白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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趙名誉名人、勝利!

2016年11月19日 23時59分59秒 | AI囲碁全般
皆様こんばんは。
本日、第2回囲碁電王戦三番碁第1局が行われました。
タイトル獲得数74のレジェンド、趙治勲名誉名人と、国産囲碁AIソフト「DeepZenGo」の対決です。

「AlphaGo」が現れた時、いずれ人間の棋士は、AIに太刀打ちできなくなる事が明らかになりました。
しかし、それはあくまで将来の話です。
今はまだ対等に戦えるのですから、勝ちに行かなければいけません。
人間の底力を見せるには、今しかないのです。

趙名誉名人も、この勝負には並々ならぬ意気込みで臨んだ事でしょう。
七大タイトル戦の舞台からは長い間遠ざかっていますが、久しぶりに勝負師・趙治勲の姿を見た気がします。
結果は見事に黒番中押し勝ちを収め、初戦を飾りました。



1図(実戦黒9)
左上の構えを趙名誉名人が打っている所は、初めて見ました。
凌ぎの達人として知られていますが、基本的には突飛な手は打たない、じっくりタイプです。
また、布石も碁盤の前に座ってから考えるタイプです。

しかし、あえて布石の型を決めて来ました。
この段階にして、本気で勝ちに行っている事が分かります。





2図(実戦黒29)
右上黒△で白の根拠を奪って攻め、右下でも黒△と入って、右辺の白を攻めようとしています。
このあたりは、概ね作戦通りの展開でしょう。

超早打ちモードでしたが、それも後半のために、持ち時間を節約するための作戦でしょう。
長考派で知られる趙名誉名人ですが、タイトル戦で追い詰められた時など、絶対に勝ちたい1局では早打ちモードに入る事があります。
本局には、そのぐらいの重みを感じていたという事でしょう。





3図(実戦白30~白36)
白1から動きましたが、隅の石が痛んでしまうので、多くのプロはこの打ち方を考えません。
黒が良さそうに見えます。





4図(実戦白38~白40)
しかし、白1、3となってみると、右辺の黒が苦しくなっています。
どうやら、白に一本取られてしまいました。
こういった勢力重視の打ち方は、AIが得意とする所です。





5図(実戦白56)
黒への攻めによって、右辺の白が強くなりました。
また、白△の詰めも痛烈です。
右上の黒を脅かしています。





6図(実戦黒57~白68)
右上の黒が閉じ込められてしまいました。
ぎりぎり生きているかどうか、という形になっています。

しかし、ともあれ白12には、黒Aと逃げるしかないと思われました。
何しろ「ポン抜き30目」です。
普段の対局なら、間違いなくそう打ったでしょう。
しかし、ここで趙名誉名人、初めて長考に入りました。





7図(実戦黒69)
なんと、黒Aと逃げずに、黒1の切り!
普通は白Aと抜かれて「論外」という手ですが、黒Bと伸び、白三子を大きく飲み込もうという事でしょう。
取ってしまえば、右上黒を生きる手が必要無くなります。





8図(実戦白70~黒73)
という訳で、白もポン抜きではなく、白1の繋ぎでした。
少しでも上辺の戦いに響かせようという、実戦的な選択です。
それでも黒は、切った石を動き出していきました。





9図(実戦白74~白84)
黒10まで、白4子を取り、右上黒は安泰になりました。
黒成功かというと、そんな気はしません。
白11と入られて左上の構えが崩れ、形勢は悪化したように見えます。

しかし、趙名誉名人としては、承知の上での選択でしょう。
目一杯の打ち方をしなければ、勝機が来ないとみたのではないでしょうか。
それにしても、気迫の籠った打ち方です。





10図(実戦黒97)
趙名誉名人の気迫が、AIを狂わせた!
・・・そんな訳はありませんが、ここで白はポイントを失いました。

黒△とハネられ、死活の関係上、将来白△が抜けてしまいます。
すると白〇の石が無駄になり、黒Aの狙いも生じます。
趙名誉名人、これはいけると感じたのではないでしょうか。

以前、AIは死活やヨセで間違えないという趣旨の記事を書きましたが、どうやら間違っていたようです。
3図~4図のような、全体を見た打ち方が得意で、細かい所は苦手なのですね。





11図(実戦白104)
白△と、隙のある手で頑張って来られた場面です。
趙名誉名人は、まず黒Aと切る事から考えるタイプです。
今すぐかどうかはともかく、必ず切ると思っていました。





12図(実戦黒105~黒111)
しかし、黒1からおとなしく打って白6と繋がせ、黒7と右下の白を取り切りました。
明らかに優勢を意識した、逃げ切り作戦です。
趙名誉名人は、形勢に関わらず厳しい手を選ぶタイプです。
しかし、自分を抑えて勝負に徹しました。
この後色々ありましたが、ともかく大きな1勝を挙げました。

趙名誉名人が勝つと信じていましたが、しかし勝負は蓋を開けてみなければ分かりません。
勝ってくれて本当に良かったと思います。

1勝して気持ちに余裕ができたでしょうから、明日は派手な展開になるかもしれませんね。
趙名誉名人はインタビューで、「乱暴するかもしれない」と答えていました。
どんな碁を見せてくれるのか、楽しみですね。
明日も趙名誉名人の戦いを応援しましょう!