よしーの世界

好きな神社仏閣巡り、音楽、本、アートイベント情報を中心にアップします。

旗本夫人が見た江戸のたそがれ   深沢秋男

2021-10-21 06:48:56 | 
幕末近く、天保の改革(1841年~43年)の頃を生きた井関隆子という人物の56歳から60歳までの日記で

すが、これが本当に面白い!まず井関隆子は読書家で絵も描き(これが見事!)歌も詠み創作もしている

才女でした。そして再婚した井関家では当初多忙な暮らしだったと思われますが、夫が亡くなってからは

子や孫に慕われ非常に裕福な家だった為に悠々自適な生活を送っています。


何しろ、子の井関親経(ちかつね)は十一代将軍徳川家斉の正室・広大院(松の殿)の掛を長年勤めてい

ますし、孫の親賢(ちかかた)は家慶の小納戸(将軍側近の職)ですから家は裕福ですし、大奥からの下

され物も多い。さらに子も孫も血が繋がらないながら、隆子を大事にし城中のことを直接話したり、時に

はメモ書きにして事細かに伝えていたようです。このため日記には当時の徳川家の様子が細大漏らさず、

批評も込めて書かれています。(江戸時代は早婚ですから子も孫も年が近い)


さらに井関隆子が大変なお酒好きだったことが、日記に豊かな情緒を加えています。月見や花見では子や

孫に家族、親戚まで交えて酒盛りをして楽しんでいます。隆子は薄の花が好きで庭には薄をはじめ様々な

花が咲いています。


日記には天保の改革の世間に与えた影響が書かれていて皮肉を加えたり、水野忠邦に対しての批評もあり

ます。家斉の没日の真相や大奥の火災の記録も体験した子や孫の話から詳細に伝えています。ドナルド・

キーン氏も日本人の日記について感嘆を込めて称賛していますが、井関隆子の日記は日本の歴史上重要な

もので、尚且つ非常に楽しめるものです。


旗本夫人が見た江戸のたそがれ       深沢秋男     文藝春秋
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする