令和4年4月1日に実施された「繰下げ上限年齢の引上げ」の制度改正。
これにより、繰下げ可能年齢の上限がこれまでの70歳から75歳に引き上げられた。
繰下げ増額率の算出に用いる待機月数の上限は5年(60ヵ月)から10年(120ヵ月)、繰下げ増額率は最大42%から84%になった。
この制度改正は、高齢期の就労の拡大等を踏まえ、年金受給権者が自身の就労状況等にあわせて年金受給の開始時期を選択できるようにすることを目的に導入された。
また、繰下げ上限年齢の引上げに伴い、翌年(令和5年4月1日)には、受給権発生から5年経過後に繰下げ申出を行わず、本来請求を行った場合、本来請求を行った日の5年前の日に繰下げ申出があったものとみなされ、増額された年金を受け取ることができる制度「特例的な繰下げみなし増額」が導入されました。
そして、この2つの制度改正後、繰下げした場合のメリットなど、いろいろと説明されてはいるが、これに伴うデメリットなどもあり留意しなければならない点がある。
1⃣2つの制度改正の適用対象になる人
以下のいずれかに該当する人が対象となる。
・昭和27年4月2日以降生まれの人
・受給権発生日が平成29年4月1日以降の人
これ以外の人は、従来通り、繰下げ月数の上限が60ヵ月で、繰下げ増額率は最大42%のままとなる。
2⃣老齢基礎年金繰下げのときの留意点
老齢基礎年金を繰下げした場合、原則65歳から加算される振替加算も繰下げ支給されるときからしか加算されず、かつ、繰下げ増額はされないため、繰下げした期間、支給されなくなるだけとなる。
なお、振替加算は、昭和41年4月1日生まれ以前の人しか加算されず、加算額もあまり多くないが。
3⃣老齢厚生年金繰下げのときの留意点
①加給年金や子の加算が加算される場合
65歳から加給年金、あるいは子の加算が加算される場合、繰下げ支給される時からしか加算されず、かつ、繰下げ増額はされないため、繰下げした期間支給されなくなるだけとなる。
また、繰下げ受給した時に、配偶者が65歳に達していたり、子が18歳年度末に達していれば、加算もされず、すなわち、全く支給されないというケースも出てくる。
②遺族厚生年金が発生する場合
繰下げ請求すると、請求月の翌月分から繰下げ増額率に応じた加算額が加算される。
しかし、その後、当人が死亡し遺族厚生年金が配偶者に支給される場合、遺族厚生年金の基本額は、報酬比例部分の4分の3になるが、繰下げによる加算額は計算の基礎にはされない。
すなわち、繰下げしてもしなくても遺族厚生年金の基本額は同じであり、繰下げによる加算額は遺族厚生年金額には反映されない。
③遺族厚生年金の受給者も繰下げしていた場合
配偶者が死亡し遺族厚生年金の受給権が発生した人が、繰下げした老齢厚生年金を受給していた場合、老齢厚生年金に繰下げ加算額が加算されているが、遺族厚生年金との支給調整が行われ、調整が行われる金額には繰下げ加算額も含めて行われる。
すなわち、繰下げしていた場合、遺族厚生年金の減額が多くなり、繰下げしなかった場合の方が繰下げ加算額分だけ遺族厚生年金は多くなる。
④繰下げ待機中に死亡した場合
5年以上繰下げ待機しているときに死亡し、遺族が未支給年金を請求する場合、「特例的な繰下げみなし増額」は適用されない。
そのため、5年分の未支給年金が支給され、5年以上前の本来支給されるべき年金は支給されないことになる。
⑤80歳以降に年金請求した場合
「特例的な繰下げみなし増額」は適用されない。
このため、75歳に達した日に繰下げ申し出があったものとみなされ、繰下げ増額された年金の5年間分が支給され、年金の支給を受ける権利が時効消滅している期間(5年以上前の期間)の年金については、受け取れない。
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