11月24日付けの本ブログで、「社会保障改革論議その1」と題して政府与党内で進められている社会保障制度改革論議の主なテーマをご紹介しました。その際に、医療・介護制度について、下記のようにご紹介しています:
「医療・介護WTは、来年の診療報酬・介護報酬のダブル改定に向けた議論が中心。要は、それぞれ引き上げるべきか、現状維持か、引き下げるべきかという議論です。政府内では、財務省を中心に引き下げるべきという意見も強いのですが、民主党は昨年の2010マニフェストでも「引き続き引き上げをめざす」と明記しており、厳しい財政の中でもやはり引き上げを目指すべきだという意見が大勢です。
医師不足や偏在の解消、介護職の処遇改善など、引き上げによって実現すべき課題が大きいと考えるからですね。私もこの立場です。」
先週金曜日(12月16日)に、民主党「厚生労働部門会議」が開催されて、あらためてこの診療報酬・介護報酬のダブル改定についての議論が行われ、特に診療報酬の改定率について激論になりました。
すでに、医療・介護ワーキングチーム(WT)の提言を受けて、厚生労働部門会議としては「前回改定(0.19%プラス改定)を下回らない水準で、ネットプラス改定とすべき」という意見書を政府に提出しています。ネットプラス改定というのは、診療報酬を構成するうちの「薬価」についてはマイナス改定でもやむを得ないけれども、診療報酬本体はプラス改定にすべきで、合計でプラスの改定になるようにすべきだ、という意味です。
しかし現状は大変厳しい議論になっていて、財務省は、先般行われた政策提言型事業仕分けの結論(マイナス改定すべき)や、デフレで物価が下落している状況なども踏まえて、薬価については大幅マイナス、診療報酬本体についてもマイナスを主張しています。これに対して厚生労働省は、医療再生のためには診療報酬本体の引き上げは絶対に必要と譲っていません。
・「診療報酬改定:決着見えず 厚労・財務相が会談へ」(毎日.jp 2011.12.18)
金曜日の厚生労働部門会議には、いつもの4倍ぐらいの数の議員が出席して、それぞれ診療報酬改定に向けた意見を述べました。ほとんどが、「絶対にネットプラス改定を勝ち取るべし」という立場で、その多くは「マニフェストで引き上げを約束している」「野田総理も代表選挙の時にマイナスはないと明言している」「医療崩壊を食い止めるためには何としても引き上げが必要だ」という意見でした。
先般のブログでも述べている通り、私も基本的には診療報酬本体は引き上げられるべきだと考えています。しかし、部門会議では、「少し冷静になって、中立的な立場から発言したい」と言って以下のような趣旨で意見を述べました。
- 診療報酬のプラス改定を勝ち取ること自体が目的であってはいけない。私たちの目標は、全ての国民に安心・安全の医療を確保することである。そのために(1)医師不足や偏在の解消を含めた地域医療の再生、(2)小児科や産婦人科など厳しい状態にある診療科の再生、(3)勤務医や看護師などの労働条件・環境の改善、などを確実かつ早期に進めなければならない。それが出来るか否かこそが問われなければならず、財務省はマイナス改定でもそれが出来るというならそれを示して欲しいし、厚労省はプラス改定しなければ出来ないというならそれを示して欲しい。また、仮にプラス改定しても、増収分が別の目的で使われてしまったら全く意味がないので、もっと具体的な中身の議論が必要だ。
- 診療報酬の引き上げによって、市町村の国民健康保険や企業の健康保険組合の支払い負担や、患者さんの自己負担分も大きくなることを忘れてはいけない。すでに多くの国保や健保組合が財政危機に瀕しており、これ以上の負担増は深刻な影響を及ぼす。患者さんにしても、自己負担額が増えることで受診抑制が生じ、かえって病状を悪化させて医療費を増大させる結果につながる可能性もある。それでもやはり引き上げが必要なら、引き上げによる医療充実のメリットを明確に提示するとともに、財政的に厳しい保険者や患者への支援も併せて検討すべきではないか。
つまりこの問題も、単に診療報酬を引き上げるか否か、ということだけで考えられる問題ではないのです。やはり、社会保障の全体像と給付のあり方、そして税や社会保険料という負担のあり方をセットでしっかりと考えないといけないわけですね。
ちなみに、今週号の週刊東洋経済(2011年12月24-31日新春合併特大号)に、「二極化激しい米国社会、3人に一人が貧困層に」という記事が載っていて、そこにはこんな米国社会の現状が報告されていたので紹介します。
「米メディアによれば、雇用主の下で従業員が入る医療保険の年間保険料は、4人家族の場合、2010年の1万3770ドル(約107万円)から今年は1万5073ドル(約118万円)へと上昇。雇用主の負担率も年々低下し、今では75%を下回っている。
それでも保険に入れればいいほうだ.....米世論調査会社ギャラップによれば、雇用主の下で保険に入る人は下降の一途で、今年第3四半期には44.5%にまで落ち込んだ。
定職がなければ、保険は高嶺の花だ。たとえばニューヨーク・マンハッタンの場合、個人加入の「月額保険料」は、単身でおおよそ1100ドル(約8万6千円)から3320ドル(約26万円)。4人家族だと、3100ドル(約24万円)から8460ドル(約66万円)である.....2010年の保険未加入者は、前年より90万人増え、全米で4990万人に達した。2000年からの10年で1300万人増えたことになる。」
米国では、昨年3月にオバマ大統領のイニシアチブで医療保険制度改革法が成立していますが、2014年の完全実施までにはまだかなりの紆余曲折が予想されますし、そもそもこの法律によってどの程度問題が解決されるのか定かではありません。しかし、国民の6人に一人が無保険で、重い病気にかかったら自己破産するしかないような状態を放置していていいはずがなく、米国政府の真摯な取り組みを応援したいと思います。
そして私たちは、何としてもこの日本が誇るべき素晴らしい国民皆保険制度を守らなければなりません。急速に進む少子高齢化の中でいかにこの制度を守っていくか、守ることが出来るか、それをみんなで真剣に考える必要があります。私は、かねてから主張している通り、全ての国民が負担力に応じて社会に貢献して、社会全体でお互いを支え合う仕組みを強めていくしかないと思っています。社会保障と税の一体改革、もう待ったなしです!