8月、阪神百貨店梅田本店(報道によると8月8日時点で145名)、阪急百貨店梅田本店(同8月16日時点で89人)、伊勢丹新宿店本館(同8月4日時点で81人)、そのほか、東武百貨店宇都宮本店、ルミネ各店舗など、デパ地下などの食品売り場やテナントで大規模なクラスターが起こったというニュースが多くあった。
8月2~9日までの8日間だけで、東京や大阪など7都道府県で、5人以上の感染者が報告された百貨店は23店舗あったという。
換気が難しい地下のバックヤードなどの環境や、声を出しての接客などいくつかの要因があるとの報道や、伊勢丹を除いては、会社がそれ以上の感染拡大を防止するために積極的なPCR検査を実施して、短期に感染者を特定したせいで、多数の感染者が判明したことによるらしい。(伊勢丹新宿店が取引先の外部社員に事実上の「PCR検査阻止令」を行ったとかっていうスクープがあったが…)
ところで、コロナの職場クラスターは労災になる可能性がある。
「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」(
https://www.mhlw.go.jp/content/000797792.pdf)により、「調査により感染経路が特定されなくとも、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められる場合」には、これに該当するものとして、労災保険給付の対象とするとされている。
「(ア)複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務」に該当するからだ。
新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)
問1 労働者が新型コロナウイルスに感染した場合、労災保険給付の対象となりますか。
業務に起因して感染したものであると認められる場合には、労災保険給付の対象となります。
また、新型コロナウイルス感染症による症状が継続(遷延)し、療養や休業が必要と認められる場合にも、労災保険給付の対象となります。
請求の手続等については、事業場を管轄する労働基準監督署にご相談ください。
(職場で新型コロナウイルスに感染した方へ(リーフレット))
新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)
問5 「複数の感染者が確認された労働環境下」とは、具体的にどのようなケースを想定しているのでしょうか。
請求人を含め、2人以上の感染が確認された場合をいい、請求人以外の他の労働者が感染している場合のほか、例えば、施設利用者が感染している場合等を想定しています。
なお、同一事業場内で、複数の労働者の感染があっても、お互いに近接や接触の機会がなく、業務での関係もないような場合は、これに当たらないと考えられます。
業務に起因して新型コロナウイルスに感染した労働者の方やそのご遺族の方は、正社員、パート、アルバイトなどの雇用形態によらず、次のような保険給付を受けられる。
〇療養補償給付(新型コロナウイルスに陽性となった後の入院費や治療費、病院から提供される食事代等については、公費負担となるが、市町村民税の所得割額を合算した額が56万4千円を超える人は、入院費や治療費等において、月額2万円を上限に自己負担となる。また、感染の可能性がなくなった日(隔離解除後)以降継続して入院される場合の費用や、通院等の費用は自己負担となるが、労災になると自己負担はない。)
①労災指定医療機関を受診すれば、原則として無料で治療を受けることができる。
②やむを得ず労災指定医療機関以外で治療を受けた場合、一度治療費を負担してもらい後で労災請求をすることで、負担した費用の全額が支給される。
〇休業補償給付
療養のために仕事を休み、賃金を受けていない場合、給付を受けることができる。
■給付日:休業4日目から(休業3日までは事業主が6割負担する)
■給付額:休業1日あたり給付基礎日額の8割(特別支給金2割含む、なお労災を使わずに健康保険の傷病手当を使ったとしたら、標準報酬日額の3分の2しかもらえないのでこの差は大きい)
*原則として「給付基礎日額」は発症日直前3か月分の賃金を暦日数で割ったものです
〇遺族補償給付
業務に起因して感染したため亡くなった労働者のご遺族の方は、遺族補償年金、遺族補償一時金などを受け取ることができる。⇒これがもっとも重要❗
さらに、労災と認定されて休業する期間およびその後30日間は、会社は解雇できないと法律で定められているので「雇用が保護される」ってことも重要。
厚生労働省が公表している「新型コロナウイルス感染症に関する労災請求件数等」を見ると、自分の手元にあった今年の7月21日のと、最新の9月10日で見てみると、「卸売業、小売業」の労災請求件数は、9月10日は311件(うち死亡10件)で、7月21日の243件(うち死亡4件)から、68件しか増えていない。(死亡が6件も増えているのは悲しい)
ということは、前述の8月の百貨店などでのクラスターのほとんどが労災の手続きがなされていないようだ。
労災の申請って、会社がやってくれなくても労働者個人で申請ができる。
会社が労災を認めないのであれば,労働基準監督署に直接行って,労災申請の相談をすることができるし、会社が,申請書類の事業主証明欄に署名押印をしてくれないのであれば,会社の証明なしでも労働基準監督署に提出でき,労働基準監督署に提出をすれば労働基準監督署が職権で調査をしてくれる。
私生活での感染経路が特定できなくて、今回の職場クラスターで感染したとしか考えられないという方は(遺族も…😭)、是非、労災申請をやってみるべきだ。
ただ、企業があえて労災隠しをしているとは思いたくないが、根本的にコロナ労災がメリット制の対象から除外されていないということは大きな課題ではある。
新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて
1 労災補償の考え方について
本感染症については、従来からの業務起因性の考え方に基づき、労働基準法施行規則別表(以下「別表」という。)第1の2第6号1又は5に該当するものについて、労災保険給付の対象となるものであるが、その判断に際しては、本感染症の現時点における感染状況と、症状がなくとも感染を拡大させるリスクがあるという本感染症の特性にかんがみた適切な対応が必要となる。
このため、当分の間、別表第1の2第6号5の運用については、調査により感染経路が特定されなくとも、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められる場合には、これに該当するものとして、労災保険給付の対象とすること。
2 具体的な取扱いについて
(1)国内の場合
ア 医療従事者等
患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事する医師、看護師、介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となること。
イ 医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定されたもの
感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合には、労災保険給付の対象となること。
ウ 医療従事者等以外の労働者であって上記イ以外のもの
調査により感染経路が特定されない場合であっても、感染リスクが相対的に高いと考えられる次のような労働環境下での業務に従事していた労働者が感染したときには、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断すること。
この際、新型コロナウイルスの潜伏期間内の業務従事状況、一般生活状況等を調査した上で、必要に応じて医学専門家の意見も踏まえて判断すること。
(ア)複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務
(イ)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務