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伝統芸 型を守り持ち味発揮
日本舞踊の人間国宝認定者で、85歳の現在も一線で活躍する西川扇蔵、長男箕乃助、長女の祐子の親子が、2013年9月20日午後6時半から東京・三宅坂の国立劇場でリサイタルを開いた。それに先立って読売新聞が掲載したインタビュー記事である。
【無形文化財】
芸能、工芸技術等の無形の「わざ」そのものを指すが、その「わざ」はこれを高度に体得している個人または団体が体現する。そして、日本国政府はこのような「わざ」のうち重要なものを重要無形文化財に指定するとともに、その「わざ」を体現する個人または団体を保持者または保持団体に認定する。
【人間国宝】
人間国宝は、日本の文化財保護法第71条第2項に基づき同国の文部科学大臣が指定した重要無形文化財の保持者として各個認定された人物を指す通称である。重要無形文化財保持者を指して人間国宝と呼ぶ通称が広く用いられている。
【記事から抜粋】
●「親子3人が各自の昧を発揮する。宗家西川流十世宗家としてその規範を示し続けている。」
・・・・・・・・各自の持ち味を発揮、規範を示し続けていく。
●「僕らの仕事は続ける、後世につなげる、多くの人に日舞を知ってもらう、ということに尽きる」と扇蔵。高齢だが顔色は良く、声に張りもある。「生まれた時から舞踊の仕事を続け、体に踊りが入っている。だから大変だ、苦労しているという思いを抱いたことがない」と言って笑う。
・・・・・・・・後世につなげる、多くの人に日舞を知ってもらう、ということに尽きると扇蔵。
●扇蔵「振りは一切変えない」と断言する。「変えてしまうと自己流になってしまう。自分を殺し、若い頃に教わった振りをそのまま続けることが、自分の気付かなかった良い面を出すことがある」と話す。
"クリエイティブ"という言葉が氾濫する中で、伝統を守る姿勢は一貫する。
・・・・・・・・変えてしまうと自己流になる、自分の気付かなかった良い面を出す。
●「父が振り付けた西川流の財産。笑わせようと意識すると、父が常々言う。品の悪いものになる。型のある中で、いかに面白い踊りにできるか」と箕乃助。
・・・・・・・・笑わせようと意識すると、父が常々言う。品の悪いものになる。
●祐子は、「初めての踊りだが、父が目を光らせてくれている中、幼少時からの自分の積み重ねを信用して模索を続ける」と意欲を示す。
・・・・・・・・幼少時からの自分の積み重ねを信用して模索を続ける。
●扇蔵は「20代の第1回から皆勤だったので残念」と語るが、「内容の深いもので、年相応の踊りと思っている。過去の蓄積を生かす」と笑顔で抱負を語った。
・・・・・・・・内容の深いもので、年相応の踊り、過去の蓄積を生かす。
がまの油売り口上を演ずる者に必須な資質
芸が芸にとどまらず思索性も
「がまの油売り口上」(芸能、技芸)を単に売買のための単なる技術的な問題としてのみ捉えることをせず、「がまの油」を売る実生活的な面と技芸を一体的に捉えるべきであり、常住坐臥が“芸”を高めるための契機であり、修行である。
これを実践されたのが18代名人・岡野寛人さんであり、ホテル「江戸屋」の大女将である19代・吉岡久子さんである。2人の口上の演技には倫理性、道徳性がそのまま“芸”に表れているがゆえに、見る者は、芸の向上は同時に人格の向上であると受けとめることができる。
また、伝承芸能には、言葉に表せないこと、説明できない身体の動き(「暗黙知」、経験や勘に基づく知識のことで、言葉などで表現が難しいもの)を体得しなければならない。
このため直接の師弟関係が重要な意味を持っているのであり、技芸の水平方向的なひろがりよりも垂直方向的なつながりを優先しなければならない。このような考え方は、芸という観念の確立、心境や境地を特に重視する芸術観の尊重、芸系のたしかな伝承、芸が芸にとどまらず思索性を持つことによる内容の深化などの効果をもたらす。
単に口上を演ずるだけでな、内面的、思索性などが演技から感じ取られることが、がまの油売り口上を演ずる者が具備すべき必須の事といえる。
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