皆様こんばんは。
著書「やさしく語る 碁の本質」が、ついに発売されました!
全国の書店等や通販でご購入頂けます(電子書籍版もあります)。
私の元にも無事到着し、各所へ発送しています。
ところで、著書に関して、当ブログ読者の皆様にお願いしたい事があるのですが・・・それはまた後日ですね。
明日(木)は棋士の手合日ですし、明後日(金)は王座戦第3局です。
そして、まだ今月の日本棋院情報会員のPR記事を投稿していません。←今気付きました
さて、本日は第57期王冠戦挑戦手合一番勝負の模様をご紹介しましょう。
伊田篤史八段が見事羽根直樹王冠を破り、王冠を獲得しました!
伊田八段らしい、力で押しまくる1局だったと思います。
なお、この対局は幽玄の間にて、下島陽平八段の解説付きで中継されました。
色々な意味で面白い解説です(笑)。
そちらもぜひご覧ください!

1図(実戦黒51~白52)
伊田八段の黒番です。
右下は、黒の仕掛けからできる型です。
力自慢御用達で、山下敬吾九段が愛用している事は有名です。
若手では、芝野虎丸三段がよく打っているイメージがあります。
伊田八段も力自慢ですから、こういう型は好きでしょうね。
色々な変化がありますが、白が黒△を取り、黒が右辺に勢力を築く展開になりました。
ここで黒1は、下辺白と黒△の攻め合いに持ち込む狙いです。
白はそれを避けるため、白2とケイマに進出しました。
しかし隙のある形なので、できれば黒としては、分断してしまいたい所です。

2図(変化図)
では、分断するにはどうすれば良いでしょうか?
こういう形でプロが真っ先に考えるのが、黒1のツケコシです。
ケイマにツケコシの格言通りですね。
所謂、筋が良い分断の仕方です。

3図(続・変化図)
しかし白11まで、黒が取られてしまいます。
筋良く切る手は成立しない状況でした。
しかし、そこで諦める伊田八段ではありません。

4図(実戦黒53)
実戦はなんと、黒1!
白Aと押さえれば、黒Bと切ろうとしています。
黒は所謂空き三角の形であり、愚形の代表です。
筋が悪い切り方と言えます。
しかし、こういう所で躊躇しないのが伊田八段です。
筋や形が悪かろうと、とにかく分断してしまえば良いと判断しました。
なるほど、打たれてみればこれは強烈です。
慎重な棋風で知られる羽根九段も、これには意表を衝かれました。

5図(実戦白54~黒59)
実戦は白1と1回緩めましたが、黒2には白3と押さえなければ、1図白2とケイマした手の顔が立ちません。
序盤から未知の戦いに突入しました。
そして白5に対して、黒6!
またしても空き三角の筋悪攻撃です!(笑)
形が悪くても、下辺の白6子を取ってしまえば関係ないと言っています。
これまた、伊田八段らしい力強さですね。

6図(実戦白74)
手順が進み、白△とツケられた場面です。
黒Aなら白Bなどと打ち、黒△の動きが不自由になります。
黒△の形の悪さを衝いて来られました。

7図(実戦黒75)
しかし、ここで黒1が弾力のある好手です。
黒AとBを見合いにしています。
ここまで筋悪攻撃で押しまくってきた伊田八段、筋の良い所もアピールしました(笑)。

8図(変化図)
白1から黒4子を攻めて来ても、黒4まで問題なく繋がります。
黒△が、予めAの傷を守っています。

9図(実戦白76~黒79)
実戦は白1と押さえ、黒4までとなりました。
隅でしっかり生き、白Aには相変わらず黒Bで大丈夫です。
伊田八段、際どい状況も頑張り抜きました。

10図(実戦白90)
白△と当てられた場面です。
黒Aと繋ぐのは悔しく、かといって黒Bとコウを仕掛けても、勝てる見込みがありません。
一昨日題材にした私の碁の1図と同じ状況と言えます。

11図(実戦黒91)
という訳で、実戦は第3の選択、手抜きでした。
黒1が堂々の伸びです!
私の碁では「コウ立て作り」が出てきましたが、これは「コウ立て消し」ですね。
この黒に対する、白からのコウ立てを予め消した手です。
もちろん、この手の価値はそれだけではありません。
形の悪さを改善し、周囲の白の薄みを睨んでいます。

12図(実戦黒97)
黒2も同様にコウ立て消しです。
左上の黒を強くして、白からのコウ立てを消しています。
そして白3を待ってから、黒4とコウを仕掛けました!
黒6のコウ立てに対して、白Aと受けたいのですが、黒B以下大量のコウ立てができます。
一方黒△や黒2が働き、白からのコウ立ては乏しい状況です。

13図(実戦白98~黒99)
という訳で、白1とコウを解消したのは止むを得ません。
黒は左辺を連打する事ができました。
それにしても、黒2とは!
自ら頭をぶつけに行く手で、これも筋が悪いとされます。
しかし、伊田八段があえてこう打ったのは、とにかく確実に白を分断しようという事です。
確かに打たれてみれば、これで白は苦しい状況になっています。
伊田八段らしさ溢れる、力強い一着でした。
苦しい状況からの粘りは、羽根九段が得意とする所です。
黒に決め手を与えず頑張りましたが、伊田八段、がっちり勝ち切りました。
持ち味をよく発揮した、伊田八段の充実を感じる一局でした。
著書「やさしく語る 碁の本質」が、ついに発売されました!
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私の元にも無事到着し、各所へ発送しています。
ところで、著書に関して、当ブログ読者の皆様にお願いしたい事があるのですが・・・それはまた後日ですね。
明日(木)は棋士の手合日ですし、明後日(金)は王座戦第3局です。
そして、まだ今月の日本棋院情報会員のPR記事を投稿していません。←今気付きました

さて、本日は第57期王冠戦挑戦手合一番勝負の模様をご紹介しましょう。
伊田篤史八段が見事羽根直樹王冠を破り、王冠を獲得しました!
伊田八段らしい、力で押しまくる1局だったと思います。
なお、この対局は幽玄の間にて、下島陽平八段の解説付きで中継されました。
色々な意味で面白い解説です(笑)。
そちらもぜひご覧ください!

1図(実戦黒51~白52)
伊田八段の黒番です。
右下は、黒の仕掛けからできる型です。
力自慢御用達で、山下敬吾九段が愛用している事は有名です。
若手では、芝野虎丸三段がよく打っているイメージがあります。
伊田八段も力自慢ですから、こういう型は好きでしょうね。
色々な変化がありますが、白が黒△を取り、黒が右辺に勢力を築く展開になりました。
ここで黒1は、下辺白と黒△の攻め合いに持ち込む狙いです。
白はそれを避けるため、白2とケイマに進出しました。
しかし隙のある形なので、できれば黒としては、分断してしまいたい所です。

2図(変化図)
では、分断するにはどうすれば良いでしょうか?
こういう形でプロが真っ先に考えるのが、黒1のツケコシです。
ケイマにツケコシの格言通りですね。
所謂、筋が良い分断の仕方です。

3図(続・変化図)
しかし白11まで、黒が取られてしまいます。

筋良く切る手は成立しない状況でした。
しかし、そこで諦める伊田八段ではありません。

4図(実戦黒53)
実戦はなんと、黒1!

白Aと押さえれば、黒Bと切ろうとしています。
黒は所謂空き三角の形であり、愚形の代表です。
筋が悪い切り方と言えます。
しかし、こういう所で躊躇しないのが伊田八段です。
筋や形が悪かろうと、とにかく分断してしまえば良いと判断しました。
なるほど、打たれてみればこれは強烈です。
慎重な棋風で知られる羽根九段も、これには意表を衝かれました。

5図(実戦白54~黒59)
実戦は白1と1回緩めましたが、黒2には白3と押さえなければ、1図白2とケイマした手の顔が立ちません。
序盤から未知の戦いに突入しました。
そして白5に対して、黒6!
またしても空き三角の筋悪攻撃です!(笑)
形が悪くても、下辺の白6子を取ってしまえば関係ないと言っています。
これまた、伊田八段らしい力強さですね。

6図(実戦白74)
手順が進み、白△とツケられた場面です。
黒Aなら白Bなどと打ち、黒△の動きが不自由になります。
黒△の形の悪さを衝いて来られました。

7図(実戦黒75)
しかし、ここで黒1が弾力のある好手です。
黒AとBを見合いにしています。
ここまで筋悪攻撃で押しまくってきた伊田八段、筋の良い所もアピールしました(笑)。

8図(変化図)
白1から黒4子を攻めて来ても、黒4まで問題なく繋がります。
黒△が、予めAの傷を守っています。

9図(実戦白76~黒79)
実戦は白1と押さえ、黒4までとなりました。
隅でしっかり生き、白Aには相変わらず黒Bで大丈夫です。
伊田八段、際どい状況も頑張り抜きました。

10図(実戦白90)
白△と当てられた場面です。
黒Aと繋ぐのは悔しく、かといって黒Bとコウを仕掛けても、勝てる見込みがありません。
一昨日題材にした私の碁の1図と同じ状況と言えます。

11図(実戦黒91)
という訳で、実戦は第3の選択、手抜きでした。
黒1が堂々の伸びです!
私の碁では「コウ立て作り」が出てきましたが、これは「コウ立て消し」ですね。
この黒に対する、白からのコウ立てを予め消した手です。
もちろん、この手の価値はそれだけではありません。
形の悪さを改善し、周囲の白の薄みを睨んでいます。

12図(実戦黒97)
黒2も同様にコウ立て消しです。
左上の黒を強くして、白からのコウ立てを消しています。
そして白3を待ってから、黒4とコウを仕掛けました!
黒6のコウ立てに対して、白Aと受けたいのですが、黒B以下大量のコウ立てができます。
一方黒△や黒2が働き、白からのコウ立ては乏しい状況です。

13図(実戦白98~黒99)
という訳で、白1とコウを解消したのは止むを得ません。
黒は左辺を連打する事ができました。
それにしても、黒2とは!
自ら頭をぶつけに行く手で、これも筋が悪いとされます。
しかし、伊田八段があえてこう打ったのは、とにかく確実に白を分断しようという事です。
確かに打たれてみれば、これで白は苦しい状況になっています。
伊田八段らしさ溢れる、力強い一着でした。
苦しい状況からの粘りは、羽根九段が得意とする所です。
黒に決め手を与えず頑張りましたが、伊田八段、がっちり勝ち切りました。
持ち味をよく発揮した、伊田八段の充実を感じる一局でした。