ロシアはこれまでも「人間の盾」について同様の主張をしている。
BBCはこれを裏付ける根拠を確認していない。 プーチン氏はマリウポリの現状を「複雑かつ悲劇的」だと表現。ロシア軍はすでに作戦を実行していないと付け加えた。
■ドイツがウクライナに戦車を提供へ
ドイツにある米軍のラムシュタイン空軍基地で26日、ウクライナへの軍事支援に関する国際会議が開かれ、40カ国が参加した。 北大西洋条約機構(NATO)加盟国に加え、非加盟国の閣僚が出席。ウクライナに対する軍事および財政面での支援について話し合った。
アメリカのロイド・オースティン国防長官は会議後の記者会見で、ドイツがゲパルト対空戦車50両と訓練をウクライナに提供すると発表。「ウクライナに真の能力を提供することになる」とし、「重要な動き」だと述べた。 ドイツにとって、戦車の提供は大きな方針転換となる。これまでは、紛争地帯に重火器を送ることには反対だった。
オースティン氏はまた、ウクライナがロシアに勝利するよう「全力を尽くす」と宣言。「ウクライナは明らかに自国が勝利できると信じており、ここにいる全員も同じだ」と述べた。 同氏によると、この国際会議は今後も月1回のペースで開き、ウクライナがロシアの侵攻から自国を守るために何が必要か協議するという。
■ドンバスで激しい戦闘続く
ロシアと国境を接するウクライナ東部ドンバス地方では、26日も激しい戦闘があった。 ルハンスク州のセルヒイ・ハイダイ知事は、厳しい状況ながら、ウクライナ軍がロシア軍を相手に「前線を維持している」とBBCに話した。
同知事によると、ウクライナ軍は過去24時間でロシアの攻撃を6回撃退した。ロシア軍による砲撃が続いており、多くの死傷者が出ているという。 一方で、同州の町クレミンナがロシアによって制圧されたと認めた。
州内の多くの都市では、電気や水、食料の供給が途絶え、基本インフラも「完全に破壊」されるなど、状況は「危機的」だという。 また、住民は全員、安全な地域への避難が勧告されており、連日、安全な時間を見計らって避難が実施されていると、知事は話した。
■ヘルソンを「解放」とロシアが発表
ロシア国防省は26日、ウクライナ南部の都市ヘルソンをロシア軍が「解放」したと明らかにした。ロシアのインタファクス通信が伝えた。 BBCはこの発表を独自に検証できていない。
ただ、この地方のウクライナ軍関係者は同日、ロシア軍がヘルソンの行政や市議会のトップを指名したと述べていた。
この関係者は通信アプリのテレグラムに、「昨日、占領者がヘルソン市議会を占拠し、ウクライナのシンボルをすべて撤去した。そして警備員を入れ替えた」と投稿した。
同市のイホル・コリハイェウ市長は、ロシア軍が指名した行政官への協力を拒むと、フェイスブックで表明。「私はヘルソンにとどまり、1年半前にこの市の運営を任せてくれたヘルソンの住民たちと一緒にいる」と書き込んだ。
■ロシアがガス供給を停止
ポーランドの国営天然ガス会社PGNiGは26日、ロシアがポーランドへのガス供給を27日朝に停止する予定だと発表した。
ロシア国営の天然ガス大手ガスプロムは、3月31日に発表した新しい支払いルールで、「非友好国」は支払いを自国通貨ルーブルで行わなくてはならなくなったとし、供給停止は正当だと主張した。
PGNiGはルーブルでの支払いを拒否している。 PGNiGは、ガス輸入の大部分をガスプロムに依存している。 だが、今回の供給停止でポーランド国内の供給が直ちに脅かされることはないとみられる。
PGNiGによると、地下のガス貯蔵所は8割近く満たされているほか、季節が夏になることもあり、ガスの需要は小さい。 また、ポーランドには代替供給源もある。バルト海沿岸に液化天然ガス(LNG)のターミナルがあるほか、ドイツとチェコからもパイプラインが延びている。
この発表から間もなく、ブルガリア政府も、ガスプロムが27日から同国へのガス供給を停止する予定だと発表した。
ロイター通信によると、ブルガリアのエネルギー省は住民に対し、ガス供給の代替確保のために手段を講じており、現時点でガス消費の制限は必要はないと伝えたと説明したという。 ガスプロムは、ブルガリアとの現行の契約に違反する新たな支払い方法を提案したとされる。
■モルドヴァへの支持を表明
ウクライナの隣国モルドヴァの、親ロシア派が支配するトランスニストリア地域ではここ数日、爆発が相次いでいる。
これを受けてウクライナ外務省は、モルドヴァの領土保全を支持するとともに、ロシアがこの地域の不安定化を図っているとして同国を非難。ロシアが同地域をウクライナに対する戦争へと引きずり込もうとしていると示唆した。
ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領顧問は、「ウクライナは確実にこの地域の戦略的安全保障を確保する。だが私たちはチームとして動く必要がある」とツイートした。
ロシア軍はトランスニストリア地域で、1990年代初頭から分離主義者と共に戦闘を続けている。
(英語記事 Live Reporting)