筑波山の地質
関東平野の北東部にそびえ立つ筑波山は、裾野を引いた姿の美しさから紫峰とも呼ばれ、
和歌にも詠み込まれるなど古くから知られている山である。
日本百名山の一つにも数えられていまる。
最近では、日本地質百選にも選ばれた山である。
出典:『筑波山地質見学ガイド』産業技術総合研究所
筑波山は よく火山と間違われるが、実はマグマが地下深くで固まった深成岩でできている山である。
筑波山の山頂部は斑れい岩、周囲は花崗岩でできている。
花崗岩は風化に弱くぽろぽろ崩れるため、風化に強い斑れい岩の部分がとりのこされた。
斑れい岩には割れ目が多くあり、大きく割れて奇岩を作る。
筑波山の裾野は土石流などで流された斑れい岩の大石でできている。
2万年くらい前には筑波周辺にもナウマン象などが歩いていた。
このころ地球の気候は最終氷期という寒い時期だった。
筑汲山頂をつくる斑レイ岩
筑波山は、西側の男体山(871m)と東側の女体山(877m)の二つの峰からなっている。
筑波山の山頂付近は斑レイ岩でできている。
斑れい岩は風化に強く雨風で削られにくいため、周辺より高い山頂を作っている。
斑レイ岩は、一般に黒っぽい色をした深成岩の一つである。
筑波山の斑レイ岩は、およそ7干5百万年前に地下約10㎞の深さでマグマがゆっくり冷えてできた。
その後隆起して、上に乗っていた岩石が削られると、上から押さえつけられていた力が抜ける。
その時できた多くの割れ目(摂理)がこのような岩石の景色を作る。
この斑レイ岩には、3方向の摂理がある。
摂理に沿って直方体に割れた筑波石は庭石などに利用される。
女体山の山頂付近には大仏岩① やガマ石② など多くの奇岩が見られる。
つくば市発行の筑波山ガイド紫季彩に記されている。
③ 立身石
立身石は親鸞聖人がここに苦しむ餓鬼を救ったと言われる伝説や、
江戸時代に間宮林蔵が測量を学ぶ前にこの石に出世を祈願したとも言われている。
この石には③のように層状構造がさらにくねくね曲がっているのが見られる。
この層ごとに鉱物が違い、風化されやすさが違うため凹んだり浮き出したりしている。
筑波石独特のざらざらした模様もこのような風化によってできる。
斑レイ岩の層状構造
④ 男体山
男体山の山頂付近には角閃石斑レイ岩やかんらん石斑レイ岩が見られ、
これらは ④の様に層状の構造を持っている。
このような層状の構造はマグマが冷えて固まるときの流れを示している。
山腹に分布する花崗岩
筑波山の山腹には、花崗岩が分布している。
花崗岩は、斑れい岩と同じ深成岩(マグマが地下深くでゆっくり固まった岩石)の仲間であるが、
斑レイ岩よりも白っぽい色をしている。
これは斑レイ岩に角閃石や輝石、かんらん石など黒っぽい鉱物が多いのに対し、
花崗岩は石英や長石など白っぽい鉱物が多いためである。
筑波山周辺の花崗岩は約6干万年前に固まった。
筑波から笠間にかけて花崗岩が見られるが、
これらは筑波山周辺の筑波花崗岩、笠間周辺の稲田花崗岩そして加波山周辺の加波山花崗岩に分けられ、
この順番にできた。
⑤ 筑波山梅林お花崗岩
筑波山梅林の林道で花嵩岩が観察できる⑤。
花崗岩は風化されやすく、手でもぼろぼろくずれる。
このような砂のように風化をした花崗岩を真砂と言う。
筑波山の花崗岩は1度にできたのではない
⑥は、筑波花崗岩と加波山花崗岩の境である。
筑波花崗岩に入った石英の岩脈を加波山花崗岩がきっているところから、
加波山花崗岩が後からできたことがわかる。
⑦ 白滝
白滝⑦ は筑波山の山麓近くにある落差約15m、2段の滝である。
この滝の場所には閃緑岩の岩脈がある。
閃緑岩は斑レイ岩と花崗岩の中間的な性格で花崗岩より風化に強いためこのような落差ができた。
筑波山梅林を歩くと筑波石の巨岩がごろごろしている。
木道を歩いて展望あずまやに登ると、眼科に梅林、田園風景や筑波学園都市を見下ろすことができる。
筑波山梅林のごろごろした巨岩は斑レイ岩⑧である。
筑波山頂付近の斑レイ岩には、割れ目(摂理)が多く見られる。
この摂理で大きく割れて大岩ができる。
この大岩が何百年に一度おこる土石流で流れ下って、この穏やかな斜面を作っている。
裾野をつくる巨礫
⑧ 筑波山梅林の緩斜面体積物
⑨ つくば市神郡より北方に筑波山をみる。
⑨は、筑波山を南から眺めたものと、男体山の山頂付近から眺めたものである。
山頂付近は急傾斜ですが、筑波山神社周辺から緩やかな傾斜になっている。
その末端は臼井まで続きます⑩。
この緩やかな傾斜の部分こそ土石流がたまったところなのです。
近年でも1938年7月の集中豪雨、1947年9月のカスリン台風、
1979年10月の台風20号に伴う豪雨で筑波山や加波山周辺で土石流が発生している。
⑩ 立身石から南方を見る
〔緩斜面堆植物の恵み〕
緩斜面堆積物は土石流災害を起こす一方で、この緩斜面堆積物は地下水をよく通す。
筑波山に降った雨はいったん森に蓄えられ、緩斜面堆積物の間にしみこみ地下水となる。
そして斜面の末端で豊富な湧水となって水の恵みをもたらす。
この湧水が古くから筑波山の文化を支えてきた。
⑪ 古鬼怒川の礫層
⑪は、祓橋から桜川に降りた川原のがけである。
筑波山から下りて桜川沿いには安山岩や流紋岩の丸い石が多く見つかる。
ここの川原の石は約3万年前に鬼怒川の上流から運ばれてきたものである。
筑波山の花崗岩や斑レイ岩はあまり見られない。
花崗岩は風化して真砂になりやすく、斑レイ岩はこの大きさの石になりにくからである。
⑫ 鹿沼軽石層(石岡市宇治会)
石岡市八郷の宇治会などでは、鹿沼軽石が見られまる⑫。
これは3万2千年前に赤城山が噴火した時の軽石を含む火山灰が西風に流され、
降り積もったものである。
この火山灰層は園芸用の土として利用されている。
氷河期以降の筑波山周辺
寒冷化が進む前の約3万年前まで鬼怒川は今より東側を流れ桜川を通って太平洋に流れていた。
また、3万2千年前には赤城山が犬噴火を起こし、筑波山周辺にも火山灰が降り積もった。
その後約2万年前に地球は最も寒くなった。
寒冷な気候で生育するブナは筑波山周辺の平野にも生育していた。
その後の縄文時代は今よりも温かく、ブナは北へ追いやられてしまった。
このころには鬼怒川は西に移動し桜川は現在のように小さな川になっている。
現在では筑波山系のブナ林は標高700mより高いところにのみ残っている貴重なものである。
これは、温暖化によってブナは分布する範囲を狭められ、山頂付近にのみ残っている。
筑波山のブナ林
筑波山には標高700mより高いところに寒地性のブナ林が見られる。
これは茨城県で最南端のブナ林で、筑波山頂にのみ孤立している。
〔我が国の活火山〕
我が国には110の活火山がある。
気象庁では、気象庁本庁(東京)及び札幌・仙台・福岡の各管区気象台に設置された
「火山監視・情報センター」において、これらの活火山の火山活動を監視している。
筑波山は活火山ではないので、常時監視の対象外である。
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【参照文献】
『筑波山地質見学ガイド』(産業技術総合研究所 地質標本館 2008年5月)
気象庁発表資料