犬と鬼 アレックス・カー

ここまで徹底的に日本の現状を批判した本を読んだのは初めてだ。著者は日本文化に精通し、古民

家を再生し、外見は古きよきものを残しながら住みやすさも追及する工夫を紹介している。京都の

町屋再生事業を手がけ、講演、執筆、コンサルティングなど幅広い活動を通して日本の景観、自然

環境、公共事業によるダメージを訴えている。沢山の事業に関わることで、さらに日本の危機を痛

感したのだと思う。


近代化を推進してきた日本の失敗には「実」がないと著者は看破する。あらゆる公共事業、文化活

動があまりにも表面的で上辺だけのものになってしまったと言う。これは広範囲に及び、国民に幸

せをもたらすことが無い。自然は人工化され自然災害は頻繁に起こるようになり、空港は使用者の

利便性が悪く収益を生み出せず、コンサートホールや美術館の箱モノだけが増え続け利用者がほと

んどいない事態が生じる。


これらは最近数十年に起きている。そして今も続いている。このことに反論出来る政府関係者は皆

無だろう。今の政治家に日本の将来に対するビジョンがあるように思えない。今起きていることを

国民は知らなければならない。しっかり声を上げなければ日本に明るい未来はない。その為に選挙

がある。本書のようなものを読んで現実認識をしてほしい。


犬と鬼　　　　　　アレックス・カー　　　　　　　　　　講談社学術文庫