説得の成否を左右する対人距離
コ三ュニケーションは言葉だけではない。身体の動き、しぐさでもコミュケーションが行われている。
他人に近づかれると不快に感じる空間をパーソナルエリア、対人距離とも呼ばれる。
一般に、親密な相手ほど対人距離は狭く、ある程度近付いても不快さを感じないが、逆に敵視している相手に対しては広い。
人によっては距離に関わらずストーカーなど視認できるだけで不快に感じるケースもある。
この対人距離は、説得の成否に影響する。
〔対人距離の4つの分類〕
アメリカの文化人類学者のエドワード・T・ホールは、パーソナルスペースを4つのゾーンに大別し、それらをさらに近接相と遠方相の2つに分類した。
その空間については、概ね次のとおりである。
インパクトが強い“接近戦”、直談判が人を動かす
がまの油売り口上の実演に力が入るか否かは、観客の多寡やその反応に、多分に影響を受ける。
ゴールデンウイークや秋の行楽シーズンなど老若男女、家族連れなど多くの人で賑わうときの実演は、観客の熱いまなざしに応え演技に力が入る。
演技に観客の気持ちがのってくる。
と同時に口上士もその観客の熱いまなざしに応えて、演技に力がはいる。
反対に同じ場所で演技をしても、観客が一人か二人といった閑散な場合は、なんとなく醒めた雰囲気が漂う。
観客が口上士を“動かしている”からである。
人が目の前にいる、ということが、人の気持ちを動かす。
人が人に衝撃を与える。どのようなときにこのインバクトが強くなり、相手の人を動かすことができるのだろうか。
これをまとめたのが、「杜会的インパクトの理論」(Latane,B.,1981)である。
それによると、インパクトImpの強さを決める要因として、
●影響源の地位や社会的地位、つまり 強度 S
●影響源との空間的、時間的接近つまり 直接性 I
●影響源の数 N の3つである。
個人が受ける社会的インパクト(Imp)はこれら3要素の相乗関数
Imp=f(S×I×N) として定義される。
〔影響源の強度〕
この「社会的インパクトの理論」の衝撃3要因は、照明と手元の明るさとの関係で説明できる。
手元の明るさというのが衝撃の強さ、つまり実際に人を動かす力である。
影響源の強度は太陽の明るさに例えると、曇っているときの太陽よりも快晴の太陽の方が手元が明るくなる。
つまり、影響源の強度が強ければ、それだけインパクトが大きくなり、より人を動かすことができる。
権威を持っている人、社会的地位の高い人、他を圧倒する実力を持つ人、魅力的な人などは、そうでない人よりも相手の人を強く動かすことができる。強い”パワー”、カリスマ性がある人は、人を強く動かすことができる。
〔直接性〕
太陽の光が強くても、日没、夜間と太陽が没してしまえば、新聞は読めなくなる。
太陽が没しても、ろうそくの光で手元を照らせば新聞が読める。
このように、強い力やカリスマ性が無くても、相手にぴったりとつき、面と向かい、行動すれば、相手へのインパクトは、強力なパワーを持っている人に劣らず強い衝撃を与える。
人にものを頼むとき電話でお願いするよりも、一対一で直談判したほうが、相手に対するインパクトは強い。
人が自分の考えや意思を相手に伝えるには、相手との目の距離が30cm~50cmの間になった時が、もっともよく伝わるようである。
そして、そのときの条件としては、いつもの半分の声で話すことである。
観客との距離を調整しながら演技をすることが、相手を制する。
さらに、相手に触れる、触れさせるという最接近の方法も衝撃的方法の一つである。
(赤い血が)ぴたりと止まった!
ごらんの通り!
〔影響源の大きさ・数〕
60ワットの電球でも3つけると180ワットになり、100ワットの電球一つよりも手元が明るくなる。同じようにガマ口上を演ずる者の力量・・・・演技力、人間力、場数等の総合した力量をもって迫真の演技をすると強いインパクトを与える。
がまの油売り口上を演技するのは口上士一人であるが、観客が多く、反応があればあるほど口上士の演技に熱が入る。口上士を動かし迫真の演技を迫るからである。
観客の数・反応が、“影響源”として存在するからである。
演ずる者、見る者との間の”掛け合い”が生ずるようになれば訴える力も倍加する。
迫真の演技がインパクトを与える
「杜会的インパクトの理論」からいえることは、人を動かすためには、強いパワーをもち、相手の人に近づき直接、接すしたりうったえることが有効であるといえる。
つまり、口上を演じ観客(の心)を強く “動かす” ためには、気迫充溢、自信満々で、観客に近づき、直接、訴えるような演技が有効であるといえる。
ほら!ぴたりと止まったでしょう! 本当に止まったのけー?
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