プロパガンダとは「政治的な意図に基づき、相手の思考や行動に(しばしば相手の意向を尊重せず
して)影響を与えようとする組織的な宣伝活動」のことである。という解説で始まる。元々プロパ
ガンダという言葉は「宣伝」という意味でしかなかったのが、今は「政治的な宣伝、とりわけ公的
な機関が自分たちに都合のいいように民衆を誘導しようとする類の宣伝活動を指すことが多くなっ
ている」という。プロパガンダの例で有名なモノがナチ・ドイツのこわもてなイメージがあるが、
ここでは特に「楽しさ」をめざして作られてきた世界中のプロパガンダを列挙している。
日中戦争の当時、陸軍・清水盛明中佐は「宣伝は楽しくなければならない」としてコメディアン古
川緑波(ロッパ)を起用して、2時間の喜劇の中に5分時局宣伝をさせたという例を上げている。そ
して座談会にはサクラを仕込んでおいて、他では聞けない「特ダネ」を用意しておくという。知ら
ず知らずに国策を浸透させる、という方法を解説してる。「お笑い」を利用し、ポップスとして「
軍歌」を消費し、「アニメ」を使う。これらは官民協働で生み出されたものだ。民衆の嗜好を知り
尽くしたエンタメ産業が、政府や軍部の意向を忖度しながら、営利のために作り上げていった。
さらにソビエト連邦、ナチ・ドイツ、今のロシアとウクライナ、北朝鮮、中国、新興宗教団体と続
いていくが、所謂「右傾エンタメ」問題、2015年の自民党・若手国会議員たちが「文化芸術懇話会
」で新聞を統制するため、広告収入に介入するなどとの問題発言が相次いだことを取り上げている。
ロシアのウクライナ侵攻に続いて、イスラエルのガザ地区攻撃が連日報道され、日本も浮足立ち、
軍備拡張が声高に叫ばれているが、軍拡では紛争が終結に至らない事は歴史的に明白だ。日本の大
手マスコミも政府発表のみをただ垂れ流すのではなく、現実を直視し、冷静な議論をする土台造り
をしていく必要がある。
楽しいプロパガンダ 辻田真佐憲 イースト新書Q